小沢健二『犬は吠えるがキャラバンは進む』(1993)
もう10年ですよ、この「犬は吠えるがキャラバンは進む」がリリースされてから。この10年の間にアルバム、たったの4枚ですよ。しかも3枚目と4枚目の間、5年くらいですよ‥‥実質、小沢健二が精力的に活動したのって、'90年代半ばだったわけですよ。フリッパーズ・ギターの解散があって、その後このアルバムを作って、そこからの快進撃をリアルタイムで通過した人達って、もう20代半ばから30代だったりするわけですよ。そりゃオザケンも年を取るわけだわ。
俺ね、フリッパーズが大嫌いだったの。今でも進んで聴くタイプの音楽じゃないんだけど、以前よりは聴けるようになってきた。何でだろう、あの当時('90年代初頭)の俺、ああいう小洒落た音楽が苦手だったというか‥‥ま、ヘヴィでハードコアな世界にドップリ浸かってた時期ですしね。デビュー盤~セカンドまではリアルタイムで普通に聴いてて、それ以降の盛り上がりに気後れして‥‥以降、オザケンソロやCorneliusが登場するまで、彼等に対して嫌悪感みたいなのがあってね。だからよく、同年代の人達と当時の音楽の話をする時、絶対にフリッパーズの話題になっても俺、全然着いて行けなくて。まさか「大嫌いだった」とは言えないしね。
そんな俺が、彼等に対して好意を抱くようになる切っ掛けが、実はこのアルバム。シングル"天気読み"は普通にTVの深夜番組で観たり聴いたりしてたんだけど、特にどうって思わなかったのね。
ところがね、その後このアルバムを聴く切っ掛けを得たんですよ。まぁ自分で買ったり借りたりしたわけではなくて、当時一緒に住んでた彼女が友達からこのアルバムを借りてきて。で、そこで初めて通してアルバムを聴くわけですよ‥‥何かね、最初は全然印象に残らなくて。オザケンの歌い方、その後と比べると特別ここでは淡泊じゃない? そういうのもあったんだろうけど‥‥
けどね、2度3度とリピートしてるうちに自然と口ずさんでるのね、アルバムの曲を。最初は"暗闇から手を伸ばせ"であったり"地上の夜"であったり。でその内に今度は"昨日と今日"とか"ローラースケート・パーク"辺りを覚えちゃったりして。"向日葵はゆれるまま"でまったりしたり、"カウボーイ疾走"にちょっと自分が好きな空気を感じ取ったりとか‥‥そういう風に、何度も繰り返し聴く度に好きになっていったアルバムなんですよ。
やっぱり今でもこのアルバムを聴く時って、そういう当時の淡い想い出が脳裏をよぎるのね。だから余計に切なくなるんだ、聴いてるこっちが。別に想い出に浸りたくて聴くわけじゃないんだけど‥‥
このアルバム、現在は廃盤扱いで。確か数年前に「Dogs」というタイトルでジャケット変更されて再発されたんだった(→ジャケットはこれ。真っ白ですが、CDケースがカラフルなので目に付くはず。あ、中身は再発前と一緒です)。その後、全ての音源が廃盤扱いになったわけだけど、去年新作のリリースに合わせて「Dogs」、「LIFE」、「球体の奏でる音楽」の全3作が再発されたので、何とか聴けるわけですが‥‥やはりこのアルバムは(オザケンはこの呼び方を推奨してなかったけど)「犬キャラ」バージョンの方を手にして欲しいな。オザケンによるセルフライナーノートがあるんですよ(再発の際にカットされた模様)。これを是非読んで欲しいなと。最初に一回通して聴いて、その後ライナーノート読んで、歌詞を読みながらまた聴く。それを是非実行して欲しいなと。そして"天使たちのシーン"にシビレて欲しいなと思うわけです。
オザケンの全作品の中で一番好きなアルバムというわけではないんだけど、一番印象に、そして一番想い出に残ってるのは間違いなくこのアルバム。他人の評価はそれぞれでしょうけど、俺にとっては忘れられない、かけがえのない1枚なのです。
▼小沢健二『犬は吠えるがキャラバンは進む』
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