KK'S PRIEST『SERMONS OF THE SINNER』(2021)
2021年10月1日にリリースされたKK'S PRIESTの1stアルバム。
その名からもわかるように、このバンドは元JUDAS PRIESTのギタリスト、K.K.ダウニングが2020年に結成した新バンド。当初のメンバーはティム・“リッパー”・オーウェンズ(Vo/SPIRITS OF FIRE、A NEW REVENGE、ex. JUDAS PRIEST、ex. ICED EARTH、ex. YNGWIE MALMSTEEN'S RISING FORCEなど)、レス・ビンクス(Dr/ex. LIONHEART、ex. TYTANなど)といった元JP組を含むこと、バンド名に“PRIEST”のワードを含むことから、K.K.が何をしたいのか想像に難しくなかったと思います。
その後、レスが手首を怪我したことでドラマーがショーン・エルグに交代。トニー・ニュートン(B)、A.J.ミルズ(G)の5人でこのデビューアルバムを完成させます。レスは現在70歳と高齢ですい、今作で表現されているサウンド/演奏を考えたら、このメンバーチェンジはある意味必然だったのかもしれません。
聴いていただければおわかりのように、本作で表現されているのは80年代〜90年代初頭のJUDAS PRIESTを彷彿とさせるクラシカルなヘヴィメタル。まんまと言ってしまえばそれまでですが、ロブ・ハルフォード(Vo)の後釜として“まんま”なボーカルを聴かせたティムと、JP時代もソングライターのひとりとしてバンドに貢献してきたK.K.がいるんですから、そりゃそうなるでしょうね。
ここ数作でモダンさよりもクラシックロック的な側面を強調し続けているJPですが、このKK'S PRIESTも比較的そのラインにいると言えるでしょう。中には「Sermons Of The Sinner」のように、あからさまに「Painkiller」や「Exciter」の冒頭を意識した楽曲もありますしね。この曲といい、“怒りの一撃”的な(SE「Incarnation」に続く)オープニングトラック「Hellfire Thunderbolt」といい、JP時代のカッコよさをうまい形にディフォルメしているように感じました。
……そう、“ディフォルメ”なんですよ。もっと言っしまえば、パロディ。JPっぽいんだけど、やっぱり別モノ。ここにいるのは、あくまでソングライターの3分の1なわけで、そりゃ本家より薄まるのでディフォルメせざるを得ない。そう考えると……なんか余計な要素がチラついて、どうにも素直に楽しめない自分もいるんですよね。
1枚のヘヴィメタルアルバムとしては非常に高品質で、新しさや斬新さは皆無だけど安心して楽しめる。90点に近い良作だと思うのですが、変にJPをちらつかせることで「ああ、大丈夫です……」と気持ちが引いてしまう。「今のJPより良い!」という声もわるのもわかります。そりゃそうでしょう、そこそこ若いメンバーもいるでしょうから、そういった若手からのインプットも多少はあるでしょうから(今のJPにおけるリッチー・フォークナー(G)みたいにね)。
ここまでの完成度で中身も最高。でも、もしこれを“JPを想像させないバンド名”で発表していたら、もうちょっと違った結果や評価が得られたんじゃないか。JP50周年のタイミングに被せてくるのも、アレですし。「Metal Through And Through」とか「Hail For The Priest」「Return Of The Sentinel」とかせっかくの良曲なのに、本当にこのタイトルで良かったのかな……とかいろいろ含めて、相対的に悩ましい1枚です。
▼KK'S PRIEST『SERMONS OF THE SINNER』
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