BODY COUNT『BODY COUNT』(1992)
1992年3月10日にリリースされたBODY COUNTの1stアルバム。日本盤は同年4月25日発売。
BODY COUNTは1990年、ラッパーとしてすでに高い知名度を獲得していたアイス-TがLAの高校時代の友人たちと結成したハードコアパンク/ミクスチャーロックバンド。現在までバンドに在籍するアーニー・C(G)が大半の楽曲を作曲し、アイス-Tがボーカルと作詞を担当しています。
このデビューアルバム発売時のメンバーはアイス-T、アニー・Cのほか、D-ロック・ジ・エクスキューショナー(G)、ムースマン(B)、ビートマスター・V(Dr)、ショーン・E・ショーン (Sampler)という編成。アルバムのプロデュースはアイス-T&アニー・Cが手がけています。なお、ビートマスター・Vは1996年に白血病で、ムースマンは2001年は銃撃で、D-ロック・ジ・エクスキューショナーは2004年に悪性リンパ腫でそれぞれ亡くなっています。
ラッパーの歌うメタリックなパンク……リリース当時はそんな捉え方をしていたと記憶します。いわゆる“メタル村”の人たちがヒップホップ側に歩み寄ろうとしていた90年代初頭の空気をはらみながら、本作では“村外”の人たちがメタルサイドに歩み寄ろうとする試みでもあったのかな。ハードコアパンクの人たちがスラッシュメタルを通じてメタルサイドに踏み込む“クロスオーバー・スラッシュ”にも似たテイストの作風は、メタル耳には若干シンプルすぎて味気ないように響き、人によっては退屈に聞こえるかもしれません。
しかし、タイトルトラック「Body Count」に忍ばせたジミー・ペイジ的アプローチや、「C Note」や「The Winner Loses」での叙情的なフレージング、「Body Count Anthem」でのドラマチックなアレンジなど、随所に散りばめられたメタル愛に気づくと、不思議と「なんだ、仲間か」と急に距離の近さを感じるのではないでしょうか。今でこそSICK OF IT ALLやBIOHAZARDのようなバンドも“こちら側”として受け入れるリスナーも少なくないことを考えると、リリースから30年経った今こそメタルサイドから正当な評価を下すべきなのかな。
あと、本作はリリース当時、ラストトラック「Cop Killer」の歌詞にばかりスポットが当てられてしまった結果、それこそヒップホップサイドやハードコア側からも正しく理解さえれたアルバムだったとは言い難いものがありました。その内容ゆえ、オリジナル盤リリースから数ヶ月後には「Cop Killer」を「Freedom Of Speech」に差し替えたバージョンで再発。日本でも1992年11月28日にリニューアル盤が発売されています。
この「Freedom Of Speech」はジミ・ヘンドリクス的アプローチのギターリフを用いた、ヒップホップ寄りの1曲。DEAD KENNEDYSのジェロ・ビアフラ(Vo)のスポークンワーズをフィーチャーした、本作ではもっとも異色の仕上がりで、これもレーベル側が「Cop Killer」を引き下げたこと(および、のちの契約解消)に対するアジテーションでもあったのかな。そういうストーリーがわかっていないと、この曲だけ普通に浮いちゃうんですよね、残念ながら。
もちろん、シンプルに楽曲やサウンドのストレートさだけを楽しむのもアリですが、特にこのアルバムは当時の白人社会における黒人に対する差別や黒人社会の不条理などを理解してから触れると、そのメッセージの受け取り方も大きく変わるはず。このアルバム発売後の1992年4月にはLAで人種差別が発端となった大規模な暴動も起きており、そこも踏まえて「Cop Killer」含めて触れると、さらに深く理解できるのではないでしょうか。
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