54-71『enClorox』(2002)
正にそんな言葉がピッタリな、54-71のメジャーファーストアルバム。簡単なデータ的なことから書きますと‥‥シカゴにあるスティーヴ・アルビニ(オルタナ界にこの人あり、と言われる人。最近ではプロデュース/エンジニアとしても有名で、NIRVANAの「IN UTERO」もこの人が手掛けた)所有のスタジオで、レコーディングされたとのこと。別にアルビニがレコーディングに携わったわけじゃないんだけど、うん、何となくその雰囲気だけは伝わってくる音作りがされてるよなぁ。
このバンドのこのアルバムを指して、皆さんはどういうジャンル分けをしますか? いや、本来ジャンル分けなんて必要ないし「ロック」で十分なわけだけど、あえてやるなら‥‥ロック、ヒップホップ、ラップメタル、ガレージロック‥‥そのどれにも当てはまらないという気がするのは俺だけでしょうか? いや、ロックはロックだけどさ‥‥決して新しい道を開拓したとかそういった路線ではないんだけど、どこでも聴いたことのないような気がする音なんだよね。音数が異常に少なくて(ドラムに関してはバスドラ、スネア、ハイハットのみという)隙間だらけ。ボーカルは英詞で歌われ、ヒップホップ調なのかと思わせといて、メロディアスな曲も登場する。けど、この音像のせいで統一感だけはある。非常に不思議な「個性」を持ったバンドなわけで(まずバンド名からして個性的だしな、うん)。
俺ね、このジャケットに惹かれたのよ、まず(このバンドの音に触れるのは、このアルバムが初めて)。この水墨画タッチのジャケットに。純日本風な絵柄なのに英詞。水墨画なのにロック。音聴く前はまずそこに惹かれて。所謂「ジャケ買い」ってやつですね。んで実際聴いてみると‥‥これが一致するんですよね、ジャケットと音とが。
結構いろんなタイプの楽曲が入っていながらも決してカラフル過ぎず、むしろモノトーンといったイメージが強い彼等の音。メロウな曲に載るボーカルラインも決して派手にはならず、どこかもの悲しさを漂わせる‥‥モノクロのイメージが強いんですよ。勝手な思い込みかもしれませんが。ラップ調の曲にしても、非常に隙間の多い演奏で、やはりどこかモノトーン調なんですよね‥‥そこがいいんですけどね、このバンドの場合は。
ボーカルが感情を押し殺したように歌ったりラップしたりするのも、またこのバンドの個性といいましょうか。"humpty empty mellow blues"や"swamp disco"で聴けるラップも余所のラップメタルやラッパーとは違い、熱すぎず冷たすぎずという絶妙なバランス感を保ってるし、メロディアスなポップナンバー"doors"にしろもの悲しさの点ではブルーズと呼んでいいだろう"don black cock"にしろ、同じトーンで歌われているのね。しかも英詞だから歌詞の意味が判らない分、余計に単調に感じそうなんだけどさ‥‥けどそれが単調に感じられないのは、やはりこのバンド特有のグルーヴ感や表現力によるものなのかなぁ。
聴いて暴れるぜ!とか熱く燃えたぎるロック魂に痺れるぜ!とかその類のバンドではないんだけど、非常に面白い存在ですよね。これもポストロックと呼ぶべきなのか、はたまたもっと違ったジャンルを確立したのか‥‥けど、やっぱりそんなのどうだっていい話であって、「ロック」でいいんですよね、うん。下手な先入観や情報量が多ければ多いと、純粋に楽しめないことが多いので‥‥ここはひとつ、騙されたと思って聴いてみてください(ホントはこんなの読まずに聴くのが一番なんだけどね!)
▼54-71『enClorox』
(amazon:国内盤CD)