2003/03/29

羅針盤『はじまり』(2002)

  古くはBOREDOMSや想い出波止場、現在ではROVO等、とにかくいろんなバンド/ユニットで活躍しているギタリスト/シンガーの山本精一。今回取り上げるのも、その内のひとつである羅針盤という、サイケデリック・ロックバンド。山本氏自身がボーカルも兼任していて、フォーキーな歌にサイケで広がりのあるギター&キーボードが被さる、非常に聴いていて気持ちのいいサウンドが約60分に渡って繰り広げられる、ある意味「和み系」であり、またある属性の方々にとっては「あっちの世界への橋渡し」的作品と言えるでしょうね‥‥へっ、俺ですか? そんなの、どっちでもいいじゃないですか‥‥聴いていて気持ち良ければ‥‥

  羅針盤は数年前に出た「らご」というアルバムを最初に聴いたっきり、全然追ってこなかったのですが、昨年その山本氏が参加するROVOを観る機会があり、そこで彼に非常に興味を持ったんですね。で、再び「らご」を引っ張り出して‥‥そうこうする内にROVOも新作「FLAGE」をリリースし、同時期に羅針盤の方もこの「はじまり」をリリースしたという‥‥ええ、両方買いましたけど。

  ROVOの方はまた別の機会に取り上げるとして、今回は羅針盤のレビューってことで、この「はじまり」というアルバムについて書いていきます。

  このアルバムをまず聴いて思ったのは、最初に「歌」があって、そこにサイケとかそういった装飾が乗っかったような印象を受けました。サイケなバンドをやろう、というよりもまず最初に「歌モノバンド」というコンセプトがあって、たまたま演奏してる内にこういう音になっていった、という流れだったんじゃないでしょうかね。いや、ホントのところはよく判りませんが、歌や歌詞がサイケなサウンドに打ち消されることは決してなく、むしろその歌声や歌詞さえもがサイケサウンドの一部として成り立っていて、既になくてはならない要素としてそこに存在しているんですね。

  サイケサウンドっていうのは、所謂ドラッグカルチャーから生まれたものであって(そしてその多くがドラッグを通してより理解を深めることが出来るという)、正直彼等がドラッグ‥‥まぁマリファナ等をドラッグと呼ぶのは正直心苦しいのですが。俺の中ではああいうハッパ系とケミカル系は全く別物という認識がありますからね‥‥を通してこういう音楽を作っているとは思えないのですが、それでも所謂「素面」の人間が健康な状態で聴いても、そういう疑似体験をすることができる、トリップしたような気持ちになれるサウンドを見事に再現してると思いますね。例えば、ドラッグと呼ばれる類のものと無縁な中学生~高校生がこのアルバムを聴いても純粋にいいと感じるだろうし、擬似的にトリップしたかのような気分になるだろうし、「ああ、サイケってこういうのだよな?」とさ感じると思うんですよ。そういう意味では非常に健康的なアルバムかなぁ、と個人的には思います。

  中にはサイケやドラッグというと、所謂ドゥームロックやストーナーロックというジャンルを思い浮かべる人も多いと思いますが、これはそれとは似て非なるものだと思いませんか?(ま、ストーナーロックをやってる連中が皆マリファナでキメて音楽作ってるとは正直思いませんけどね)

  '60年代後期に流行ったサイケサウンド‥‥サイケロックであり、サイケなフォークであり‥‥を忠実に再現しながらも、非常に現代的なアレンジで表現している。例えばそれは最近のRADIOHEADやBLURといったバンド達にも共通する面を持っている。けど、そういったバンドとの決定的な違いは「バンドサウンドに最後まで拘っている」点や「結局、根本にあるのは歌」という点ではないでしょうか? どっちの方がより優れているという問題ではなく、装飾的な点は共通するものがあっても、基本的な考え方や取っ掛かりの違いで、それぞれ独自の個性というものが際立っているように感じます。そういった意味ではむしろFLAMING LIPSやMERCURY REVといったバンドに近いのかもしれませんね(で、そういったクラブミュージック的側面はROVOで体現しているという、ね?)。あそこまで「音響系」的側面は強くないですけどね。意外と共演したら面白いと思いませんか?(で、フジロックの「FIELD OF HEAVEN」でライヴを観れたら‥‥完全に昇天しますね間違いなく)

  1曲が無駄に長い(殆どの曲が7分前後で、最大15分半もある曲も。7曲で55分というのも頷ける話)という声もあるでしょうけど、俺には無駄に思えないし、むしろ「歌に必要」「バンドに必要」だからこういった構成になったのでしょうし、それが羅針盤の特徴のひとつだと思っていますから、全然気になりませんね。普段パンキッシュなバンドばかり聴いている耳にはちと難解で長尺に感じられるかもしれませんが、こういう音楽をも楽しめる心の余裕、懐の深さを持って欲しいな、と勧める側としては思いますね。

  寝る前や休日の朝等、気持ちを落ち着けたい時によくこのアルバムを聴いています。ま、聴いてとても「やる気」になるような作品ではないと思いますが、こういうダウナー系の作品、大好きです(根が元々ダウナー系なもんで/笑)。



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投稿: 2003 03 29 12:00 午前 [2002年の作品, 羅針盤] | 固定リンク