佐野元春が'83年春に発表した、初のコンピレーションアルバム(ベストアルバムに非ず)「No Damage」。所謂「初期3部作」(「Back To The Street」、「Heart Beat」、「SOMEDAY」)収録曲を中心に、アルバム未収録のシングル曲や「ナイアガラ・トライアングル Vol.2」収録の元春ナンバーまで収めた、本人曰く「パーティーアルバム」とのこと。何故ベスト盤ではないかというと、「まだ(この時点で)トップ10に入るようなヒット曲がなかった」(本人談)から「グレイテスト・ヒッツ」ではなく、あくまで「コンピレーションアルバム」あるいは「パーティーアルバム」なのだ、と。ま、早い話が初期の集大成ですね。このアルバムのリリースと前後して、元春は日本を離れアメリカへと旅立っていったわけで、その帰国後にリリースされた「VISITORS」の内容を考えると、やはりこのアルバムで一区切りつけたのは正解だったのかもしれません。
文句なし、ブッチギリの名曲オンパレードで、既に20年近くずっと聴き込んでいるにも関わらず、全く飽きがこないのはさすがとしか言いようがないです。このアルバムがリリースされた当時、俺はまだ小学6年生だったんですが、実際に手に取ったのはその1年後、中学に入ってから。同じクラスになった奴に元春ファンがいて、まずこの「No Damage」を無理矢理押しつけられ、その後「VISITORS」に「???なんじゃこりゃ???」となり、暫くしてシングル "ヤングブラッズ" がリリースされ本格的にハマっていったという‥‥そんなこんなで20年近く元春を聴いているわけです。
何だろう‥‥このアルバムを聴いてると(いや、このアルバムに限らず初期の3枚を聴いてると)、気持ちが中学生の頃の自分に戻るっていうか。単純にあの頃の想い出が蘇るんじゃなくて、あの頃は借りたレコードの歌詞カードを読みながらレコードやカセットを聴いたなぁ、そして今でも完全に暗唱できる程、心に刻み込まれた歌詞の数々‥‥メロディの美しさ、楽曲のポップさは勿論ですが、やはり心に残る歌詞が沢山あったわけですよ。"ガラスのジェネレーション"の「つまらない大人にはなりたくない」とか、"SOMEDAY"の「いつかは誰でも 愛の謎が解けて ひとりきりじゃいられなくなる」とか、"グッドバイからはじめよう"の「ちょうど波のように さよならが来ました あなたは よくこう言いました 終わりは はじまり」とか、"情けない週末"の「もう他人同士じゃないぜ あなたと暮らしていきたい <生活>という うすのろを乗り越えて」とか‥‥勿論、ここに挙げた以外にも沢山の名言・名歌詞があるんですが、それを全部書いてたら‥‥歌詞カードまる写しになっちゃうんで。とにかく心に残る歌詞多すぎ。元春に少なからず影響を受けている尾崎豊の歌詞が「心に刺さり、刺さりっぱなし」なら、元春の歌詞は「心に刺さり、時が経つとやさしい気持ちになれる」んですよね。あ、どっちも好きですよ俺。
音楽的な素晴らしさは、とにかく聴いてもらえば判るでしょう。'80年前後に登場した2組のアーティストがその後の日本のロック/ポップス・シーンを変えてしまったと言っても過言ではないですよね‥‥そう、元春とサザンオールスターズですね。'70年代的なスタイルを引きずりつつも、それまでの日本の音楽シーンには殆ど見当たらなかった要素を持ち込んだという意味では、本当に語り継がれるべき存在だと思います。元春やサザンの'80年代の作品群というのは、本当に今聴いても衝撃を受けるような作品ばかりなんですよね。洋楽的なものを今で言うJ-POP的にアレンジした、いや、そのものをやろうとしたら結果オリジナルなものが出来てしまった。そういう感じで彼等のスタイルが生まれたんでしょうね。特に元春は音楽的にもバンド編成にもブルース・スプリングスティーンの影響丸出しですしね。ぶっちゃけ、"SOMEDAY"はスプリングスティーンの "Hungry Heart" だし、ツイン・キーボードにサックスを含む編成はまんまE・ストリートバンドだしね。けど誰も"SOMEDAY"をパクリだといって非難しないし(いや、当時は非難されたし今でもたまに非難する人見かけるけど)、逆に今やスタンダード・ナンバーと化してるわけでしょ。結局は「歌」なんですよね。歌や歌詞、メロディが持つパワーが勝っちゃったわけ。そして"SOMEDAY"のみならず、ここに収められた14曲全てにそういったパワーを感じるわけですよ。
もしこれから元春を聴いてみようと思ってる人。過去20年をまとめた2枚組ベスト盤も出てるけど、まずはこの「No Damage」から聴いてみてはどうでしょうか? お手軽だし、本当に流れがよくて、アッという間に50分経っちゃうしね。オリジナルアルバム級の名盤です。

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