遠藤ミチロウ『お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました。』(2001)
何も毎月毎月の「オススメ」モノはアルバムやシングルといった「音源」に限ったコーナーではない。「アルバムに拘らず、楽曲だったりビデオだったりライヴだったり本だったり‥‥「音楽」に関係するものなら何でも気軽に紹介していきたい」と目次で語ってる通り、今回はこのコーナーというよりも、「とみ宮」として初めて書籍を取り上げる。
とはいうものの、これは純粋な「書籍」というわけではなく、「本+CD」という形の「CD BOOK」と呼ばれる形態の作品なのだ。これまでも書籍の内容に沿ったCDや、内容を具体化したCDが付属した作品はあったが、これはちょっとそれらとは違うかもしれない。何せ、まず肝心の書籍が、あのパンクロックの雄、遠藤ミチロウの全歌詞集‥‥これまでスターリン時代から現在までに発表してきた楽曲の全歌詞を収めたものであること。そしてCDの方は、その全作品の中からスターリン時代に限定して、現在のスタイル(アコースティックギターでの弾き語り)でセルフカバーした作品集だということ。そのふたつをひとつにまとめたものが、この「お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました。」なのである(ご存じの方も多いと思うが、このタイトルも彼の代表曲名から取られている)。
「遠藤ミチロウ全歌詞集」というタイトルが付いているものの、実は完全版というわけではない、残念ながら。メジャー後の歌詞に関しては問題ないのだが、やはりというか‥‥インディーズ時代の「TRASH*」収録の何曲かの歌詞が不完全だったり("サル"の「天皇陛下万歳!」以降の「~がセンズリ覚えた」や"アーティスト"の聞き取り難い箇所がそのまま「‥‥」表記となっている)、その後メジャー盤で"ロマンチスト"として発表されることとなる"主義者(イスト)"に関しては完全に無視されている(歌詞が殆ど変わらないからだろうか)。けど不思議なことに、全く同じ歌詞の"メシ食わせろ"と"ワルシャワの幻想"は両方ちゃんと収録されていたりする。また"アーティスト"に関しては、ミチロウ自身も既に覚えてないという話もあるし、特にごく初期の曲に関してはそういうものが多いようだ。
こうやって歌詞を読んでみると、所謂「パンク」のイメージに囚われない、非常にシュールで尚かつ知的なイメージを受ける。昨今の「パンク」と呼ばれるジャンルの若手のそれと比べるとよく判ると思うが、全くの別物なのだ。また、言葉遊びのレベルもかなり高い。初期の作品は自主制作ということもあって、言葉選びに何の制限もないのでかなりきわどい表現が多用されているが(事実、メジャー盤で再録音した際には規制がかかり、似た音の言葉を選び直している)、その再選択された言葉でさえも何かセンスのようなものを感じる。パンクの人というよりは元々はフォークの人だったミチロウだからこそ、成せた技なのかもしれない。
さて、おまけの方についても何か語っておこう。人によってはこっちがメインになるかもしれない、おまけCDの「トリビュート・スターリン・バイ・ミチロウ」。全部で9曲、約40分近くものボリュームだ。単品で買ったとしても2000円以上はするだろうから、これはお得だ。
気になる収録曲だが‥‥
1.玉ネギ畑
2.マイザー
3.おまえの犬になる
4.Hello! I love You
5.NO FUN
6.溺愛
7.天ぷら
8.先天性労働者
9.仰げば尊し
全てスターリン時代に発表された楽曲(カバー曲含む)を、現在のミチロウのスタイル‥‥弾き語り形式でリアレンジしたものだ。曲名を見ても判ると思うが、4曲目はDOORS、5曲目はイギー・ポップ率いるSTOOGES(というよりは、SEX PISTOLSのカバーバージョンで有名)の、それぞれミチロウオリジナルの日本語詞を乗せたカバー。9曲目は卒業式でお馴染みの、あの曲。
比較的原曲に近いイメージのものもあれば、新しい楽曲として生まれ変わっているものもある。特にオススメは3曲目"おまえの犬になる"と8曲目"先天性労働者"だろう。前者はミチロウの絶叫に近い叫び、そして声にならない声によるスクリームに鳥肌が立つ。もはやパンクロッカーとは呼べないのかもしれないが、俺はこれこそが「真のパンク」なのではないだろうか?と思えてきた。それくらいもの凄い歌なのだ。そして後者は唯一パーカッションが入ったアレンジ。誰が叩いているのかは不明だが、最近のアルバム等では頭脳警察のトシが叩く機会もあるそうなので、もしかしたらもしかして、かもしれない(まぁ違うとは思うが)。この曲も決して歌と呼べる代物ではないのだが、いろんな意味で衝撃を受けた。ある種、頭脳警察における"世界革命戦争宣言"のような存在なのかもしれない。この2曲の緊張感がハンパじゃなく凄い。目元にナイフを突きつけられたかのような凄みと緊張感を感じる。スタイルは20年前と全く違うものの、根底にあるものは何も変わってない、そんな印象を受けた。
さて、こうやって初めてCDやビデオ以外の音楽作品(歌詞集)を紹介したわけだが、歌詞よりもそのパフォーマンスの方に注目されることの多かったスターリン時代のミチロウも、こうやって改めて冷静に歌詞を読んでみて、高校生の頃には感じなかったものを見出したような気がする。さて、久し振りに「STOP JAP」でも引っ張り出して聴き込むかぁ‥‥
▼遠藤ミチロウ『お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました。』
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