永井ルイ『OOPARTS』(2001)
この人をご存じだと言う人はかなりの宅録マニアか、かなりビートルズ~QUEEN周辺のブリティッシュ・ポップに精通してる人か、かなりのアニメヲタクか、はたまた重度のモーヲタではないでしょうか?
この初のソロアルバムの帯にはこう書いてあります。「日本のジェフ・リンが放つ驚異のポップ・アルバム」これだけでどういう人か想像がつくでしょう。そういう音像で作られた、'70年代のブリティッシュ・ポップ/ロックを彷彿させる音が詰まった、「ポップ玉手箱」がこのアルバムなのです。
永井ルイという人を初めて意識したのは、ローリー寺西が「すかんち」解散後に取り組んだソロプロジェクト、ROCKROLLYのアルバムを聴いた時でしょうか。確か当時ベーシスト兼共同プロデューサーとして参加していたのが、この人だったのです。キーボードの小川文明氏といい、ローリーが選んだ人なのだから、きっとローリーのルーツを共通するものを持った人なんだろうなぁ‥‥当時はこの程度の認識でした。
それが2000年夏、我が目を疑う衝撃の事実に直面します。同年7月に発表されたモーニング娘。内のユニット、新生タンポポ(加護と石川加入後)初のシングル"乙女 パスタに感動"を初めてテレビの歌番組で聴いた時‥‥「QUEEN‥‥しかも"Killer Queen"じゃねぇか、これ! しかもギターの音、もろブライアン・メイだよ!!」と驚いたのを今でも覚えてます。で、気になって別の番組でクレジットを探したら‥‥「編曲:永井ルイ」の名前が‥‥ここで初めて、ローリーと永井氏の間にある「共通項」を理解したのです。
その後も永井氏は時々娘。関係の楽曲編曲に携わっていて、2001年1月のミニモニ。"春夏秋冬だいすっき!"、同年11月のタンポポ"王子様と雪の夜"の各アレンジを手掛けています。アレンジだけに止まらず、全楽器のプレイ及びコーラスもほぼ全部吹き込む程の力の入れようなのです。更に使用楽器や録音方法にも拘り、やはりあのギターはブライアン・メイ・モデルを使用して、ベースにはポール・マッカートニーでお馴染みのホフナー・ベース(バイオリン型ベース)を、'60~70年代っぽい音をシュミレートして吹き込む程。コーラスもQUEENやELO、トッド・ラングレンみたいな何重にも重なったオペラコーラス。きっと多くのロックファンが、テレビの前で「なんでモーニング娘。がこんな曲やるの!?」と思ったはずです。
一番最初に書いたように、永井氏はつんく♂との仕事以前は、アニメのサントラを手掛けたり(勿論全曲作編曲及び全楽器演奏&全コーラス担当)、先のローリーと共に東京パフォーマンスドールというアイドルユニット(篠原涼子が在籍していたユニット、と言えばお判りでしょうか?)出身の八木田麻衣のユニットに参加したり、同じくアイドルグループribbonやQlair等への楽曲提供及びバックバンドへの参加等の仕事をしてきた人です。つまり、ブリティッシュ・ポップに精通してると同時に、アイドル・ポップにもそれなりに精通してる人なのです(俺自身は、アイドル・ポップの中にもかなり高度で優れた楽曲/アレンジが存在するのを知ってるので、かなり高く評価してます)。
永井氏はこのソロアルバム以前にも、1999年末にRUI'S HIPSLIPSという名義でアルバムを1枚発表しています(これも近々取り上げる予定)。そして約2年後の2001年9月に発表されたのが、このソロ名義としては初のアルバムです(7曲で30分少々という内容から、ミニアルバムとも言えますが)。うちのサイトをご覧の方の中にはQUEENやCHEAP TRICKが好きという人が多いようですが、このアルバムはそういった人にアピールするだけではなく、モー娘。経由でこういうポップ路線に目覚めた方にも、そしてポール・マッカートニー、トッド・ラングレン、ジェフ・リンといった「ポップ職人」にもアピールする、正真正銘のポップ・アルバムなのです。正直な話、俺はこのアルバムを2001年の10枚に選ぼうかどうか最後まで悩んだ程ですから。
QUEENの"We Will Rock You"や"Fat Bottomed Girls"を彷彿させる1曲目"WE ARE "ROCK AND ROLL""からスタートし、そのままELOやブライアン・メイの書く曲の空気感を持つ"Lookin' for sweet love"へと流れ、ポール・マッカートニーのソロ期一番おいしい頃を思い出させる"World Turning"やフレディ・マーキュリーの力強さを持ったキラーチューン"Confusion"等々‥‥最後まで気が抜けません。この節回しは誰々の影響だな、このフレーズは誰のだ、とか深読みすればいくらでも出来る完成度。マニアックに語ろうとすれば、いくらでも語れますよ、このアルバムは。けどね、そんな気難しい心配しなくても楽しめるのが、このアルバムのいいところでもあります。単純に、ポップで綺麗なメロディが詰まったアルバムとして楽しめばいいのです。JELLYFISH程幅広くはないけど、彼らが好きだったパワポファンにも十分楽しめる内容だと思いますよ。
そういえばこの人の歌声って、力強いロックチューンではブライアン・メイに、ソフトなバラードではポール・マッカートニーに似てるんですよね‥‥意識してやってるんだろうけど、そういう面も非常に好みです。モー娘。関係を含め、以上に挙がったバンドやアーティスト名に興味がある人は必聴盤です。インディー盤なので、大型店とかに行かないと手に入らないかもしれませんが(ネット通販でなら手軽に手に入れられるでしょう)、騙されたと思って聴いてみて下さい。
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