2001/12/11

市井紗耶香 with 中澤裕子『FOLK SONGS』(2001)

  企画盤とはいえ、「モーニング娘。」関係のアルバムでシングル・コンピレーション以外のフルアルバムがこうやって世に出るのは、もしかしたら2000年3月の娘。サードアルバム以来じゃなかろうか? とにかくそれくらい「久し振りにフルで聴く、初めて耳にする楽曲群」が沢山詰まった1枚。しかもそれを2000年5月に娘。を脱退した市井紗耶香と同じく2001年4月に脱退した中澤裕子のふたりで作っているのだから、非常に興味深い。

  2001年10月に市井の歌手活動再開及び11月にこのフォークカヴァー集をリリースする事、そして12月にはそのアルバムを引っ提げた初ソロライヴ(しかもライヴハウスで!)を行う事、更には来春には今回のプロデューサーでもあるシャ乱Qのたいせーと共にユニットとして本格的にデビューする事等が発表された。

  というわけで、今回発表された市井紗耶香復帰作は、あくまで「プレデビュー」作、今後彼女がどういう方向に進んでいくか、そしてたいせーが彼女にはどういった曲・メロディー・キーが合っているのかを確認する為の「はじめの一歩」に過ぎない。そういう意味では、我々リスナーはその「実験」、あるいは「リハビリ」にお金を払ってつき合わされているようなものか‥‥とはいうものの、収穫が多いのもまた事実。それは、市井の再出発の門出を祝う形で参加した中澤にも言えることだ。

  まず、アルバムを持っていない人の為に、カヴァーされた全収録曲とそのオリジナルを唄った人を明記しておく。


01. この広い野原いっぱい (森山良子)
02. 恋人もいないのに (シモンズ)
03. 秋でもないのに (本田路津子)
04. あの日にかえりたい (荒井由美)
05. 待つわ (あみん)
06. 花と小父さん (伊藤きよ子)
07. ふるさと (モーニング娘。)
08. かもめはかもめ (中島みゆき/研ナオコ)
09. 或る日突然 (トワ・エ・モワ)
10. 秋止符 (アリス/横山みゆき)
11. なごり雪 (伊勢正三/イルカ)
12. 時には母のない子のように (カルメン・マキ)
13. あ~よかった (花*花)
14. 白い色は恋人の色 (ベッツィ&クリス)
15. サルビアの花 (早川義夫/もとまろ)
16. 翼をください (赤い鳥)


見ての通り、'60~'70年代のフォークソングがメインとなっていて、その中に最近のヒット曲M-13やふたりの古巣のセルフカヴァー(とはいっても本家では安倍なつみがリードボーカルを取っていたので、ふたりがリードを取るのは実質初めて)といった曲も含まれている。大半の曲‥‥特にM-1やM-16等は学校の教科書にも載ってるような名曲だし、現在も第一線で活躍するユーミンや中島みゆきの初期の名曲‥‥は、若い子達にも判りやすいものではないだろうか? 思いっきり全曲口ずさめる自分もどうかと思うが(笑)とにかくそれくらい親しみやすい名曲を詰め込んだものだ。「FOLK SONGS」というタイトルに相応しいかどうか悩む選曲もあるが、そこは若い子達にアピールする為の戦略なのだろう。

  ゲストも豪華で、M-1とM-16ではモーニング娘。から安倍、飯田、保田、矢口、後藤の5人がコーラスで参加している。初期の娘。のコーラスワークには目を見張るものがあるので、ここでも当時を彷彿とさせるコーラスを堪能することができる。また、M-6にはフォークシンガーの杉田二郎、M-9にはばんばひろふみ、M-10には堀内孝雄がそれぞれデュエット(堀内はコーラス)で参加している。そういうこともあってか、このアルバムは我々若いモーニング娘。ファンだけに留まらず、「フォークソングが青春時代だった」年輩の方々にも好評だと聞く。うちの母親もこれらの曲の大半(M-7とM13以外ね/苦笑)を知っていたので、非常に親しみやすいと言っていた。音楽面で娘。関係がこれだけ広い層に影響を与えたのは、恐らく初めてのことではないだろうか?

  さて、肝心の内容の方だが‥‥フォークとはいうものの、我々がイメージする「アコースティック色が強い、弾き語り風」な曲というのは少なく、ディストーションギターを導入したバンド形態のロックアレンジあり、フレンチポップ風あり、打ち込みリズムにシンセを被せた雰囲気ものポップスあり‥‥といった感じで、厳密に言えば「フォークソングの名曲を2001年アレンジでカヴァーしてみました」といったところだろうか。まぁどの曲にも必ずアコースティックギターは入っているので、とりあえず聴いた感じの印象は「フォークっぽく」もあるのだが。

  曲によって市井がリード、中澤がリード、ふたりでハモりながら等の形態があるのだが、とりあえず市井メインとなってる曲が大半で、中澤が完全にリードを取るのは3曲。一応、市井の復帰作という名目にも関わらず3曲も入っていたのは、ちょっとした驚きだった。そして、この3曲がまたいいカヴァーだったりする。特にM-8"かもめはかもめ"が出色の出来だ。確かに中澤の歌は原曲の中島みゆきや研ナオコと比べれば、足下にも及ばない。が、これまで彼女がリリースしてきたどのソロシングルよりも「彼女らしさ」が出ているように思う。以前他のレビューで今後の中澤の活動に対し「他のライター/プロデューサーと仕事して、もっとアコースティック色の強いアレンジに挑戦して欲しい」と書いた。そしてそれがここで初めて現実のものとなったのだ。今回リードを取る曲は中澤が選んだのか、たいせーが選んだのかは判らないが、もしこれがたいせーの仕事だとしたら、いやいや、大したもんである。正直、たいせーという男がどこまでの仕事をする人間なのか、俺にとっては「未知の存在」なのだ。確かにシャ乱Q時代も曲を書いているとは思うのだが、どうしてもつんくやはたけ、まことといったブレインとなる人間の影に隠れ、キャラで勝負するといったイメージが強かった。プロデューサーとしては彼、意外といい仕事するかもしれないな?

  さて、肝心の主役、市井の方はというと‥‥これが、微妙なのである。市井は決して歌が上手い人ではない。それに加えて、声域も決して広いとは言えない。低音は厳しいし、中澤のようにファルセットが上手いわけでもない。中音域~ちょっと高めが最も「市井らしさ」を表現できる音域となるわけだが、それは卒業から1年半経った今もあまり変わっていないようだ。このアルバムでは、たいせーは彼女にいろんなキーの曲をぶつけている。"あの日にかえりたい"のような低音域メインの曲から、"ふるさと"みたいな唄うのに相当な技術を要する曲まで。それらはあくまで「実験」の名の下にレコーディングされ、作品としてリリースされてしまった‥‥正直なところ、市井は自分の歌を聴いてどう思っただろうか? と同時に、自分にはどういう曲調、キー、メロディー回しが向いているがが理解できただろうか? これはたいせーにとっての「確認作業」なだけでなく、市井紗耶香という今後「シンガーソングライター」を目指すアーティストにとっても大切な「確認作業」のはずなのだ。そこに気付かずに、ただ与えられた歌をこなしていっただけ、素通りしてしまっただけなら‥‥ちょっと厳しいな。

  勿論、悪い出来の曲ばかりではない。逆に彼女にピッタリな曲も沢山あるわけで。個人的には市井がソロで唄うものよりも、バックアップとして中澤がハーモニーを重ねる曲の方がより魅力的だった。"恋人もいないのに"や"待つわ"がその代表例といえるだろう。市井、ソロデビューじゃなくて、市井&中澤+たいせーでやればいいのに。これまで娘。関係でデュオってのはあまりいなかったから、そこにたいせーを加えて「女2+男1」という新しい形のグループが出来て、見た目的にも花があるし、話題性も十分だと思うのだけど(まぁ事務所的にはそうはいかないんだろうけど/苦笑)

  個人的にはこのアルバム、疲れた時によく聴く。決して市井のファンだからというわけではなく、彼女のクセのない歌声が心地よかったりするからだ。曲も気付けば口ずさんでしまうようなものばかりだし、いろんな意味で「癒し」のアルバムとして重宝させてもらっている。

  「ロックを扱う音楽サイトの管理人」の立場から言わせてもらえば、これはうちが扱うような内容の作品ではない。娘。本体には「ロック」は感じても、ここには「ロック」は感じられない(フォークだから、という理由ではない)。けどまぁ‥‥いちファンとしてこのアルバムをこのサイトで取り上げる事が、実は最もロックなのかなぁ‥‥なんて思いながら、今回のレビューを終えたいと思う。

  とにかく、これは「答え」ではない。全てはこらから始まっていくのだから。



▼市井紗耶香 with 中澤裕子『FOLK SONGS』
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投稿: 2001 12 11 12:00 午前 [2001年の作品, ハロー!プロジェクト, 中澤裕子, 市井紗耶香] | 固定リンク