日暮愛葉『Born Beautiful』(2004)
日暮愛葉のソロデビューアルバム「Born Beautiful」は本当に素晴らしい「歌モノ」作品として仕上がっております。シーガル・スクリーミング・キス・ハー・キス・ハーという、その筋のファンにはたまらないバンドで約10年に渡って活動し、'02年に突然の活動休止。その後は元JUDY & MARYのYUKIのソロデビュー曲 "the end of shite" の制作・プロデュースを手掛けたり(後に自身でセルフカバーすることに)等しながら、自身も'03年秋にソロデビューシングル "NEW LIFE" を発表、年が明けた'04年1月にこのアルバムをリリースしたというわけです。
正直に白状しておくと、俺は「シーガル~」が微妙に苦手でした。嫌いではないんだけど、どうにも馴染めないという。感覚的な問題なので、どこがどう気に入らないとかそういうのは特にないんだけど‥‥そもそも「オルタナ・クイーン」だのという呼び名も好きじゃなかったし(アメリカにも同じように呼ばれたHOLEの コートニー・ラヴという人がいますけどね)、何かね‥‥うん。ダメだった。
ところが、そんな俺が何故かこのアルバムを手にしてる。しかもかなり愛聴してるし。これはもうね、先入観とかそういったものなしに、先の "NEW LIFE" を「ゆうせん」で何度も耳にして、ずっと気になってたからなんですよ。最初はそれが誰の曲だか知らずに聴いていて、しかも何度も聴くうちに頭から離れなくなり、気づいたら口ずさんでる自分がいて‥‥で調べたら、これが愛葉の曲だったという。
イメージが違う‥‥多分多くの人‥‥それは俺みたいに「シーガル~」に苦手意識を持って避けて通ってきた人‥‥はきっとそう思ったことでしょう。緩くて、まったりしていて、暖かい。それがこのアルバムの、そしてこのアルバムでの日暮愛葉のイメージ。地に足が着いたような、そんなテンポが全体を覆っていて、聴いていて妙に心地よい。特に変なことをやってるわけじゃないのに、どこかヘンテコな印象を受ける。だけど「変わり者」的なイメージはなく、ごく自然に、当たり前のようにそこで「鳴って」いる音と歌。録音方法もあるだろうし、アレンジも関係あるだろうし、そして何よりも愛葉の肩の力が完全に抜け切ったボーカル‥‥これら全てがこのアルバムを優しくて強いものに仕立て上げた要素であり、これらひとつが欠けてもこのアルバムは成り立たなかったはず。そう言い切れる程、鳴っている音や空気まで、全てから存在感をひしひしと感じるし、自信が漲ってる。「いらない無駄」は完全排除して、「必要な無駄」は積極的に取り込んでいる‥‥そんなアルバムではないでしょうか。
バンド時代にアグレッシヴな路線で突っ走った人が、ソロに移行した途端にルーツロック的な「まったり」路線に、あるいはギミックにこだわった人達が、ソロになったらシンプルな「歌モノ」にスタイルを変えるのは実際によくあることです。バンドが派手であればある程、その反動は大きい。日暮愛葉の場合がこれに当てはまるのか、正直疑問ですが‥‥いや、それとは違う流れを感じるな。多分、今の彼女にとって、この方法こそが最も「アグレッシヴ」なものだったのかも。そう感じずにはいられない程の高水準な1枚。オルタナファン(オルタナファン?)だけじゃなく、普通に女性ボーカルものを好んで聴く人にも進んで聴いていただきたいアルバムです。
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