カテゴリー「Carcass」の11件の記事

2023年4月 6日 (木)

LOUD PARK 23@幕張メッセ(2023年3月26日)

Img_67992017年を最後に開催がストップしていたメタルの祭典『LOUD PARK』。2019年からは『DOWNLOAD JAPAN』に形を変えて春開催に仕切り直されたものの、翌2020年以降コロナ禍の影響で実現ままならぬ状態が続きました。そして、2022年夏にかろうじて二度目の『DOWNLOAD JAPAN』が行われたものの、2023年はいろいろな大人の事情で『LOUD PARK』が限定復活。本来なら秋開催だったラウパーも、『DOWNLOAD JAPAN』の通例に倣って3月末に実施されることとなりました。

しかも、当初から決まっていた『KNOTFEST JAPAN』の前週に、1日のみ(大阪/東京の連日開催)。開催決定はうれしかったものの、そのメンツが不安だったことは事実です。しかし、いきなりのPANTERAのヘッドライナーに大興奮。海外に行かないと観れないと思っていただけに、これはどんなことをしてでも会場に足を運ばねばと思い、いろんなスケジュールを調整して会場に向かいました。

ただ、連日の激務&寝不足もあり、開演の11時前に到着することは不可能に。雨がぱらつく中、入場したのはH.E.R.O.の演奏が始まってすぐのことでした。

 

H.E.R.O.
ライブは初見。知らない間にギタリストが脱退しておりトリオ編成に。しかし、小編成とは思えぬほどゴージャスさの伝わるサウンド&バンドアンサンブルに、予想外に惹きつけられました。同期を使用しているとはいえ、この音の厚みと(幕張メッセというラウド系に不向きな会場ながらも)音響の良さ、そして聴きやすい楽曲の数々に心奪われたことは特筆しておきます。クリストファー・スティアネ(Vo, G)の声質もヘヴィな音像に負けることなく、耳に届いてきましたあし。ネームバリュー的にはラウパー向きだけど、音的には『DOWNLOAD JAPAN』なのかな。メタルとは言い難いサウンド/楽曲だけど、フェスの序盤には最適な人選だと納得でした。

セットリスト
01. Gravity
02. Lead The Blind
03. Never Be The Same
04. I Hope This Changes Everything
05. This Means War
06. Made To Be Broken
07. Monster
08. Cynical
09. Dangerous
10. Superpowers
11. Oxygen

 

OUTRAGE
『DOWNLOAD JAPAN』はフロアの前後にステージを配置していましたが、今回のラウパーは例年どおり左右に2つのステージを設置。真正面から観ようとすると、毎回隣の島に移動する必要がありました。H.E.R.O.は比較的後方から眺めていましたが、OUTRAGEは真ん中あたりまで移動。前回のラウパー以来のライブ観覧だったので期待していたのですが……サウンドチェックかと思っていたTHIN LIZZY「Thunder And Lightning」が実は本編1曲目だったという、非常にユルユルしたスタートを切ります。以降も近作からのゴリゴリなハードコアチューン中心に展開。しかも、音がデカいわりに音響劣悪、ボーカル様が酔っているのかマイクをかなり離した状態で歌っていたり、謎の舞踏を交えたパフォーマンスを見せたり……あれ、こんなバンドだったっけ?と困惑。久しぶりに聴いた「In Union With Earth」もメロディラインが完全に別モノになっていましたし……。結局、定番の「My Final Day」「Megalomania」を最後に持ってくることでなんとか最後まで乗り切りましたが、本音を言えばあまり褒められたステージではなかった気がします。本編唯一の日本人枠がこれかあ……と落胆したことは記録として残しておきます。

セットリスト
01. Thunder And Lightning
02. Therritorial Dispute
03. Machete...
04. Hot Rod Immunity
05. You Care? I don't Care
06. In Union With Earth
07. Summer Rain
08. My Final Day
09. Megalomania

 

BLEED FROM WITHIN
OUTRAGEで落胆し、早くも耳が疲れてしまったこともあり、楽しみにしていたBLEED FROM WITHINは後方でまったり観覧することに。同じ爆音でも、こちらはバランスがしっかり取られており、あまり耳が疲れない(かといって音圧が足りない、刺激が足りないということもまったくない)。多弦ギターを使用していることもあってか、あの7弦の周波数が妙に心地よく響き、かつ楽曲も非常に好み。本来なら前方に移動するところを、一度腰を落としてしまったがために……あれ、眠気が……(寝てませんが)。それくらい終始気持ちよく楽しめる音でした。

セットリスト
01. I Am Damnation
02. Into Nothing
03. Pathfinder
04. Stand Down
05. Temple Of Lunacy
06. Sovereign
07. Levitate
08. The End Of All We Know

 

AMARANTHE
2019年の『DOWNLOAD JAPAN』以来のライブ観覧。というか、それ以来の来日になるのか。その間にスクリーム担当ののヘンリック・エングルンド・ヴィルヘルムソンが脱退し、この日は海外ツアー同様ゲストシンガーとしてLOST SOCIETYのサミー・エルバンナが参加していました。体格のよかったヘンリックと比べると、サミーは線が細くどこか病的に映りますが、そんなことお構いなしに激しいスクリームを響かせ存在感をアピール。エリース・リード(Vo)やニルス・モーリン(Vo)に負けず劣らずのボーカルパフォーマンスを発揮していました。披露された楽曲自体もダンサブルなEDMメタル中心で、体調さえよければ終始ダンスしていたんでしょうね。ただ、この日は心境的に心の底から楽しめなかったのが残念。健康って大事ですね。

セットリスト
01. Fearless
02. Viral
03. Digital World
04. Hunger
05. Strong
06. Helix
07. Maximize
08. Amaranthine
09. The Nexus
10. Call Out My Name
11. Archangel
12. That Song
13. Drop Dead Cynical

 

CARCASS
2バンドをまったり観覧したことで、少々体力も回復。フロア真ん中あたりまで移動して、待望のCARCASSを楽しみました。オープニングSEこそ「1985」でしたが、それに続く1曲目は新作からの「Kelly's Meat Emporium」。ライブ向きだ。カッコいいったらありゃしない。ジェフ・ウィーカー(Vo, B)も調子良さそうだし、ビル・スティア(G)のギターも気持ちよく響く。そこから「Buried Dreams」「Incarnated Solvent Abuse」の連発で早くも絶頂へ。「そうそう、これが観たかったんだよ!」眼前のパフォーマンスに体調が回復していくのが手に取るようにわかりました。「This Mortal Coil」あたりでジェフのアンプトラブルでギターの音が出なかったりもしましたが、以降は新曲を交えつつ代表曲を連発。ダン・ウィルディング(Dr)のリズムワークがとにかく心地よく、終始安定しながらも要所要所でカオティックな空気を味わうことができ、最後には「Tools Of The Trade」まで聴けて大満足の50分間でした。そりゃ、終了後に「優勝!」とツイートしたくもなりますわ。

セットリスト
01. 1985 〜 Kelly's Meat Emporium
02. Buried Dreams
03. Incarnated Solvent Abuse
04. Under the Scalpel Blade
05. This Mortal Coil
06. Tomorrow Belongs To Nobody / Death Certificate
07. Dance of Ixtab (Psychopomp & Circumstance March No. 1 On B)
08. Black Star / Keep On Rotting in the Free World
09. The Scythe's Remorseless Swing
10. Corporal Jigsore Quandary
11. Heartwork
12. Tools Of The Trade / Carneous Cacoffiny

 

STRATOVARIUS
ライフが回復したのも束の間のこと、CARCASS終了後はフロアの最後方にまで移動し、腰を下ろすどころは横になってしまう始末。そんな中、STRATOVARIUSが心地よいメロディを奏で続けてくれ……気づいたらラストの「Hunting High And Low」のイントロ。ごめんなさい(苦笑)。

セットリスト
01. Survive
02. Eagleheart
03. Stratosphere
04. Father Time
05. Paradise
06. Bass Solo
07. Frozen In Time
08. Black Diamond
09. World On Fire
10. Unbreakable
11. Hunting High And Low

 

NIGHTWISH
ストラトの流れでまだ横になっていたのですが、それほど詳しくない自分でも知ってる名曲も多く用意されたセトリに、気づいたら体を起こして聴き入っていました。病気の影響で年初に予定されていたジャパンツアーは中止になっていましたが、実はこっちに出演するためのキャンセルだったのでは?と思ってしまうほどにフローア・ヤンセン(Vo)のボーカルは冴え渡っていましたし、サウンド面含めトータルバランスが非常に優れており、初見でも存分に満喫できるステージだったと思います。今回のラウパーにおいて、個人的にもっとも大きな収穫はNIGHTWISHだったかもしれません。

セットリスト
01. Noise
02. Storytime
03. Tribal
04. Élan
05. Dark Chest Of Wonders
06. I Want My Tears Back
07. Nemo
08. Shoemaker
09. Last Ride Of The Day
10. Ghost Love Score

 

KREATOR
フレデリク・ルクレール(B)加入後初の日本公演、というか個人的には初来日の1992〜3年以来となる生KREATORでした。ミレ・ペトロッツァ(Vo, G)のヒステリックなボーカルは健在ですし、それ以上に曲間にちょいちょい挟む煽りのワードチョイスがツボすぎて、首を振るより腹を抱えて笑ってしまった。新作『HATE ÜBER ALLES』(2022年)からの楽曲は2曲ほどで、あとは新旧/緩急に富んだセットリストで観る側をまったく飽きさせない。超初期の名曲「Tormentor」がなかったのは残念ですが、それでも「Flag Of Hate」や「Pleasure To Kill」あたりをしっかり聴けたのはうれしかったな。あと、個人的名盤の前々作『GODS OF VIOLENCE』(2017年)以前の近作楽曲もライブ映えするものばかりだったので、もっと真剣に聴き込もうと思いました。PANTERA前で体力温存する予定が、しっかり暴れさせてもらいました。

セットリスト
01. Hate Über Alles
02. Hail To The Hordes
03. Awakening Of The Gods
04. Enemy Of God
05. Phobia
06. Satan Is Real
07. Hordes Of Chaos (A Necrologue For The Elite)
08. 666 - World Divided
09. Flag Of Hate
10. The Patriarch / Violent Revolution
11. Pleasure To Kill

 

PANTERA
KREATOR後半あたりからフロアの人口密度/圧縮率が急増。そうか、PANTERAだけ目当てのお客さんもそれだけ多いってことなのね。ステージが暗幕で覆われる中、フロアの雰囲気はそれ以前とは異なる異様なものに変わってることに気づき、こちらもテンションがどんどん上がっていく。そして、オープニングムービー&SEを経て、「Mouth For War」からライブがスタート! 海外では「A New Level」始まりでしたが、ここ日本から1、2曲目が入れ替わった結果、最高の幕開けになったのではないでしょうか。

ザック・ワイルド(G)は彼らしさを要所要所に滲ませつつも、基本的にはダイムバッグ・ダレルのプレイに忠実。チャーリー・ベナンテ(Dr)も同様で、変にエゴを見せることなく、あくまでダイム&ヴィニー・ポール(Dr)へのリスペクトを込めたサポートぶりで、各々の役割に徹しているように映りました。それがよかったのか、フィル・アンセルモ(Vo)もレックス・ブラウン(B)も変に気張ることなくライブに集中できていたように思います。

フロアの熱気はこの日一番といいますか、それ以前の演者とか比べものにならないほど異様なもので、「そうそう、90年代のPANETARAってこんな感じだったな」と懐かしく感じたり、一方で新鮮さが伝わってきたりと、終始なんとも言えない不思議な感覚に陥っていました。が、曲が始まるごとにそのイントロに興奮し、拳を上げて一緒に歌い暴れるのは昔と変わらず。歳はとったけど、記憶は一瞬にして過去を呼び戻してくれるんですね。

選曲的には海外公演同様で、キャリア最大のヒット作『VULGAR DISPLAY OF POWER』(1992年)と唯一の全米1位獲得作『FAR BEYOND DRIVEN』(1994年)からの楽曲が中心。ラスト作『REINVENTING THE STEEL』(2000年)からは「Yesterday Don't Mean Shit」のみで、『THE GREAT SOUTHERN TRENDKILL』(1996年)に至っては完全スルー。まあそれも理解できます。今回はPANTERA“再結成”ではなく、“ダイム&ヴィニーへの敬意を込めてPANTERAナンバーを演奏する”ことがメインなのですから。

フィルの声は比較的出てるほうだったんじゃないかな。ただ、昔の来日公演同様MCでは英語でコミュニケーションを取ろうとするもリアクションが悪く、急に不機嫌さを見せたりする。その都度、日本語が話せるスタッフをステージに呼び込んで通訳させる。これも昔と一緒。ギリギリご機嫌を保てたようで安心です。

ライブは文句なしに最高でした。過去と比べるとかそういう無駄なことをせず、目の前で繰り広げられるステージを邪心なしで楽しむことができた。それで十分だと思います。あくまで1回こっきりのお祭りという認識でいたからこそ、僕自身も無邪気に楽しめたと思いますし。

きっと今年の夏くらいまでこのメンツでフェスなどに出演して、今回のプロジェクトは終了するんじゃないかな。むしろ、そうであってほしい。金儲けも大切だけど、これ以上長く続けたらフィル自身次に進めないような気もしますしね。

セットリスト
01. Mouth For War
02. A New Level
03. Strength Beyond Strength
04. Becoming / Throes Of Rejection (Outro)
05. I'm Broken / By Demons Be Driven (Outro)
06. Use My Third Arm
07. 5 Minutes Alone
08. This Love
09. Yesterday Don't Mean Shit
10. Fucking Hostile
11. Cemetary Gates (Tape Intro) / Planet Caravan
12. Walk
13. Domination / Hollow
14. Cowboys From Hell

 

■最後に
『DOWNLOAD JAPAN』あたりと比較すると、客層がかなり上だった印象。出演者的にそうなるのも致し方ないかな。それこそ、ラウパー、『DOWNLOAD JAPAN』、『KNOTFEST JAPAN』の出演者(日本人アーティスト含む)をミックスして3で割れば、もっとバランス良い客層になる気もします。そうすることが、こういったジャンルの拡大や同フェスの継続にも好影響を及ぼすと思うのですが、いかがでしょう?

2023年3月18日 (土)

CARCASS『SURGICAL STEEL』(2013)、『SURGICAL REMISSION / SURPLUS STEEL』(2014)

『SURGICAL STEEL』は2013年9月13日にリリースされたCARCASSの6thアルバム。日本盤は同年9月4日発売。

2007年にジェフ・ウォーカー(Vo, B)、ビル・スティアー(G, Vo)にマイケル・アモット(G)、体調面を考慮して不参加となったケン・オーウェーンに代わりARCH ENEMYのダニエル・アーランドソン(Dr)という布陣で再結成ツアーを行ったCARCASS。2012年にはマイケル、ダニエルがバンドを離れ、ジェフとビルは新作制作を前提として活動を継続します。

その後、現在までバンドに在籍するダニエル・ワイルディング(Dr)が正式加入。この3人で『SWANSONG』(1996年)以来17年ぶりとなるアルバム制作に臨みます。プロデューサーには名盤『HEARTWORK』(1993年)や『SWANSONG』を手掛けたコリン・リチャードソン(FEAR FACTORYNAPALM DEATHBULLET FOR MY VALENTINEなど)が担当したことからもわかるように、グラインドコアを通過した初期メロディックデスメタルやスラッシュメタル的テイストのアルバムが完成。そこに、ミックスでアンディ・スニープ(OPETHKILLSWITCH ENGAGETESTAMENTなど)が加わることにより、単なる原点回帰では終わらないモダンさも随所で感じられる1枚へと到達します。

『SURGICAL STEEL』というタイトルが、JUDAS PRIESTにおける『BRITISH STEEL』(1980年) のオマージュだという話もありましたが、そういった点からも彼らがこの復活作で「90年代以降のブリティッシュメタル/エクストリームメタル」を現代によみがえらせようとした……そう解釈できる音ではないでしょうか。アルバム冒頭を飾るアンセミックなインスト「1985」もどこか往年のヘヴィメタル的な空気感があり、ちょっと及び腰になってしまいますが、そこから唐突に雪崩れ込む「Thrasher's Abattoir」の残虐さに一安心(笑)。以降も(レコーディングではビルひとりですべてのギターパートを録音したものの)このバンドらしさ満点のツインリードギター&リフが随所に用意され、曲が切り替わるたびに思わずガッツポーズしたくなるほどの高揚感を味わえます。

復活作としては文句なしの仕上がりで、軽く平均点越えの内容だと思うのですが、CARCASSというエクストリームな存在にとってはいささかお行儀が良すぎるような印象も。1枚のヘヴィメタルアルバムとしては100点に近いクオリティですが、ことエクストリームの観点で接すると「もう一声」という本音も漏れてきます。

とはいえ、ライブで聴くと文句なしの高揚感が味わえるので、そういった意味では「ライブで化ける」曲たちが並んだ良作なのかもしれませんね。

 


▼CARCASS『SURGICAL STEEL』
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その後、『SURGICAL STEEL』に収録されなかったアウトテイク(日本盤および海外諸国でのデラックス盤に追加されたボーナストラックを含む)で構成されたEP『SURGICAL REMISSION / SURPLUS STEEL』が2014年11月10日にリリースされます。日本盤未発売。

新たなツアーを行うために海外で発売された本作は、『SURGICAL STEEL』セッションから生まれた全5曲を収録。『SURGICAL STEEL』日本盤に追加収録された「A Wraith In The Apparatus」「Intensive Battery Brooding」といった耳馴染みの強い曲のほか、完全未発表の「Zochrot」「Livestock Marketplace」、『SURGICAL STEEL』冒頭を飾ったインスト「1985」のリプライズ・バージョンという『SURGICAL STEEL』との関連性の強さを感じさせる作品となっています。

「A Wraith In The Apparatus」「Intensive Battery Brooding」はスピード感よりも重さ重視したテイストで、アルバム本編と比べたらインパクトは若干弱め。ただ、「Intensive Battery Brooding」は終盤にアップテンポにギアチェンジするアレンジがカッコいいので、これはこれでアリ。

「Zochrot」も前2曲の延長線上にある作風ですが、仕上がり的にはアルバムに入っていても不思議じゃないレベル。アルバムに含まれていたら、よいフックになっていたかもしれません。「Livestock Marketplace」は『HEARTWORK』期のCARCASSというよりも『SWANSONG』期に近い内容で、ビルのカラーが強く表出した1曲ではないでしょうか。これもフックとしては十分な役目を果たしてくれそうな良曲です。

 


▼CARCASS『SURGICAL REMISSION / SURPLUS STEEL』
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そして、これら2枚の作品を1枚のCDにまとめたのが、2015年10月30日にリリースされた『SURGICAL STEEL (COMPLETE EDITION)』です。日本盤は海外に先駆けて、同年10月7日発売。

当初はEP『SURGICAL REMISSION / SURPLUS STEEL』が日本盤未発売だったことを受け、『SURGICAL STEEL』日本盤に未収録だった『SURGICAL REMISSION / SURPLUS STEEL』からの3曲を追加する「『SURGICAL STEEL』ワークス完全版」として『LOUD PARK 15』での再来日にあわせた日本限定リリースの予定でしたが、のちに別ジャケットで海外でも発売。結果として、似たようなアートワークの作品が3枚も並ぶこととなります。

内容に関しては上で触れた通りですが、EPがミドルテンポ中心でクオリティ的にもアルバムより若干落ちること、かつトータル全16曲/約65分という長尺作品となってしまったことで、アルバムの魅力が良い形で伝わりきらないような印象も受けます。ただ、「1985」で始まり「1985 (Reprise)」で終わる構成はドラマチックで良いと思うので、EPからの4曲をカットして「Mount Of Execution」〜「1985 (Reprise)」でアルバムが終了していたらアルバムの持つ抒情性がより強調されたんじゃないかなと、今さらながらに思ってしまいます。

ぶっちゃけ『SURGICAL STEEL』1枚持っていれば問題ありませんが、CARCASSのすべてを知っておきたくて『SURGICAL STEEL』未聴の方ならこのコンプリートエディションを入手しておけば大丈夫でしょう。

なお、『SURGICAL STEEL』に関連したこの3作品は、国内サブスクでは未配信。配信で購入したい、聴きたいという方はBandcampで購入できますので、こちらをチェックしてみてください

 


▼CARCASS『SURGICAL STEEL (COMPLETE EDITION)』
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2023年1月18日 (水)

CARCASS『SWANSONG』(1996)

1996年6月10日にリリースされたCARCASSの5thアルバム。日本盤は同年6月1日発売。

前作『HEARTWORK』(1993年)でメロディックデスメタル路線が見事に開花し、新たな活路を見出したCARCASS。同作はメジャーのColumbia Recordsを通じて、北米でも1994年1月に発表され好評を博しました。しかし、同作を持ってマイケル・アモット(G)が脱退。ツアーメンバーにマイク・ヒッキー(G)を迎えツアーを乗り切り、1994年5月には待望の初来日公演も実現させました(筆者も川﨑クラブチッタに足を運んだひとりです)。

その後、マイク・ヒッキーは正式メンバーになることなくバンドを離れ、新たにカルロ・レガダス(G)が正式加入。1995年初頭から続くニューアルバムの制作に取り掛かります。プロデュースは過去3作から引き続きコリン・リチャードソン(FEAR FACTORYNAPALM DEATHBULLET FOR MY VALENTINEなど)が担当。曲作りに関してはジェフ・ウォーカー(Vo, B)&ビル・スティアー(G)が中心ですが、「Black Star」「Polarized」「Firm Hand」にはカルロが早くも名を連ねています。

基本路線は前作でのメロデススタイルが下地になっていますが、全体的にハードロック色が強まった印象。リードトラック「Keep On Rotting In The Free World」(タイトルはニール・ヤング「Rockin' In The Free World」のオマージュか)で聴ける方向性はメタルというよりもハードロック的ですものね。ほかにも「Cross My Heart」など、チューニングやリフの刻み方こそ当時のモダンメタル以降の流れにあるものの、やろうとしていることは『HEARTWORK』とは若干異なることに気付くはずです。

かと思えば、「Black Star」や「Room 101」ではグルーヴメタル的な側面も感じられ、実は前作から推し進めた新たな方向性に迷いが生じているのでは?という印象も。メジャー配給などの影響もあり、レーベル側からもいろんな横槍が入ったんでしょうね……。実際、本作は1995年中にはリリースされる予定でしたが、レーベル側が難色を示し、Columbia Recordsは契約を解除してしまいましたし。そういった現実を目の当たりにし、ビルは本作発売前に脱退。バンドもリリースから間もなくして解散を発表してしまいます。

THIN LIZZY的ツインリードがひたすらカッコいい「Keep On Rotting In The Free World」、BLACK SABBATHがプログレッシヴなグルーヴメタルに挑戦したような「Childs Play」、IRON MAIDEN直系のメロディックなパワーメタル味がある「R**k The Vote」など突出した楽曲も少なくないですが、前作までの『HEARTWORK』ほどの評価を得られず、どちらかというと失敗作と捉えられている本作。解散を前提として名付けられた『SWANSONG』というタイトルもあり、しばらくはネガティブな印象が強かったものの、今聴くとそこまで悪いとは感じません。

確かに過去数作と比べたらランクは落ちるかもしれませんが、逆に本作での経験がなかったら実は最新作『TORN ARTERIES』(2021年)は生まれなかったのではないか。そんな気もしています。過渡期の1枚ではあるものの、CARCASS史においては実は影の重要作だった……というのは言い過ぎでしょうか。

 


▼CARCASS『SWANSONG』
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2021年12月31日 (金)

2021年総括:HR/HM、ラウド編

2017年から2020年まで、「リアルサウンド」にて掲載してきたメタル/ラウド系年間ベストアルバム企画。2021年は同サイトにて同企画を実施されないので、場所をこちらに移して行うことにしました。ただ、無理な順位付けはせず、印象的なアルバム/EP 20枚をアルファベット順に紹介していくことにします。

 

ARCHITECTS『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST』(Apple Music)(レビュー

 

THE ARMED『ULTRAPOP』(Apple Music)(レビュー

 

CARCASS『TORN ARTERIES』(Apple Music)(レビュー

 

CONVERGE『BLOODMOON: I』(Apple Music)(レビュー

 

DEAFHEAVEN『INFINITE GRANITE』(Apple Music)(レビュー

 

DREAM THEATER『A VIEW FROM THE TOP OF THE WORLD』(Apple Music)(レビュー

 

EVERY TIME I DIE『RADICAL』(Apple Music)(レビュー

 

EXODUS『PERSONA NON GRATA』(Apple Music)(レビュー

 

GATECREEPER『AN UNEXPECTED REALITY』(Apple Music)(レビュー

 

GOJIRA『FORTITUDE』(Apple Music)(レビュー

 

JINJER『WALLFLOWERS』(Apple Music)(レビュー

 

KHEMMIS『DECEIVER』(Apple Music)(レビュー

 

LEPROUS『APHELION』(Apple Music)(レビュー

 

MASTODON『HUSHED AND GRIM』(Apple Music)(レビュー

 

NEMOPHILA『REVIVE』(Apple Music)(レビュー

 

SeeYouSpaceCowboy『THE ROMANCE OF AFFLICTION』(Apple Music)(レビュー

 

SPIRITBOX『ETERNAL BLUE』(Apple Music)(レビュー

 

TO KILL ACHILLES『SOMETHING TO REMEMBER ME BY』(Apple Music)(レビュー

 

TRIVIUM『IN THE COURT OF THE DRAGON』(Apple Music)(レビュー

 

TURNSTILE『GLOW ON』(Apple Music)(レビュー

 

年明け発売の某雑誌には、この20枚の中から10枚をセレクトして順位を付けて掲載予定です。

2020年初頭から流行拡大しだした新型コロナウイルスは、2021年も引き続き大きな影響を及ぼし続け、ロックダウンによるフィジカル(CD、アナログなど)製造遅延およびそれに伴うリリース順延、さらにはツアーやフェスの翌年以降への順延などが重なります。当然、ここ日本への海外メタル/ラウド勢の来日公演も2年近く実現しておらず(一部、小規模のライブハウス公演は行われたようですが、大規模なジャパンツアーやメジャーアーティストの来日公演に関しては皆無)。この年末にKING CRIMSONのジャパンツアーが行われたのは、奇跡に近いものがありました。

しかし、コロナが及ぼした影響は決して悪いことだけではありません。インターネットを使ったリモート作業が以前よりもやりやすい環境になったこともあり、バンドメンバーがバラバラな場所に住んでいても制作自体は行えるようになり、結果として思いがけずに新作が届けられるなんていうサプライズも多々ありました。今回挙げた20枚の中にも、TRIVIUMのように前作から2年経たずしてニューアルバムが到着するというケースも少なくありません。

日本では夏頃と比べて、若干の落ち着きを見せている昨今ですが、海外ではまだまだ予断を許さない状況。イギリスなどの様子に恐怖を覚える一方で、アメリカでは大規模なライブ/ツアーも再開されている。国によって対策や対応は異なるものの、2020年から続くこの生活はもう少し続くことになりそうです。おそらく2022年も国内での大規模野外フェス開催(特に海外アーティストを多数招聘して実施するケース)は現実的ではないのかもしれません。

僕自身、すべてが元通りに戻るとは思っておらず、むしろ少しずつ元の生活に近づけつつ、新たなスタンダードを確立・浸透させなければ、この文化はどんどん先細りしていくんじゃないかと感じています。送り手も受け手も、この新たなスタンダードを前向きに受け取りつつ、過去の日常生活と並列させていくことでこの文化を維持し、さらに成長・進化させていくはず……僕自身はそう信じています。

さて、明日はジャンル分け隔てなく総括した1年のまとめ記事を公開する予定です。この記事と併せてお楽しみいただけると幸いです。

 

2021年12月26日 (日)

CARCASS『NECROTICISM - DESCANTING THE INSALUBRIOUS』(1991)

1991年10月30日にリリースされたCARCASSの3rdアルバム。日本盤は『屍体愛好癖』というクセの強い邦題で、1992年4月21日発売。

ジェフ・ウォーカー(Vo, B)、ビル・スティアー(G, Vo)、ケン・ウォーエン(Dr)というデビュー時からのトリオ編成に、現ARCH ENEMYのマイケル・アモット(G)が加入(1990年)し、ツインギター編成になったCARCASS最初のアルバム。このアルバムで彼らのことを知ったというリスナーも少なくないかもしれません(筆者も本作の日本盤リリースを機に、初めてCARCASSに触れたクチです)。

サウンド的には初期のグラインドコア〜ゴアグラインドから、次作『HEARTWORK』(1993年)で本格的開花するメロディックデスメタル路線への過渡期にある内容。その独特の雰囲気・曲構成は最初こそ好き嫌いが分かれそうですが、一度ハマってしまうとクセになる不思議な魅力が備わっています。

1曲の中で何度も繰り返される強引なテンポチェンジには、やや唐突さを感じずにはいられませんが、実はその突拍子のなさこそがこの時期のCARCASSの魅力。ある意味ではプログレッシヴとも受け取ることができ、このへんの複雑なアレンジはNWOBHM期のUKメタルバンドと共通するテイストを感じずにはいられません。

しかも、バンドの土台となるケン・ウォーエンのドラミングのクセが強すぎて、リズムの独特な“揺れ”や“スウィング感”が唯一無二のグルーヴを作り上げている。もちろんこれは前向きに捉えた表現ですが、ネガティブな表現をすれば……いや、やめておきましょう(苦笑)。結果として、ケンのドラミングを見事に生かしたからこそ、こうした独自性の強いアンサンブルが生まれたわけで、それこそが90年代前半のCARCASSにとって大きな武器になったわけですから。

この時期はまだビルも要所要所でボーカルを披露していましたが、次作以降はギタリストに専念。音楽性のみならず、バンドスタイルとしても本作は過渡期にある1枚でした。だけど、マイケルが加入したことで迎えた転換期は、のちの彼らにとって非常に大きなチャンスになるわけですから。世の中何が起こるかわかりません。

「Corporal Jigsore Quandary」や「Incarnated Solvent Abuse」など現在まで演奏され続けている名曲を多く含む本作ですが、曲間にナレーションを挟むことで若干テンションが落ちるという声もあります。確かに、あのSEなしで曲が次々に続いていく構成のほうが緊張感が途切れることなく楽しめるかもしれません。だけど、個人的にはあのSEあってこそ、彼らならではの不穏な空気を終始纏うことができているのではないか、とポジティブに解釈しています。特に、本作の収録曲はそれまでの彼らから考えると1曲の尺が非常に長くなっており、6〜7分台の楽曲が過半数を占めます。そういった楽曲を飽きさせずにリスナーを惹きつけるという点でも、あのナレーション/SEは必要だったと信じています。

聴きやすさ/入門編としては次作『HEARTWORK』が最適だと思いますが、CARCASSの真髄を知るという点においてはまず今作を聴くべきではないでしょうか。そこから『HEARTWORK』以降の作品に進むもよし、逆に勇気を持って初期のグロ路線に一歩踏み出してみるもよし(笑)。

 


▼CARCASS『NECROTICISM - DESCANTING THE INSALUBRIOUS』
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2021年9月17日 (金)

CARCASS『TORN ARTERIES』(2021)

2021年9月17日にリリースされたCARCASSの7thアルバム。

2007年にジェフ・ウォーカー(B, Vo)、ビル・スティアー(G)の初期メンバーに90年代前半に在籍したマイケル・アモット(G)とマイケルの盟友ダニエル・アーランドソン(Dr)というARCH ENEMY組の4人で再結成&ライブ活動を再開させたCARCASS。当初は過去の楽曲を演奏するだけにとどまりましたが、ジェフ&ビルは新ドラマーにダニエル・ワイルディング(Dr)を迎えて新作制作に突入。2013年に17年ぶりの新作『SURGICAL STEEL』を発表し、真の意味での復活を遂げます。同作リリースと同時に2ndギタリストとしてベン・アッシュが加入。2013&2015年秋に『LOUD PARK』出演、2014年春には1994年以来となる単独来日(初の本格的ジャパンツアー)と、3年連続来日を果たしました。

2018年にはベンが脱退し、ジェフ/ビル/ダニエルのトリオ編成でレコーディングに突入。2019年には再結成後2作目となるアルバムを完成させ、2020年夏のリリースを目指して活動していました。が、ご存知のとおり、コロナ禍の影響によるロックダウンで海外のプレス工場が閉鎖されたこともあり、リリースは1年延期に。こうして、前作から8年ぶりとなるニューアルバムが手元に届けられたわけです。

CARCASSに関しては、もはやこんな駄文を読むよりも『ヘドバン』での掟ポルシェ氏のテキストを参考にしていただくのが一番。もっとも信頼できる圧倒的な解説が展開されているので、まずはそちらを読んでいただいて……こちらは暇つぶし程度に。

『SURGICAL STEEL』がCARCASSの知名度を高める結果となった3rdアルバム『NECROTICISM – DESCANTING THE INSALUBRIOUS』(1991年)と4thアルバム『HEARTWORK』(1993年)でのサウンド……のちにメロディックデスメタルと呼ばれるようになるスタイルの原型となる楽曲/演奏を軸にしつつ、今のCARCASSらしく(良い意味で)整頓された、ガッチリしたメタル/エクストリームミュージックを楽しむことができました。しかし、これまでに1枚たりとも同じスタイルの作品を作ってこなかったCARCASS、続く本作では前作とまったく異なるスタイルにチャレンジしています。

サウンドや演奏のベースになるものは前作『SURGICAL STEEL』の延長線上にありつつも、楽曲の質感や音楽性はもっと別のもの……ぶっちゃけ、エクストリームミュージックとは一線を画するものが採用されているように感じました。ジェフのインタビューでは“Dad Rock”という例えが出てきましたが、70年代のハードロックなどHR/HMのルーツになるような音楽からの影響が、各曲の随所から感じ取ることができます。なのに、アルバムを通して聴いたときにしっかり感じられるエクストリーム感。本当に不思議です。

さらに、本作からはビルにとっての大切なルーツであるNWOBHM期のバンドたちからの影響もしっかり汲み取ることができる。例えば、「Eleanor Rigor Mortis」でのアレンジは80年代初頭のスラッシュメタルとそのルーツとなっているNWOBHM期のバンド、10分近くにおよぶ「Flesh Ripping Sonic Torment Limited」はDIAMOND HEADIRON MAIDENをはじめとするバンドからの影響も見つけることができるのが、これまでの作品との大きな違いかなと。

今作を語る上でもうひとつ重要になってくるのが、実はリリース時に酷評された5thアルバム『SWANSONG』(1996年)の存在。同作は『HEARTWORK』で試みたスタイルをよりシンプルかつピュアな形に昇華させたもので、ビルのNWOBHM趣味が前作以上に色濃く表れています。リリースから25年経った今聴くと同作は非常に聴きやすい、よく作り込まれたハードロックアルバムとして十分通用する1枚ですが、今回の『TORN ARTERIES』はその『SWANSONG』で試みたことをより純化させつつ、しっかりエクストリームミュージックとして機能するアルバムへと昇華させた。共通項はたくさんあるものの、似て非なる“オリジナル”な1枚だと思うんです。

初期のアグレッシヴさとは別ベクトルの攻撃性と、『SWANSONG』級の聴きやすさ/親しみやすさを伴った異色作。いや、CARCASSのアルバムは毎回、常に異色なんです。今回も我々の期待を遥かに上回る、予想の斜め上をいく傑作です。8年待った甲斐があった。本当にありがとうございます。

 


▼CARCASS『TORN ARTERIES』
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2020年11月 1日 (日)

CARCASS『DESPICABLE』(2020)

2020年10月30日にリリースされたCARCASSの最新EP。日本盤は『鬼メスの刃 EP』という、最高のタイミングに最高の邦題で発売中です(笑)。

まとまった音源集としては『SURGICAL REMISSION / SURPLUS STEEL』(2014年)以来6年ぶり、新曲音源としては昨年12月に発表された「Under The Scalpel Blade」以来10ヶ月ぶりのリリース。本来なら今年8月に『SURGICAL STEEL』(2013年)以来7年ぶりのニューアルバムが発売予定でしたが、コロナ禍によるロックダウンでCDやアナログのプレス工場が稼働できないことで2021年以降に発売延期に。しかし、若干状況が落ち着いてきたことを受け、アルバムまでのつなぎに4曲入りEPを発売することになったのでした。

レコーディング参加メンバーはジェフ・ウォーカー(Vo, B)、ビル・スティアー(G, Vo)、ダン・ウィルディング(Dr)という前作からのメンツに加え、2018年に新加入したトム・ドレイパー(G)という4人。前任のベン・アッシュは前作のレコーディングには参加してない、あくまでツアーメンバーという立ち位置でしたが、今回レコーディングに参加することなくバンドを去りました。

さてさて。詳細な制作背景や楽曲の細かな解説は、本作日本盤封入の掟ポルシェさんによるライナーノーツに詳しく書かれているので、ぜひとも日本盤を購入してこちらをお読みください(そもそも本作、日本ではストリーミングで聴くことができませんし、デジタルでは今のところBandcampぐらいでしか購入できないので。安価で入手できる日本盤がオススメです)。ここでは僕目線で、簡単な感想を残しておきたいと思います。

収録された4曲中、M-3「Under The Scalpel Blade」のみ既発曲であり、唯一次のアルバムにも収録される予定とのこと。つまり、初出となるほかの3曲はここでしか聴くことができないわけです。じゃあアルバムからのアウトていくなの?と思いきや、オープニングを飾る「The Living Dead At The Manchester Morgue」からして王道のCARCASS節(いわゆるデスメタル的スタイルへと移行してからの彼ら)に初期のグラインドコア的要素を散りばめた、「そうそう、こういうのを待ってた!」という感動・感激の仕上がり。約6分の中にいろんな要素が詰め込まれた、非常に情報量の多い1曲と言えるでしょう。

かと思えば、ビートルズの名曲パロディのような曲名の「The Long And Winding Bier Road」は、メロディックデスメタル的ツインリードのフレーズを交えつつもミドルテンポで突き進むスタイルと、これまでにあまりなかったコード進行が新鮮な1曲。「Under The Scalpel Blade」は昨年末から散々聴きまくってきた1曲が、ついにCDとして一般流通。これを聴いただけで、続くアルバムに対する期待が一気に高まったことをよく覚えています。

最後の「Slaughtered In Soho」は怪しい雰囲気と曲調が癖になる1曲で、これも従来のらしさと“次”が同時に楽しめる仕上がりです。こんな曲を本編に入れないなんて、次のアルバムはどんな完成度なんだ……と期待だけが高まるばかりです。

というわけで、4曲ってやっぱり物足りない(笑)。無駄に期待だけがどんどん高くなる一方で、さらにまとまった新曲を楽しめるまでにあと何ヶ月待たなきゃいけないんだ……と逆に悲しくなってきました。まあ、いろいろ仕方ないですわな。今はこの4曲を擦りするほどリピートして(デジタルの場合、すり減る代わりにデータ消失したら困るけど)、来たるX-DAYを待ちたいと思います。

 


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2019年10月17日 (木)

ANGEL WITCH『AS ABOVE, SO BELOW』(2012)

ANGEL WITCHが2012年3月に発表した通算4作目のオリジナルアルバム。

ANGEL WITCHは70年代末にケヴィン・ヘイボーン(Vo, G)を中心に結成された、NWOBHM(New Wave of British Heavy Metal)シーンにおける代表的存在のひとつ。1980年にアルバム『ANGEL WITCH』をリリース後、80年代半ばまでに計3枚のオリジナルアルバムを発表しています。が、その後は活動が停滞。デモ音源を含むコンピ盤やライブアルバムのリリースこそあったものの、オリジナル作品の発表は20年以上途絶えていました。

今回紹介する『AS ABOVE, SO BELOW』はオリジナルアルバムとしては、1986年の『FRONTAL ASSAULT』以来26年ぶりの新作。一部メディアでは『RESURRECTION』(2000年)以来12年ぶりと報じられていましたが、同作は未発表のデモ音源を寄せ集めたものなので、純粋な新作としては26年ぶりが正しいのでしょう。

本作リリース時のメンバーはケヴィン、ウィル・パーマー(B)、アンディ・プレスティッジ(Dr)にビル・スティアー(G)という4人。ビルはご存知、CARCASSやFIREBIRD、GENTLEMANS PISTOLSでおなじみの方。ただ、のちの明らかになるのですが、ビルはレコーディングには不参加でライブのみの参加だということです(ただ、明らかにビルらしいギターフレーズも確認できるそうなので、実際のところどこまでが本当かは不明)。

楽曲そのものは、これぞANGEL WITCH!と言えるダークなHR/HMが中心で、オープニングの「Dead Sea Scrolls」こそ“枯れた”ハードロックで若干の不安を覚えますが、2曲目「Into The Dark」以降のアップダウンを繰り返す展開にホッと胸をなでおろすオールドファンは少なくないはず。とにかく「あのANGEL WITCH」そのものですよ、これは。

現代的なプロダクションで制作されたことで、デビューアルバム『ANGEL WITCH』にあったチープさが払拭され、間違いなく2000年代の音/バンドとしてここに存在する。僕自身、2作目も3作目も聴いておらず、完全に『ANGEL WITCH』との比較になってしまうのですが、そこから32年という長い時間を一気に飛び越してここに存在するこの音、間違いなく『ANGEL WITCH』からの“続き”なんですよ。そう確信できるほど、王道中の王道。もはや職人技と言いたくなるくらいの変わらなさと(制作面での技術的)進化を楽しめる1枚。聴かない理由はありません。

ちょうど同作を携え行われた来日公演(2012年6月)にも足を運び、さらにはANGEL WITCHの一員として来日したビル・スティアーへのインタビューまで実現してしまった(掟ポルシェさんがインタビュアーを務め、僕が原稿をまとめるという形で)。このアルバムを聴くと、7年前のあの頃のことを鮮明に思い出すことができる……そんな個人的な思い出が詰まった1枚です。

 


▼ANGEL WITCH『AS ABOVE, SO BELOW』
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2019年3月 3日 (日)

ARCH ENEMY『COVERED IN BLOOD』(2019)

2019年1月に発表された、ARCH ENEMYのカバーアルバム。バンド初期からシングルのカップリングやアルバムのボーナストラックとして収録されてきた歴代のカバー曲を1枚にパッケージした作品で、その内訳も初期3作のヨハン・リーヴァ時代、ブレイクのきかっけを作ったアンジェラ・ゴソウ時代、現在のアリッサ・ホワイト=グラズ時代と3世代にわたる、ある種のオールタイム“裏”ベストアルバムとなっています。

取り上げられているカバーはIRON MAIDENJUDAS PRIESTEUROPEMEGADETH、MANOWAR、QUEENSRYCHEPRETTY MAIDSSCORPIONSKISSなど彼らのルーツにあるHR/HMバンドからG.B.H.、DISCHARGEといったハードコアバンド、SKITSLICKERS、ANTI-CIMEX、MODERAT LIKVIDATIONという地元スウェーデンのハードコア/クラストコアバンド、マイケル・アモット(G)がかつて在籍したCARCASS、そしてTEARS FOR FEARSやマイク・オールドフィールドといったポップ寄りまで、バラエティに富んだもの。JUDAS PRIEST、IRON MAIDEN、EUROPE、SKITSLICKERSはボーカリスト違いで複数選ばれているものもあります。

全24曲中、M-1「Shout」からM-11「City Baby Attacked By Rats」までがアリッサ時代、M-12「Warning」からM-20「Symphony Of Destruction」までがアンジェラ時代、ラスト4曲がヨハン時代としっかりブロック分けされているので、そこまで違和感を感じることはないかと。特にアリッサ時代はM-5「Nitrad」から「City Baby Attacked By Rats」までのパンク/ハードコアのカバーが続く流れで統一感を作るなど、構成も考えられていますしね。

ARCH ENEMYの活動を追っているリスナーには、すべて既出で所持している音源ばかりでしょう。しかし、こういった“ファン”アルバムは出すことに意味があるので、そこに文句をつけるのは野暮というもの。そんな中、M-1「Shout」は昨年発売されたアナログボックスセット『1996-2017』やアナログ7インチ盤「Reason To Believe」に収録されていたものですが、CD化はこれが初めて。原曲をよりヘヴィにしたアレンジはどことなくツェッペリン「Immigrant Song」に似ていて、DISTURBEDのカバーバージョンとは違った味わい深さがあります。

そのほかのカバーに関しては原曲まんまのものから凝ったアレンジのものまでさまざまですが、基本的には原曲に対する愛情が強いものが多い印象です。個人的にはPRETTY MAIDS「Back To Back」、EUROPE「Wings Of Tomorrow」、CARCASS「Incarnated Solvent Abuse」、IRON MAIDEN「Aces High」がお気に入りです。

ちなみに、CDブックレットにはマイケル・アモットによる各曲の解説入り。残念ながら日本盤はおろか、配信&ストリーミングもなしの本作ですが、特にストリーミングに関しては過去作もゼロなので、これを機に動いてほしいものです。



▼ARCH ENEMY『COVERED IN BLOOD』
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2017年10月21日 (土)

CARCASS『HEARTWORK』(1993)

CARCASSが1993年秋に発表した、通算4枚目のスタジオアルバム。当時の編成はジェフ・ウォーカー(Vo, B)、ビル・スティアー(G, Vo)、ケン・オーウェン(Dr)に現ARCH ENEMYのマイケル・アモット(G)。もともとはアモットを除く3人編成でグラインドコア/ゴアグラインドバンドとして活躍していたものの、前作『NECROTICISM - DESCANTING THE INSALUBRIOUS』(1991年/邦題は『屍体愛好癖』)からアモットが加わったことでツインギター編成になり、ギターリフで巧みに構築されたメタリックなバンドサウンドと、ギターソロをフィーチャーしたヘヴィメタル的方向性にシフトチェンジ。前作でも聴けたそのメロウな要素がより強化されたのが、本作『HEARTWORK』なわけです。

今となってはメロディックデスメタルというカテゴリーは、メタルファンの間で当たり前のように定着していますが、当時は“メロデス”なんて呼び名はまだ存在しておらず、単にCARCASSがデスメタル寄りのグラインドコアだったことから“メロディアスな要素が強いデスメタル”と認識されてしまったわけです。

確かに表題曲(名曲!)や「This Mortal Coil」あたりで聴けるツインリードは完全にヘヴィメタルのそれだし、メロディアスなギターソロも完全にあっち側。時折ブラストビートなんかも飛び込んでくるものの、ボーカルさえ歌メロをしっかり歌っていたらIRON MAIDENあたりにも通ずるものがあるんじゃないでしょうか。

『NECROTICISM - DESCANTING THE INSALUBRIOUS』が大好きだった自分からすると、この変化には正直最初こそ拒否反応を示しましたが、聴き込めば聴き込むほどにハマッていく自分がいたのも確か。「Heartwork」のリードなんて完全にコピーしてたもんなぁ。

グラインドコアから出発したバンドが、プログレッシヴなエクストリームメタル路線へと移行し、そこからさらに正統派HR/HM(例えばTHIN LIZZYIRON MAIDENなど)側のカラーを強めていった。本作はアルバムごとに変化と進化を繰り返してきたCARCASSがアモットという個性を手にしたことで(それに呼応するかのごとく、ビルのプレイもHR/HM化したことで)到達した、ひとつの到達点だったのかもしれません。

結局アモットは本作発表後にバンドを脱退。翌1994年には念願の初来日が実現するのでした。アモット自身は自身のハードロック志向を追求するバンドSPIRITUAL BEGGARSを結成し、1996年には『HEARTWORK』でのメロデス路線をさらに極めるためのプロジェクト(のちのバンド)ARCH ENEMYを立ち上げることになります。

一方のCARCASSは3年後に5thアルバム『SWANSONG』を発表するのですが、それについてはまた別の機会に。

あ、ちなみに僕、ビル・スティアー派です。好きなギタリストを3人挙げろと言われたら、そのうちの1人に間違いなくビルをピックアップします。

 


▼CARCASS『HEARTWORK』
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