加藤いづみ『skinny』(1994)
加藤いづみにとって1994年っていうのは、前年('93年)に突然訪れた "好きになって、よかった" による中ブレイクを、どう持続させるか、あるいは同曲で彼女に興味を持った人をどのようにして完全にこっち側に振り向かせるか‥‥という、恐らくこれまでの彼女の音楽人生の中で一番「戦った」1年だったんじゃないでしょうか。その結果、アルバム2枚(内1枚はベスト的内容)という、これまでで一番リリースの多かった1年だったように、あれから10年経った今、思うわけですよ。
通算4作目となるこの「skinny」というアルバム。8曲しか入っていなってことでミニアルバムと捉えることもできますが、前述の "好きになって、よかった" 以降、そしてそれよりも前にリリースされながらもオリジナルアルバムに収録されていないシングル曲が幾つかあるにも関わらず、それらを排除してまで「オール新曲」によって構築された作品集。実験的とも挑発的とも取れますが、それ以上に「従来のファンにも、"好きになって〜" 以降のファンにも、『新しい加藤いづみ』を提示したい」という意思表明のように俺は受け取ったわけ。実際、それまでの3枚と比べると何となくだけど‥‥あぁ、何か新しいことに挑戦したいというか、更にワンランク上にステップアップしたいんだな、というような聴こえ方をしたんですね。
聴き方によってはそれまでの延長線上にある作風だろうけど、1曲1曲と取り上げると意外とこれまでとはタッチが若干違ってきているように感じられるのね。例えばアルバム冒頭の "ハッピーエンド・カフェ" と、最後を締めくくる名曲(そして先行シングルでもある)"坂道"。この2曲は特にこれまでより更に上のステージに上がりたいという意思の表れじゃないかと思える程に、作り手側の気合いがビシビシ伝わってくるんですよ。で、個人的にはそれらが上手くいっているように感じられました。というか、シングル(実は前者は "坂道" のc/w曲でもあるんですが)を最初に聴いた時点で、思わず小さくガッツポーズをしちゃったくらい。それくらい会心の一撃だったんですよ。それもあってか、この年は彼女のライヴ、結構行ったもんなぁ。「地球を救え!」の武道館ライヴもこの年でしたっけ? あれも何とかチケット取って行ったよなぁ‥‥とか。このアルバムを聴くと、いろいろ思い出すことが多いですね。
残念ながらそういった作り手側の意思は完全に聴き手に伝わらず、このアルバムも思った以上のセールスを記録できませんでしたが、個人的には2nd「星になった涙」に匹敵するくらいの作品集です。決して派手なスタイルでもないし、癖のある歌声が人によっては苦手意識に作用するかもしれないけど、やはりこの人は俺にとって「一番大好きな女性シンガー」ですから。贔屓目を抜きにしてもね‥‥いや実際には抜きにすることなんて出来ないんですが(笑)。
▼加藤いづみ『skinny』
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