CAROL『THE★BEST』(2003)
ぶっちゃけた話、俺はキャロル及び矢沢永吉が大嫌いでした。ガキの頃‥‥なんていうか、彼等に対して「ヤンキーの音楽」「ヤンキーが好んで聴く音楽」っていう偏見があったんですよね。ほら、よくヤンキーが乗ってそうな車に「YA・ZA・WA」とかそういった文字がリアガラスに貼り付けてあったり塗装されていたり、とか‥‥そういった理由で。そう、音楽を聴く前からそういう強い偏見があったので、どうしても苦手意識があったわけ(同様の理由で、一時期RCサクセションやBOφWYも聴けなくなってしまった時期があったのを、ここで告白しておきます。ただ、このふたつに関しては最初は音楽を楽しんでいたのに、ある時期から苦手意識が働いて、時間が経ってまた聴けるようになった、というような経緯があるんですが)。だから、高校生の頃に同級生バンドがキャロルのコピーとかやってるのを見ると、「うわっ、ダッセー!」っていう風に小馬鹿にしてたところがあったんですよ。俺のやってるAEROSMITHやレッド・ウォリアーズの方がどうみてもカッコイイだろう、と。まぁ嫌なガキだったわけですよ、頭でっかちなね。
ところが、それから10年近く経って、何故か急に永ちゃんを聴けるようになったんですね。単純に、当時親しくしていた人がやっていたバンドで永ちゃんやキャロルのコピーをやっていたってだけなんですけど。で、そこからまず永ちゃんのライヴ盤に手をだして‥‥純粋に感動したわけですよ、その音楽に。ただのロケンローバカ親父じゃなかったんだ、と。まぁハマるって程じゃなかったんですけど、偏見はなくなったんですね。で、今度はその注目がキャロルに向けられるわけです。けど、なかなか手が伸びなかったんですよ‥‥それから数年。ようやくこういう機会(リマスター・ベストとラストライヴのDVD発売)を得て、キャロルに手を出すことになったわけです。
‥‥ってすごい勢いでファンに刺されてもおかしくないようなことばかり書いてますが、これが事実なんですよ。ホントに苦手で、けどその苦手意識がなくなった今だからこそ、ちゃんとキャロルについて何か書いておこう、そう思ったわけです。
ご存じの通り、キャロルは矢沢永吉が参加した4ピースのロックンロールバンド。その後役者としても活躍するジョニー大倉もギター/ボーカルで参加していたこと等は皆さんご存じかと思いますが、永ちゃんがベース&ボーカルってのはファンやそれなりに精通している人以外、あんまり知られていないんじゃないですかね。とにかく、この二人がある種中心になって楽曲を作っていったわけです(大倉が作詞、永ちゃんが作曲という形態が大半を占める)。そしてボーカルもこの二人が曲によって歌い分けるわけです。ハスキーで如何にもロックンロールを歌う為に生まれてきたかのような声を持った永ちゃんと、甘くセクシーな歌唱のジョニー。この好対照は性質はある意味、BEATLESのそれに通ずるものがあると思います。そしてそれは歌声だけでなく、その音楽にも端的に表れているわけです。
キャロルを再評価するにおいて必ずといっていい程挙げられるのが、この「初期ビートルズからの影響」なんですね。「日本語ロックンロールの先駆者」という側面も確かに持っていますが、それ以上にこのビートルズとの比較の方が個人的には面白いと思ってます。
ビートルズが大好きでロックバンドを始めた永ちゃんが、その自らの構想を形にし、自身の音楽オタク振り、ミュージシャンとしてのビートルマニア振りを遺憾なく発揮する場がキャロルというバンドだったわけで、更にそこにジョニー大倉という優れた作詞家/シンガーが加わることで、更にバンドとしての個性を高めたのです。ビートルズ好き、あるいはビートルズを極めたような人なら、このベスト盤を聴いても非常に楽しめるんじゃないでしょうか? ただの真似/パクリで終わっていない、オリジナルとしての完成度はかなり高いと思うんですね。
初期のビートルズが持っていたR&Bやブルーズ、ロカビリー、モータウン等からの影響が強いロックンロールやポップスからの影響が強いそのサウンドからは、ただのヤンキー音楽では済まされないマニア度の高さを感じさせるし、普通に今聴いてもロックンロールアルバムとして楽しめる作品なんですね。メンバーの風貌(素肌に革ジャン、革パンツ、リーゼント等)のカッコよさからヤンキーが惹かれていったってのも判らなくないですが、単純にカッコいいからね、音楽も。
けど、今回特に注目して欲しいのは、そういった3コード・ロックンロール的な側面ではなくて、例えば"二人だけ"や"CAROL(子供達に夢を)"、最近クレイジーケンバンドもカバーした"甘い日々"といったミディアム~スロウナンバーといった楽曲の完成度の高さなんですね。所謂ロックンロール的バラードとは違った‥‥例えばROLLING STONESの "As Tears Go By" とか "Ruby Tuesday" といったタイプ。ただの不良的イメージのロックンロールに終始することなく、音楽家としての高みを目指す曲作り。あるいは本気でビートルズを追い越すことを目標としたかのような曲作り‥‥特に"甘い日々"の途中での展開(ジャジーな雰囲気でスタートして、後半いきなりロックンロール風に曲調が展開する)等、当時のバンドとしてはかなりレベルの高いものだったのではないでしょうか?
時代背景をみても、このバンドが結成された'72年頃というのは頭脳警察に代表されるような側面を持った時代だったといえるわけですよ。勿論、全てのロックバンドがそういう方向に進んでいたわけではなく、キャロルはただ単に「人間としての主義主張」を前面に出すよりも「ミュージシャンとしての主義主張」を前面に出したかったんだな、とこのベスト盤を聴いて何となく思いましたね。それはそれで間違っていないと思うし、だからこそこのバンドは成功し、矢沢永吉という人は今でも現役で活躍し、多くの人間の心を動かす曲を作ったり、観た人をハッピーにさせるエンターテイメントショーを年間数十本もやってのけているんですから。やはり「凄い」の一言に終始しますね。
最近の、枯れた魅力も捨てがたいですが、やはり20代だった矢沢の若い声も魅力的だし、そして何よりもジョニー大倉の甘い声にこちらまで酔ってしまいそうになります。いや冗談抜きで。ロックのルーツを追ってビートルズやストーンズ、LED ZEPPELINやDOORSを聴き漁る洋楽ファンは多いと思いますが、例えば今の日本の若いロックバンドが影響を受けたような'70~'80年代のバンドを聴き漁る邦楽ファンってのは、正直なところどれくらいいるんですかね? はっぴいえんど等はよく話題にされると思いますが、同じような理由でキャロルに手を伸ばす人達がどれくらいいるのか、正直疑問です。幸い、このベスト盤はトップ10ヒットも記録したようですし、中年以上の「昔、少年少女だった」大人達だけでなく、それこそ10代のロックファンにも聴いてもらって、純粋に楽しんで欲しいですね。こうやって俺が偏見を乗り越え、純粋に楽しめたようにね。
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