もうね、最初から勝負は決まってたわけですよ。チケットは抽選、たったの5公演、しかも東京公演のみ。このチケットを入手できた人達は優越感に浸れるわけですから‥‥一部のコアな音楽ファン以外の、恐らく会場の大半を埋め尽くしていたであろうライトなファン(下手したらシングルヒット曲しか知らないような連中)は、もうその事実だけで十分、平均点程度のライヴを見せられても「サイコーだった!」と言わせちゃうだけの空気が常に漂っていたんですから‥‥
といわけで、宇多田ヒカルの日本武道館5公演の最終日に行って来ました。生で宇多田を観るのは今回が初めて。これまでは「テレビの中の人」だった彼女が、あんな曲やこんな曲も歌ってくれるのかなぁ‥‥という期待で胸一杯。セットリスト関係は全く目にせず(ま、スポーツ紙等に「○○からスタートし~」とか「本編最後に○○を歌い~」なんて記述があったので、若干は知っていたんですが)、可能な限りまっさらな状態でライヴに挑みました。
で、いきなり結論から書いてしまうと、ある意味でこの「出来レース」は成功であり、そしてそういった「出来レース」であったからこそのハプニングにドキリとさせられたりもし、いろんな意味で興味深いライヴだったな、と個人的には感じました。
既にご存じの通り、この日の彼女は終始挙動不審気味なMCを続け(ま、ステージ慣れしてない分、基本的には喋りは上手い方だとは思いませんけど)、ずっと疑問に感じてたんですが‥‥実はそれが『最終日。ライヴが終わってしまうのが名残惜しい』からそうさせていたんだということが、ステージが進むにつれひしひしと伝わってきました。
基本的に宇多田はライヴ慣れしていない、所謂「作品(録音)重視」のアーティストだといえます。例えば年間100本以上ものステージをこなしているモーニング娘。だとか、意外にライヴをやってる倉木麻衣等と比べてしまうと、その辺の魅力は若干落ちるのかもしれませんし、実際ステージでの身のこなしや喋りに関しては改善の余地があると思います。しかし、どうなんでしょう‥‥そういったアーティスト達と比べることに、こと宇多田ヒカルというシンガーをそういった枠に当てはめてしまうことに、どれだけの意味があるのでしょう。彼女のMCはプロの、カリスマ的シンガーのそれには程通り内容かもしれません。けど、俺はそれを彼女には求めたりしない。彼女をよく知れば知る程、もっとくだけた‥‥それこそオフィシャルサイトの日記で繰り広げられるような会話を聞きたいんじゃないかな? 少なくともあの場にいた何割かの濃いファンはそれを求めていたと思うし、だからこそああいった内容でも満足できたと思うんですね。勿論、彼女に対して「歌」しか求めていないドライなファンにとっては蛇足に過ぎませんが、『宇多田ヒカル』という人間に興味を持つファンにとってはあの日のライヴ、そしてMCはそれに十分応える内容だったと、今でも胸を張って言えると思います。
さてさて、そんなMCについての話題はさておき‥‥話題を戻します。挙動不審気味だった彼女。アンコール1曲目 "幸せになろう" では、歌い出しの数小節で急に両手で顔を覆い、泣き出してしまったのです‥‥ってこの話題もご存じですよね。その後、「チョットごめーん!」といってステージ袖に引っ込む宇多田。呆気にとられる客、笑う客、いろんな反応があったのですが、俺はね、なんだかこの時の宇多田に「21歳の、普通の女の子としての宇多田ヒカル」を垣間見てしまった気がしてね。何だかチョット得した気分だったのね。その後もずっと、今にも泣き出しそうな感じで喋ったりしてたけど、やっぱり歌い出したら違うのよ。そこはプロだなと感じた。
‥‥ってこれで終わったら怒られそうだな、いくら何でも。ライヴレポになってないし。えっと‥‥簡単に書くと、とにかく圧巻の2時間半だった、と。終始歌えるライヴってのは凄いと思うのよ。だってさ、そこまで濃いファンでもない俺ですら、最初から最後まで知ってる曲のオンパレードだったんだから。つまり言い方を変えれば、それだけ知らず知らずのうちに宇多田のアルバムを聴き込んでいたんだなぁ、と。オープニングの "光" で唐突にスタートする場面で驚かされ、そのまま "traveling" でノセらた後は、まったりしたテンポのR&Bナンバーが続くのですが、最初は身体が温まってなかった印象を受けた宇多田の声も、次第に伸びやかになっていき、中盤の "Can you keep a secret?" 辺りではかなりイイ感じに持ってこれてた気がします。が、かなり歌うのが難しそうな "Wait & See ~リスク~" の頃にはちょっとピークを過ぎて厳しそうな印象を受けました。けどそこまで酷い印象は受けなかったし、元々こもり気味な声質のお陰でだいぶ助けられてたかな、という気も。あと、ずっと気になってた「曲によってキーを下げる」行為ですが(半音下げくらいかな?)、全部そんな感じなのかと思ったら、実際には "光" と "COLORS" だけだったようです。それ以外の曲はちゃんと原曲のキーのままで、しっかりと歌っていました。
やっぱり圧巻だったのは、"First Love" ~ "Deep River" という怒濤のバラード二連発かな。ここで初めて鳥肌立ったし、特に後者は個人的に好きな曲ということもあってか、聴いてるうちにどんどんその世界観に引き込まれて、終いには涙ぐんでましたからね。決してベストな状態ではなかったと思うんですが、底力を見せつけられたような感じで身震いしましたよ。
今回のライヴに際して新たにバンドメンバーを集めたようですが、過去のライヴと比べてかなりシンプルな編成になっていることにちょっと驚かされました。ギターが二人というのは理解できるんですが、その他がドラムとベース(リズム隊は外人、しかもベースは女性!)、キーボードとパーカッション、更にマニピュレーターのみという編成。しかもマニピュレーターはステージ上にはいないので、実質メンバーは宇多田を含め7人。コーラス隊もブラス隊もなし。今回、ハーモニー等のコーラスは全部マニピュレーターがフォローしてました(スタジオ音源からコーラス部のみ抜き出し、宇多田の生歌に被せていた)。最初はちょっと違和感を感じましたが、慣れてしまえば全然アリかな、と。普段ハロプロのライヴとかで慣れてるしな、この辺は。
‥‥と。全然レポートらしくないレポですが、如何ですか? 思いついた事をちょこちょこ書いてみましたが‥‥ま、今回のライヴを観て一番言いたかったことは前半部に書いているので、俺的には満足なんですけどね。
次に宇多田のライヴが観れるのは一体何時になるのやら。ステージを去る前に「今度はもっといろんな土地を、くまなく回るから!」って言ってたけど、まぁ実質そんなのは無理に決まってるんで(せいぜい東名阪と北海道&福岡を軸にした地域でしょうね)、とにかく次回は新しいアルバムを引っ提げて、数多くこなしてください。数をこなした後、最後に東京に戻って来て、今回不平不満をこぼした輩を見返してやってくださいな! あなたはそれが出来る人なんだからさ。
[SETLIST]
01. 光
02. traveling
03. Letters
04. Another Chance
05. In My Room
---MC---
06. Can you keep a secret?
07. Addicted To You (up-in-heaven mix)
08. SAKURAドロップス
09. サングラス(リハーサルでの映像にて)
10. 甘いワナ ~ Paint It, Black
11. Movin' on without you
12. 蹴っ飛ばせ!
13. Wait & See ~リスク~
14. COLORS
15. First Love
16. Deep River
17. Distance
18. 嘘みたいなI Love You
---MC---
19. Automatic
---encore---
---MC---
20. 幸せになろう
(冒頭部で泣き出し、中断。後に再演奏)
---MC---
21. B & C

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