桑田佳祐『孤独の太陽』(1994)
先月、サザンオールスターズがデビュー25周年を記念して、そのデビュー日と全く同じ日にデビュー曲「勝手にシンドバッド」をスペシャルエディションで再発したわけですが、これが何と1位を取ってしまうという快挙を果たしまして。「何やってんのよ、現役の若手達!」って気持ちもなきにしもあらず、まぁ結局は「限定盤」って言葉に弱い日本人のこと、買っちゃったんでしょうね。ベスト盤やら何やらに絶対に入ってるから、サザン聴くような人なら必ず持ってる曲なのにね。
んで、そういうこともあってか、たまたま古い友人とメールにて「一番好きなサザンのアルバムって何よ?」って話題になりまして。「好きな曲」ってことになるとまぁいろいろあると思うんですが、ことサザンのオリジナルアルバムになると、全然想像がつかないんですよね、他人の選びそうなのが。んで実際、自分が選んだのって、「KAMAKURA」か「SOUTHERN ALL STARS」のどっちかってことで、結局最後まで1枚には絞れませんでした(ちなみに友人は「人気者でいこう」を選びました)。それぞれに思い入れがあるアルバムだけに、しかも共に初めて買ったサザンのLP(アナログレコード)とCDなんですよね。だから余計に思い入れあるんですよ。
で、逆に今度は「だったら桑田佳祐のソロだとどれ選ぶ?」ってこっちから質問し返したんですよ。そしたら面白いことに、こっちはふたりして意見が一致したんですよ。それが今回取り上げる「孤独の太陽」なんですけどね。
このアルバムは'93年の桑田ソロ活動再開後の集大成として'94年9月にリリースされた、ソロアルバムとしては2作目のオリジナルアルバムになります。'93年秋にシングル"真夜中のダンディ"を発表後、少し間が空いて翌年夏にシングル"月"を発表後、このアルバムを発表したわけです。とにかくこの時期の桑田は活発で、アルバムを出した後にもシングル"祭りのあと"(このアルバムには未収録)を、翌'95年初頭には当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったMr.Childrenと共にチャリティーシングル"奇跡の地球(ほし)"をリリースしたりしています。
'80年代にリリースしたファーストソロ「KEISUKE KUWATA」は、ポップ職人としての桑田を見事に表現した素晴らしい内容でした。勿論、俺も当時よく聴きました。しかし、ポップを追求するという意味では彼にはサザンもあるわけで、この時のソロというのは今思うと「純粋なソロ」という気がしないんですよね。単純にサザンが上手く軌道しなかったからやってみた、といった感じ。実際の理由はちょっとど忘れしちゃったけど(原坊の育児休暇だったっけ? それはKUWATA BANDの時か?)。
けど、このセカンドソロに関しては、そういう「ポップ職人」としての色よりも、もっとドス黒い‥‥非常に内向的で、個を感じさせる内容になってると思うんですね。例えば使われる楽器にしても、ギター1本とハーモニカのみだったり、打ち込みを使用しつつもどこかバンドサウンドを意識させるものだったり、音色もカラフルというよりはモノトーンといった印象を受けるし。勝手な思い込みかもしれませんが、ここで聴ける楽曲は過去のどの楽曲・アルバムよりも「桑田佳祐自身」をさらけ出したものになってるんじゃないでしょうか。勿論そこは桑田のこと、自身をさらけ出しながらもどこかフィクションぽさを感じさせる色もしっかり見られる。単なるオナニーにならず、「音楽作品」として成立させるためのアレンジがしっかり成されています。
'89年から'92年にかけてのサザンの活動は、とにかく凄まじいものがありました。アルバムは3枚(「SOUTHERN ALL STARS」、「稲村ジェーン」、「世に万葉の花が咲くなり」)も制作し、ツアーもやり、しかも桑田は映画まで制作。ポップアーティストとしてここまでやれば文句ないだろ、と周りを威嚇せんばかりの働き振り。そして「ここまでやったんだから、次は好き勝手にやらせてもらう」と言わんばかりの内容になった「孤独の太陽」。頭2曲("漫画ドリーム"と"しゃアない節")がモロにボブ・ディランしてたり、言葉もなくなる程に素晴らしい"月"、ブルーズというよりは日本特有の「ブルース」に近い"僕のお父さん"、冴えが素晴らしい桑田流ロックンロール"すべての歌に懺悔しな!!"等、とにかく渋い。そんな中、キラリと光るのがポップ色豊かな"飛べないモスキート(MOSQUITO)"。これなんてサザンでそのままやっても違和感ない曲調ですしね(当たり前か、両方「桑田本人」なんだから)。前半の段々と盛り上がっていく構成、"真夜中のダンディー"を境に更に深い方向へと進んでいき、最後の最後に名曲"JOURNEY"で終わるという構成は、本当に今聴いても圧巻。いやぁ、本当にいいアルバムだわ。
2001~2年に三度ソロ活動を行った桑田。シングルでポップな側面を強調し、アルバム(「ROCK AND ROLL HERO」)でロック/ブルーズ的側面を強調、最後に集大成的な2枚組ベストで締めるという流れはとにかく圧巻でした。が、やはりどこか物足りない。それは「作家・桑田佳祐」の色合いが強かったからでしょうね。そういう意味では、このアルバムみたいな作風に戻ってくるにはもうちょっと時間を要するみたいですね。ま、気長に待たせてもらいますよ。
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