カテゴリー「Buckcherry」の17件の記事

2023年1月23日 (月)

BUCKCHERRY『BLACK BUTTERFLY』(2008)

2008年9月16日にリリースされたBUCKCHERRYの4thアルバム。日本盤は同年9月10日発売。

日本先行で2005年10月に発表され、北米では翌2006年4月に発売された前作『15』でしたが、同作から「Crazy Bitch」(全米59位)、「Sorry」(同9位)とヒットシングルが生まれたことで、アルバム自体もロングヒット。最高39位と順位的にはそこまで高くはないものの、売上的には最終的に200万枚を超えるセールスを残しています。

このヒットを受けて、アメリカでは2年5ヶ月ぶりとなる本作(日本ではほぼ3年ぶり)。新たなプロデューサーに、「Sorry」でコライトしたマーティ・フレデリクセン(AEROSMITHDEF LEPPARDMOTLEY CRUEなど)を迎えて制作され、前作の流れを汲む“新生BUCKCHERRY”らしい仕上がりとなっています。

マーティは「Tired Of You」や「Talk To Me」など全12曲中4曲で、ジョシュ・トッド(Vo)&キース・ネルソン(G)と共作。「Too Drunk...」(正しいタイトルは「Too Drunck To Fuck」)のような初期の彼ららしいいかがわしいロックンロールを含むものの、基本的には整合感の強い正統派スリージー/ハードロックが中心で、『15』からファンになったリスナーには入っていきやすい作りと言えるでしょう。

アルバム冒頭の「Rescue Me」からして、かなり毒気が抜けていることが伝わりますが、カッコよければ問題なしう。哀愁味を漂わせるミディアムナンバー「Dreams」や「Don't Go Away」、ワイルドさの伝わる「Talk To Me」や「A Child Called "It"」、初期の彼らのイメージを引き継ぎつつモダンにアップデートさせた「Fallout」、アーシーなアコースティックナンバー「All Of Me」、今や彼らのライブには欠かせないアンセムソング「Cream」と、どの曲も完成度は非常に高く、アルバムとしてのバランス感も非常に優れている。ただ、先にも書いたように毒気が薄まっていることで、初期からのファンには物足りなさを残してしまう懸念は否めません。ですから、BUCKCHERRYに何を求めるかで大きく評価が分かれる1枚かもしれませんね。

ただ、本作は配信/ストリーミングで聴くとインパクトが弱い印象を受けます。というのも、「Too Drunk...」がそのタイトルや歌詞の内容を理由にカットされており、代わりにDEEP PURPLEの代表曲「Highway Star」に差し替えられているのです。一応「Too Drunk...」は今作からのリードシングルなんですけど……。

なもんですから、一番パンチの強い曲が削られたことで、初期ファンからはさらに印象の薄い1枚になってしまったのではないでしょうか。僕も久しぶりにストリーミングで聴いて、その違和感に驚いたほどですから。なので、できることならリイシュー前の初盤を中古盤ショップで探してみることをオススメします。

 


▼BUCKCHERRY『BLACK BUTTERFLY』
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2021年6月23日 (水)

BUCKCHERRY『HELLBOUND』(2021)

2021年6月23日に日本先行リリースされたBUCKCHERRYの9thアルバム。海外では同年6月25日発売。

ジョシュ・トッド(Vo)、スティーヴィー・D(G)、ケリー・レミュー(B)に新メンバーのケヴィン・レントゲーン(G)、フランシス・ルイズ(Dr)を加えた新編成で“三度目のデビューアルバム”と呼ぶにふさわしい前作『WARPAINT』(2019年)を発表したBUCKCHERRY。今作が届けられる2年3ヶ月の間に、ケヴィンが脱退してしまい、新たにビリー・ロウ(G/ex. JETBOY)が加入してこの新作を完成させました。

レコーディングは2020年11月にナッシュビルで実施。プロデューサーには過去に4作目『BLACK BUTTERFLY』(2008年)を手がけ、最大のヒット曲「Sorry」(2007年)を共作したマーティ・フレデリクセンが担当。マーティは楽曲制作においても、ジョシュとスティーヴィーとともに大部分で共同執筆しており、その影響なのか前作での毒々しさが若干薄れた、メロウで聴きやすいロックンロールアルバムに仕上がっています。

全体的に非常に整理された感が強く、それも聴きやすさにつながっているのでしょう。90年代のAEROSMITHと黄金期のAC/DCがミックスされたかのようなグルーヴィーなロックチューンの数々は、大ヒット作となった3作目『15』(2005年)をより洗練させたように映ります。パンク風味の豪快なロックチューンがあるかと思えば、「No More Lies」のようないかがわしいファンクロックもあるし、ブルージーなミディアムナンバー「Wasting No More Times」、名曲「Sorry」にも匹敵するスローバラード「The Way」、レゲエテイストのリズムを取り入れた「Barricade」のような楽曲も存在し、思いのほかバラエティに富んでいる。だけど、全10曲36分があっという間に感じられるのは決して退屈なわけではなくて、それだけ馴染みやすい構成ということなのでしょう。

前作にあったえげつなさは皆無だけど、BUCKCHERRYらしさはしっかり存在している。数ある個性のどこをフィーチャーするかの違いでしょうけど、これはこれでありだと思いました。個人的に難を挙げるとするならば、楽曲の出来は申し分ないけど、これぞ!という問答無用にカッコいいギターリフが少ない気がするので、そこかなあ……この手のバンドにとっては死活問題だと思うんですが、どうでしょうか。

なお、日本盤はさらに2曲(「Don't Even Mention」「Cool With」)ボーナストラックを追加した、全12曲43分という程よいボリューム。ポップさ際立つ前者とダルなロックチューンの後者は……まあ“おまけ”といいったところでしょうか。ただ、前者は比較的出来が良いしアルバム本編にない色なので、これを含む全11曲39分という内容でもよかったんじゃないかという気がします。でも、昔ながらの10曲という構成も潔くていいけどね。

 


▼BUCKCHERRY『HELLBOUND』
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2021年4月27日 (火)

ALICE COOPER『WELCOME 2 MY NIGHTMARE』(2011)

2011年9月13日にリリースされたアリス・クーパーの26thアルバム(ALICE COOPERバンド名義を除くと19作目)。日本盤は2012年1月18日発売。

スタジオアルバムとしては前作『ALONG CAME A SPIDER』(2008年)から3年ぶりの新作は、1975年に発表された初のソロ名義アルバム『WELCOME TO MY NIGHTMARE』の続編にあたるもの。という話題性もあってか、復活作『TRASH』(1989年)の全米20位に次ぐ最高22位を記録しています。

プロデュースを手がけたのは、『WELCOME TO MY NIGHTMARE』でもタッグを組んだボブ・エズリン(KISSPINK FLOYDHANOI ROCKSなど)。今作での再共演を機に、以降の『PARANORMAL』(2017年)『DETROIT STORIES』(2021年)でもコラボが実現しています。

『THE LAST TEMPTATION』(1994年)でグランジという流行に乗りながら、自身のルーツを再確認することとなりましたが、続く『BRUTAL PLANET』(2000年)以降は良くも悪くも時流に乗ることだけに専念した感が強かったアリス。しかし、名盤の続編ということもあり(また、ボブ・エズリンと久しぶりのコラボというトピックも大きく影響し)、ここで本来の“らしさ”を完全に取り戻せたんじゃないでしょうか。70年代の彼らしい要素/楽曲が満載で、見方によってはセルフパロディになってしまっている箇所もあるものの、全体を通して聴けばそういった点も許せるくらいの、王道ショックロック・アルバムに仕上がっていると思います。

楽曲制作陣にはアリス/ボブに加えデズモンド・チャイルド、初期ALICE COOPER BANDのマイケル・ブルース(G)やデニス・ダナウェイ(B)、ニール・スミス(Dr)、さらにはBUCKCHERRY(当時)のキース・ネルソン(G)など多彩な面々が参加し、そういったオリジネーターやフォロワーたちが「俺たちが思う最強のアリス・クーパー像」をコンセプトに沿って作り上げている。さらに、ヴィンス・ギルやロブ・ゾンビ、ジョン・5、ケシャ(KE$HA)といったフィーチャリングアーティストが華を添えることで、単なる懐古主義で終わらせないモダンさを演出している。この絶妙なバランス感が、本作を現代的な作品として成立させているのではないでしょうか。

それくらいよく作り込まれた1枚だと思いますし、個人的には『THE LAST TEMPTATION』のあとに本作が発表されていたらもっと違った未来があったんじゃないか……と思わずにはいられません。まあ、10年以上におよぶ迷走があったからこそ、ここに再び戻ることができたわけですし、もっと言えばその後のHOLLYWOOD VAMPIRESや『PARANORMAL』以降の活動にもつなげることができたのかな。時間はかかったけど、必要な無駄だったのかもしれませんね(あ、2000年代の作品も決して駄作ではないですよ)。

70年代前半に築き上げたオリジナリティと80年代後半ならではのキャッチーさ、90年代〜ゼロ年代のガレージロックリバイバル感を程よいバランスでブレンドしつつ、2010年代にも通用する質感でまとめ上げた本作は、(あえてこう言わせてもらいますが)後期アリス・クーパー作品におけるひとつの金字塔だと言わせてください。

 


▼ALICE COOPER『WELCOME 2 MY NIGHTMARE』
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2021年2月22日 (月)

RICKY WARWICK『WHEN LIFE WAS HARD & FAST』(2021)

2021年2月19日にリリースされたリッキー・ウォリックBLACK STAR RIDERSTHIN LIZZY、ex. THE ALMIGHTY)の5thアルバム。

オリジナル・ソロアルバムとしては『WHEN PATSY CLINE WAS CRAZY & GUY MITCHELL SANG THE BLUES』(2014年)から約7年ぶり、カバーアルバム『STAIRSELL TROUBADOUR』(2015年)からも約6年ぶりの新作音源。その間にBLACK STAR RIDERSとして3枚のアルバムを制作しているので、まあ順当なスパンと言えるでしょう。

過去数作はリッキーがひとりで録音したプライベート感の強い作風でしたが、今作では元BUCKCHERRYのキース・ネルソン(G)がプロデュース&楽曲制作で参加。レコーディングにもギタリストとして参加したほか、同じく元BUCKCHERRYのザヴィエル・ムリエル(Dr)や、BLACK STAR RIDERSのロバート・クレイン(B)がバンド形態としてレコーディングに加わっています。また、ゲストプレイヤーとしてジョー・エリオット(Vo/DEF LEPPARD)、ルーク・モーリー(G/THUNDER)、アンディ・テイラー(G/ex. DURAN DURAN、ex. THE POWER STATION)、ディジー・リード(Key/GUNS N' ROSES)といった錚々たる面々が名を連ねており、リッキーの人脈の太さを改めて感じることができます。

が、そういったゲストの名前なしでも、本作はTHE ALMIGHTYからTHIN LIZZY、BLACK STAR RIDERSまでリッキーの活動を追ってきたリスナーに存分にアピールするクラシカルなハードロック作品に仕上がっており、特に近年のリッキー参加作品に心ときめかせてきた者なら誰もが一発で気にいる作品だと断言できます。基本的にはBLACK STAR RIDERSの延長線上にある、THIN LIZZYテイストの王道ブリティッシュハードロックが展開されておりますが、そこにキース・ネルソンのカラーが加わることで、初期THE ALMIGHTYを思わせる破天荒なパンクロックテイストの強い楽曲も存在。これらが良いバランスでミックスされることで、リッキーの約30年にわたる音楽活動の総決算とも言える内容になったのではないでしょうか。

リッキー自身は本作を「トム・ペティのようなシンプルなメロディに、JOHNNY THUDERS & THE HEARTBREAKERSの快楽主義的怒りを掛け合わせたもの」と描写していますが、その例えが本当にぴったりな1枚。モダンメタル期のTHE ALMIGHTYっぽさは皆無ですが、初期&末期の彼らやのちのTHIN LIZZY〜BLACK STAR RIDERSへの流れもしっかり踏まえられており、個人的にもかなりツボな仕上がり。中盤の「Gunslinger」「Never Corner A Rat」あたりはBUCKCHERRY的な側面もしっかり伝わるし、リッキー&キース両者の個性が良い形で反映された、見事なタッグ作ではないでしょうか。

UKらしい湿り気の強い王道ハードロックあり、軽快なパンクロックあり、内省的なアコースティックナンバーありと、聴き応え満点の1枚。かなりの高ポイントです。

なお、日本盤や海外盤デラックス・エディションのみ2015年発売のカバーアルバム『STAIRSELL TROUBADOUR』がボーナスディスクとして付属。こちらは「You Spin Me Round (Like A Record)」(DEAD OR ALIVE)、「Ooops!... I Did It Again」(ブリトニー・スピアーズ)、「Summertime Blues」(エディ・コクラン)、「I Don't Want To Grow Up」(RAMONES)、「I Fought The Law」(THE CLASH)、「Wrathchild」(IRON MAIDEN)などのカバーに加え、THE ALMIGHTY「Jesus Loves You... But I Don't」のセルフカバーという全10曲を収録。カントリータッチにアレンジされた「You Spin Me Round (Like A Record)」や原曲のイメージどおりの「Summertime Blues」、アコースティックアレンジで完全にブルースと化した「Wrathchild」など、1枚通して十分に楽しめる仕上がりです。

ただ、先の『WHEN LIFE WAS HARD & FAST』本編とは切り離して聴くべき1枚かなと。録音時期も相当ズレていますし、制作過程も参加メンバーもまったくことなるので、本当にオマケ程度で切り分けて考えてもらえればと思います。2枚合わせて考えてしまうと、こっちが足を引っ張る結果になりかねないので……。

 


▼RICKY WARWICK『WHEN LIFE WAS HARD & FAST』
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2020年11月14日 (土)

BUCKCHERRY『TIME BOMB』(2001)

2001年3月27日にリリースされたBUCKCHERRYの2ndアルバム。日本盤は同年3月14日に先行発売。

1999年という時代にスリージーでグラマラスなハードロックを展開したデビューアルバム『BUCKCHERRY』が中心に大きな注目を集めたBUCKCHERRY。本国アメリカでも最高74位(ゴールドディスク獲得)と新人ながらも大健闘を果たし、2000年のグラミー賞に「Lit Up」がノミネートされるほどの成功を収めました。特にここ日本では1999年末、大阪ドーム(現京セラドーム大阪)でのAEROSMITHMR. BIGのカウントダウンライブにオープニングくととして参加。2000年元日のZepp Tokyoを筆頭にジャパンツアーを敢行して好評を博しました。

1stアルバム完成後にヨギ(G)が加入し、初期のジョシュ・トッド(Vo)、キース・ネルソン(G)、JB(B)、デヴォン・グレン(Dr)という編成が完成。この5人で最初の最後のアルバムとなったのが、この『TIME BOMB』です。

前作ではテリー・デイトとSEX PISTOLSスティーヴ・ジョーンズがプロデュースを手がけましたが、今作ではジョン・トラヴィス(キッド・ロック、STATIC-Xなど)が担当。前作でのかっちり作り込まれた作風と比べると、若干ですがラフさが感じられる作りとなっており、それがこのバンドが持つパンキッシュさに良い形で作用していると思います。

また、楽曲自体も前作より“隙”が多く感じられるスタイルで、BUCKCHERRYスリージーでグラマラス、かつデンジャラスというこのバンドに対して抱くパブリックイメージを体現したナンバーがズラリと並びます。オープニングを飾る「Frontside」の性急さ、「Time Bomb」でのスリリングさはまさにその象徴と言えるでしょう。

そんな中に豪快なハードロックを展開する「Ridin'」や「Slamin'」、ポップで親しみやすいロックンロール「Slit My Wrists」、アコースティックベースのサイケバラード「Helpless」、ブルージーなスローバラード「You」のような前作の延長線上にある楽曲が加わることで、アルバム自体にも幅が感じられる。パンク/スリージー一辺倒では収まりきらない、ジョシュ&キースのソングライターとしての才能が遺憾無く発揮されています。デビュー作が気に入った方なら、本作も問題なく楽しめる内容ではないでしょうか。

見事な形でデビュー作からアップデートを遂げたBUCKCHERRYでしたが、同年夏にJBが脱退。同年10月のジャパンツアー後にはヨギ、デヴォンが相次いで脱退し、2002年になるとジョシュまでもがバンドを離れ、解散を余儀なくされるのでした。

各ストリーミングサービスがスタートして以降、なぜか本作のみ日本国内では配信されていません。それどころか、最近ではデビュー作と最新アルバム『WARPAINT』(2019年)以外のアルバムは配信サービスによって配信数がだいぶ異なる歯抜け状態に。すべてが傑作とは言いませんが、この手のサウンドが好きなリスナーには欠かせないバンドだけに、ぜひとも全カタログの解放をお願いいたいところです。

 


▼BUCKCHERRY『TIME BOMB』
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2020年10月18日 (日)

TOMMY LEE『ANDRO』(2020)

2020年10月16日にリリースされたトミー・リーMOTLEY CRUE)の3rdソロアルバム。日本盤未発売。

トミーのソロ名義による新作としては『TOMMYLAND: THE RIDE』(2005年)以来15年ぶりですが、別名義のMETHODS OF MAYTHEMをソロ作品としてカウントすれば『A PUBLIC DISSERVICE ANNOUNCEMENT』(2010年)以来10年ぶりのアルバムとなります。そう考えると、意外と出てないんですよね。

今回のアルバムに先駆けて、トミーは6月5日にまず「Knock Me Down」「Tops」という2曲のリードトラックを配信。この2曲はそれぞれにキルヴェイン、プッシュ・プッシュというヒップホップ系アーティストをメインゲスト(ボーカル&ラップ)に据え、トミー自身は(ボーカルやラップは交えつつも)ドラムやプロデュースに徹するにとどまっています。つまり、自身の個を強くアピールするよりも曲ごとにボーカルや(それに合わせて)音楽性が変わるという、作品性に強くこだわった内容に仕上がっています。

基本的にはMETHODS OF MAYHEM寄りのヒップホップ中心の作風で、ゲストアーティストもPAV4Nやショーティー・ホーロゥ、ミッキー・アヴァロン、ブルック・キャンディ、ムーン・バウンス、キング・エレ・ノワ、ルーカス・ロッシーなど国籍/性別もそれぞれ異なるヒップホップ/エレクトロ/ロック/SSWなどをフィーチャー。ベースを残しつつも、曲ごとに表情を変えていくその作風は1本芯が通っており、ボーカルの異なるオムニバス盤/プレイリスト風ではあるもののスルスルと聴き進めやすさや親しみやすさが備わっています。

先のリード曲2曲で免疫ができていたし、なによりトミーがソロ活動でロックやハードロック的なスタイルをやるとも思えないので(笑)、このスタイルは納得できるのですが、意外とエレクトロ色やR&B/ソウルのテイストが強めなのには驚かされました。元ROCK STAR SUPERSTARのフロントマン、ルーカス・ロッシーが歌う「Your Dancy」はどこかプリンスっぽさがあって「これ、いいじゃない」と思っていたら、そのプリンスの名曲「When You Were Mine」をルーカスのボーカルでカバーしているし。最初、このカバーの存在に気づいておらず、曲を聴き進めているうちに「あれ、この曲聴いたことあるな……あ、プリンスだ!」と気づかされたくらい、この流れに馴染んでいます。

アルバムはタイラ・ヤーウェとポスト・マローンのコラボ作にトミーがドラムで参加した「Tommy Lee」で締めくくり(ストリーミング版には未収録)。そういえばトミーとポスト・マローン、過去にも共演していますものね。納得の組み合わせですが、自身の名前を冠したこの曲がラストなんだと思うと、やっぱりこの人の我の強さを実感させられます(笑)。

なお、アルバムにはこのほかBUCKCHERRYジョシュ・トッドも「Hot Fudge Sundae」にフィーチャーされていますが、彼はボーカルではなくナレーションでの参加。ハードロックリスナーは過剰な期待をしないように。

というわけで、アルバム自体はHR/HMからかなりかけ離れた内容ですが、「このへんのジャンルも多少は聴くよ」というリスナーにはとっつきやすい1枚ではないでしょうか。僕はかなり気に入っており、リリース日以降移動中に聴きまくっております。

 


▼TOMMY LEE『ANDRO』
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2020年1月12日 (日)

祝ご成人(1999年4月〜2000年3月発売の洋楽アルバム20選)

新成人の皆さん、おめでとうございます。2014年度に初めて執筆したこの“洋楽版成人アルバム”企画、今年で6回目となります。毎年この時期にこの企画をやることで、温故知新というよりは「自分の20年前の音楽ライフはどんなだったか」を思い返す上で非常に重要なコンテンツになりつつあります。

しかも、前回(1998年4月〜1999年3月)から当サイトの前身サイトがスタートした時期(1998年12月)と被っていることもあり、選出時いろいろ感慨深いものがあったりするのですから、長く続けてみるものですね。

さて、企画説明です。この1月に成人式を迎えたの皆さんが生まれた年(学年的に1999年4月〜2000年3月の期間)にリリースされた洋楽アルバムの中から、個人的思い入れが強い作品のうちSpotifyやApple Musicで試聴可能なものを20枚ピックアップしました。

でも、どれも名盤ばかりですし、もしまだ聴いたことがないという作品がありましたら、この機会にチェックしてみてはどうでしょう。特に、現在20歳の方々は「これ、自分が生まれた年に出たんだ」とかいろいろ感慨深いものがあるような気もしますし。ちなみに、作品の並びはすべてアルファベット順です。(2014年度の新成人編はこちら、2015年度の新成人編はこちら、2016年度の新成人編はこちら、2017年度の新成人編はこちら、2018年度の新成人編はこちらです)

 

AC/DC『STIFF UPPER LIP』(2000年2月発売)(Spotify)(レビュー

ATARI TEENAGE RIOT『60 SECOND WIPE OUT』(1999年5月発売)(Spotify)(レビュー

BUCKCHERRY『BUCKCHERRY』(1999年4月発売)(Spotify)(レビュー

THE CHEMICAL BROTHERS『SURRENDER』(1999年6月発売)(Spotify)(レビュー

CIBO MATTO『STEREO☆TYPE A』(1999年6月発売)(Spotify

D'ANGELO『VOODOO』(2000年1月発売)(Spotify

THE DILLINGER ESCAPE PLAN『CALCULATING INFINITY』(1999年9月発売)(Spotify

DISTURBED『THE SICKNESS』(2000年3月発売/US)(Spotify)(レビュー

THE FLAMING LIPS『THE SOFT BULLETIN』(1999年5月発売)(Spotify

FOUNTAINS OF WAYNE『UTOPIA PARKWAY』(1999年4月発売)(Spotify)(レビュー

 

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2019年3月 8日 (金)

BUCKCHERRY『WARPAINT』(2019)

BUCKCHERRY通算8作目のオリジナルアルバム。前作『ROCK 'N' ROLL』(2015年)から3年半ぶりの新作で、本作から新たにCentury Media Recordsでのリリース(日本ではソニーから発売)。バンド編成も大きな変革があったあとの1作目ということで、ある種“三度目のデビューアルバム”とも言えるでしょう。

ご存知のとおり、前作リリースから2年ほど経った2017年春にジョシュ・トッド(Vo)とともにバンド創世記から活動してきたキース・ネルソン(G)と、再結成後からバンドを支えてきたイグザビエル・ムリエル(Dr)が相次いで脱退。こうして第2期BUCKCHERRYはあえなく解体となってしまうわけです。

その後、ジョシュとスティーヴィー・D(G)は別プロジェクト・JOSH TODD & THE CONFLICTとしてアルバム『YEAR OF THE TIGER』(2017年)を発表。BUCKCHERRYにあったパンキッシュな要素を強めたそのサウンドは、『ROCK 'N' ROLL』での“バック・トゥ・ルーツ”的路線に刺激を感じなかったリスナーには高く評価されたのではないでしょうか。

こういったガス抜きを経て、ジョシュ&スティーヴィーにケリー・レミュー(B)という前作までのメンバーに加え、ケヴィン・レントゲーン(G)&フランシス・ルイズ(Dr)という布陣にて制作されたBUCKCHERRY名義での新作は、原点回帰とも言える“毒々しさ”と“いかがわしさ”が混在した良作に仕上がっています。オープニングの「Warpaint」こそ1曲目にしてはインパクトが弱いものの、以降はヘヴィな「Right Now」やNINE INCH NAILSのカバー「Head Like A Hole」などアクが強い曲や、彼ららしいレイドバックしたバラード「Radio Song」などが続きます。

正直、本作からのリードトラック「Head Like A Hole」が初公開されたときはその選曲センスに「?」となりましたが、こうやってアルバムの中の1曲として聴くと実はまったく違和感なく楽しめるという。しかも、この1曲がアルバム内で非常に重要な役割を果たす“必要不可欠なピース”だったことに気づかされるわけです。

かと思えば、前作での経験もしっかり活かされた「Backdown」やど直球のパンクチューン「No Regrets」もあるし、豪快な「The Devil's In The Details」などとにかく曲者勢揃いといった印象。海外盤は全12曲で44分程度というコンパクトな内容ですが、日本盤のみそこに3曲追加。こちらにはTHE TIMEのカバー「Jungle Love」や、「Kamikaze」と題された疾走チューンなどが含まれており、正直「こっちをアルバム本編に入れたらよかったのに」と思うものもあったり。全15曲、トータル53分と若干ボリューミーとなり1曲1曲のインパクトが薄まる印象が無きにしも非ずですが、このバンドはこれくらいでもいいのかなと。

ただ、問題点がゼロというわけではありません。1曲1曲と取り上げるとアクが強いものの、アルバムとして通して聴くと意外とサラッと聴けてしまう。つまり、アルバムというまとまった形になるとインパクトが弱まるという、不思議な現象が生じているのです。

その理由も何度か聴いて気づいたのですが、これまでの作品に感じられた「ボーカルとギターがグイグイ引っ張る感」のうちギターのパワーが弱まっているからじゃないかなと。ミックスのせいも多少は関係しているでしょうけど、これまでのアルバムの中でもそのパンチが一番弱いんですよね。良い曲が多いだけに、そこだけがすごく勿体ないと思いました。



▼BUCKCHERRY『WARPAINT』
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2019年3月 2日 (土)

MARK MORTON『ANESTHETIC』(2019)

2000年代を代表するUSヘヴィロック/ヘヴィメタルバンドLAMB OF GODのギタリスト、マーク・モートンによる初のソロアルバム。全10曲すべてが歌モノで、それぞれ異なるシンガーを迎えて制作されたものとなっています。そういう意味ではギタリストのエゴが前面に打ち出されたものではなく、あくまでソングライター/表現者としてバンドとは異なるアプローチで作り上げた1枚と言えるでしょう。

参加シンガーはチェスター・ベニントン(LINKIN PARK)、ジャコビー・シャディックス(PAPA ROACH)、マーク・ラネガン(ex. SCREAMING TREES)、チャック・ビリー(TESTAMENT)、ジェイク・オニ(ONI)、マイルス・ケネディ(ALTER BRIDGESLASH)、マーク・モラレス(SONS OF TEXAS)、ジョシュ・トッド(BUCKCHERRY)、ネイマー・マドックス、アリッサ・ホワイト-グルーズ(ARCH ENEMY)、そしてLAMB OF GODのフロントマンであるランディ・ブライとマーク自身という豪華かつバラエティに富んだ面々。演奏面ではギターをマークがすべて担当したほか、STONE SOURのロイ・マイヨルガ(Dr)、MEGADETHのデイヴィッド・エレフソン(B)、KORNのレイ・ルジアー(Dr)、ALICE IN CHAINSのマイク・アイネズ(B)、TRIVIUMのパオロ・グレゴリート(B)&アレックス・ベント(Dr)、CLUTCHのジャン・ポール・ガスター(Dr)、元THE BLACK CROWESのスティーヴ・ゴーマン(Dr)&マーク・フォード(G)といったジャンルの垣根を超えた布陣が顔を揃えています。

アルバムはマークとジェイク・オニ、そしてLAMB OF GODのプロデューサーとして知られるジョシュ・ウィルバーとの共同制作によるもの。楽曲自体はマークが「いつかバンドとは別の形で発表したい」と長年書き溜めてきたものなのですが、各シンガーの個性が強いこともあってか、それぞれのシンガーに合った手法で書き下ろされたものと錯覚してしまいそうになります(もちろんそういう曲も含まれていますが)。

チェスターが亡くなる数ヶ月前に制作されたオープニングトラック「Cross Off」はLINKIN PARKをよりモダンヘヴィネス寄りにした良曲ですし、ジャコビーが歌う「Sworn Apart」もPAPA ROACHのアルバムに入っていたとしても不思議じゃない1曲。かと思えばマーク・ラネガンが歌う「Axis」ではアーシーさが前面に打ち出されているし、チャック・ビリー&ジェイク・オニによる「The Never」のスラッシュ&王道メタルなノリもひたすらカッコいい。

マイルス・ケネディ歌唱による「Save Defiance」は完全にマイルスのノリだし、マーク・モラレス参加の「Blur」はSONS OF TEXAS寄りのスモーキーさが表出している。ジョシュ・トッドが歌う「Back From The Dead」なんてBUCKCHERRYをヘヴィにさせたノリで好印象だし、ネイマー・マドックスによる「Reveal」はどこかファンキー。マーク本人が歌唱する「Imaginary Days」は正統派ハードロックの香りが感じられ、ラストを飾るランディ&アリッサによる「The Truth Is Dead」は2人の声の対比も良いし、なにより楽曲がLAMB OF GODの延長線上にあるのが良い。

マークのギタリストとしての非凡さも随所に感じられるし、何よりも曲のバラエティ豊かさに驚かされる。このひと、こんなに多才だったんだと驚き連発の1枚です。

LAMB OF GOD本体は、昨年BURN THE PRIEST名義のカバーアルバム『LEGION: XX』を発表したりと若干リラックスモードかもしれませんが、こういったガス抜きを経て次にどんなオリジナルアルバムを届けてくれるのか、今から楽しみでなりません。まずは奇跡の共演が実現した(特に、貴重なチェスターの声が残された)この意欲作をじっくり聴き込みたいと思います。

 


▼MARK MORTON『ANESTHETIC』
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2017年10月 5日 (木)

JOSH TODD & THE CONFLICT『YEAR OF THE TIGER』(2017)

BUCKCHERRYが2015年夏に発表した7thアルバム『ROCK 'N' ROLL』はそれまでの生々しいまでにパンキッシュなロックンロールとは異なる、文字通りの“ロックンロール”に立ち返った作品集で、個人的には好みだったものの、世間的には不評だったようです。それもあってなのか、今春にはオリジナルメンバーにしてジョシュ・トッド(Vo)とバンドを維持し続けてきたキース・ネルソン(G)、そして復活後にドラマーとして加入したイグザビエル・ムリエルがBUCKCHERRYを脱退。サポートメンバーを迎えて夏のツアーを乗り切ったようですが、どう考えても存続は難しいのではないでしょうか。

そんなタイミングに、ジョシュとスティーヴィー・D(G)がバンドと並行してレコーディングを続けてきたプロジェクトが、この9月にデビューアルバムをリリース。最終的にはJOSH TODD & THE CONFLICTというバンドとして、しばらくはこちらの活動に専念するようです。

ご存知のとおり、ジョシュはBUCKCHERRYが一度解散した際、ソロ名義で『YOU MADE ME』(2003年)というアルバムを1枚だけ発表しています。同作はBUCKCHERRYのイメージを引き継ぎつつも(そりゃそうだ、彼の声こそがバンドの持ち味のひとつだったんだから)、ニューメタル以降のヘヴィ&ラウドなサウンドを取り入れたモダンな仕上がり。正直、BUCKCHERRYよ再び……と思っていたファンには厳しい内容だったと思います。

そこを踏まえつつ、今回の新バンドのデビューアルバムと向き合ったのですが、思った以上に“俺たちのBUCKCHERRY”な仕上がりだったので肩透かしを食らったというか。いや、嬉しかったんですけどね。

ヘヴィな要素は要所要所から感じられつつも、本作で展開されているのはハードドライヴィングでパンキッシュなロックンロール。『ROCK 'N' ROLL』でBUCKCHERRに少し足りなかったものがここで解消されている気がしました。もしかしたらその“足りなかったもの”は、レーベル的にはアウトなものであり、そこに嫌気がさしてキースは脱退したんじゃ……なんて邪推したくなるくらい、“これをBUCKCHERRYでやれよ!”と思ってしまう内容なのです。

攻めもあれば、「Rain」みたいにヘヴィなバラードもあれば、「Good Enough」のようにダークなアコースティックナンバーもある。ダンスミュージックとハードコアをミックスしたような「The Conflict」、ファンキーなヘヴィロック「Atomic」、さらにプリンスの「Erotic City」のカバーまであるんだから(過去にBUCKCHERRYがプリンスの「Cream」をカバーしてたのはジョシュの趣味だったのかしら)、ファンが聴きたかったBUCKCHERRYをジョシュとスティーヴィーの2人が具現化してくれたと言っても過言ではないでしょう。

きっとJOSH TODD & THE CONFLICTのライブではBUCKCHERRYの楽曲も披露されることでしょう。シングルギターバンドなので完全な再現は難しいし、演奏できる曲も限られるかもしれませんが、ひとまずジョシュがまだまだ前のめりでロックし続けたいという意思が強く感じられるこのバンドの成功を陰ながら祈りたいと思います。



▼JOSH TODD & THE CONFLICT『YEAR OF THE TIGER』
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