カーネーション『LIVING/LOVING』(2003)
カーネーション通算11作目にして、3人編成になってから初のアルバム「LIVING/LOVING」。実は俺、カーネーションのアルバムを聴くのって「EDO RIVER」以来なんですよ。だから‥‥(と、手元にあるCDのリリース日に目をやる)‥‥げっ、9年振りですか!? そんなに経つんだ。結構聴いてるつもりだったんだけど、全然聴いてなかったのね。反省。
それまで5人編成だったバンドからギターとキーボードが脱退して、辛うじてスリーピース編成が残ったわけですが、そういう事も影響してか、内容的には荒々しさと大人の色気が非常に上手くブレンドした素晴らしい1枚になっています。
前半はどっちかっていうとポップで落ち着いた印象の楽曲が続くのですが、特にブラス(東京スカパラダイスオーケストラの面々)が参加した"春の風が吹き荒れているよ"のポップ感や、"LOVERS & SISTERS"のソウルフィーリングがいいですね。勿論、頭3曲の流れは個人的にもかなり好みなんですけどね。
ところが4曲目で空気は一変、ヘヴィなディストーションサウンドが格好いい"あらくれ"はまんまタイトルの通り、埃っぽいシンプルなロックンロール。直枝政広のシャウトも若々しさよりも大人の色気を感じさせるもので、何故か先月取り上げたオリジナル・ラヴを思い浮かべてしまいました。ただ、荒々しいサウンドを取り入れても、そこはカーネーション。サビになると甘くて切ない程ポップなメロディが炸裂するんですね。そして再び落ち着いた"永遠と一秒のためのDIARY"。ブルージーというかソウルフルというか、そういうアダルトなバラード。この曲だけ今年1月のライヴテイク。"あらくれ"の後にこのテイクを持ってくる辺りに、彼等のセンスを感じますね。すっげー格好いいし、痺れる。とても20代のバンドには真似出来ない世界観・空気感。
そして後半戦。攻撃的で荒々しいロックンロールショーが再開します。"COCKA-DOODLE DOOO"、ちょっとファンキーなロックンロール"ハイウェイ・バス"‥‥この2曲を聴いてて思ったんですが、直枝の歌声やちょっとした節回しってHEATWAVEの山口洋に似てないですか? 勿論山口の方がもっと太くてハスキーな声なんですが。特にこの"ハイウェイ・バス"のAメロを聴いてたらそう感じたんですよね。あれ?って。
2曲走ったところで、更に埃っぽいブルーズナンバー"愚か者、走る"でクールダウン。個人的にはベストトラックですね。いや、捨て曲なしで全部いいんだけど、単純に好みの問題というか。ああ、こういう曲自分で歌ってみたいよなぁ、って。直枝のファルセットといい枯れた感じを上手く表現したギターといい、とにかくお見事。そしてちょっとだけテンポアップして、黒っぽいロックンロール"BLACK COFFEE CRAZY"。シンプルな曲は徹底的にシンプルなアレンジで、コード進行的にも基本はスリーコードなんだけど、サビになると「カーネーションらしさ」が炸裂しまくるという。その辺が数いるロックバンドとの違い。続く"USED CAR"も真似出来そうで実は簡単には真似出来ないという、ホント独特な色を持った曲。アルバム最後もブルージーなロックンロールナンバー"OOH! BABY"で閉めるという構成。頭3曲がちょっとお洒落な雰囲気を醸し出していたので「3人になってもサポートメンバーを迎えたりして、凝ったことをやっていくのかな?」と思わなくもなかったんですが、その後の展開は上記の通り。最後まで通して聴いてしまうと、決して頭3曲が浮いているわけでもなく、むしろ統一感がしっかり出てるなと再認識できるんですよね。徐々に体温を上げていくような、そんな構成というか。スロースターターという表現が合っているかどうか判りませんが、例えば「国産車やスポーツカーみたいなスタートダッシュで勝負をつける」ような若手バンドのそれと違って、カーネーションの新作の場合は「アメ車」的な印象を受けるんですね。勿論これ、最大級の誉め言葉ですよ。でも普通のアメ車と違って、日本人が乗りやすいように要所要所を改造してるという。その辺が「大味なアメリカンポップ」との違い。日本人による、日本人ならではの味わいといいましょうか。そんなところがこのアルバムの魅力なんじゃないでしょうかね。
もしかしたら俺、10年前だったらこういうアルバムをこんな感じに楽しむこと、出来てなかったかもね。それって結局、俺も歳を取ったってことなんでしょうかね? だとしたら‥‥俺は歳を取ることを決して恥じたりしないし、むしろ大歓迎ですね。ここ数ヶ月のオススメ盤はこういった「30代後半以上の大人が鳴らすロック」を取り上げてきましたが、ホントしっくりくるんですよね。今年の秋はこのアルバム聴きながらドライヴしまくりたいです。
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