GENESIS『INVISIBLE TOUCH』(1986)
1986年6月6日にリリースされたGENESISの13thアルバム。日本盤アナログは同年6月9日、CDは7月23日発売。
フィル・コリンズのソロアルバム『NO JACKET REQUIRED』(1985年)のメガヒットや、マイク・ラザフォードによるプロジェクト・MIKE + THE MECHANICSのアルバム『MIKE + THE MECHANICS』(1985年)のスマッシュヒットなどソロ活動が順調な中、バンドとしては全英1位/全米9位の大ヒット作となった前作『GENESIS』(1983年)から2年8ヶ月ぶりの新作。プロデュースは前作から引き続き、バンドとヒュー・パジャム(THE POLICE、XTC、THE HUMAN LEAGUEなど)が手がけています。
オープニングを飾るタイトルトラック(全米1位/全英15位)のよう、全体を通じてフィルのソロ作にも通ずるポップさが強調された仕上がりで、プログロック的な要素は9分近い大作「Tonight, Tonight, Tonight」や約11分におよぶ組曲「Domino」、インストゥルメンタルナンバー「The Brazilian」程度にとどまっています。まあそれだけあれば十分かな。それ以外はほぼ全曲がシングルカット可能なポップロックばかり。事実、先の「Invisible Touch」以外にも「Throwing It All Away」(全米4位/全英22位)、「In Too Deep」(全米3位/全英19位)、「Land Of Confusion」(全米4位/全英14位)、そしてシングル向けに短く編集された「Tonight, Tonight, Tonight」(全米3位/全英18位)と、アメリカでは発表した5枚のシングルすべてがTOP5入を果たす快挙を成し遂げ、アルバム自体も全米3位/全英1位と記録。アメリカでは600万枚を超えるキャリア最大のヒット作となりました。
大ヒットの要因は、もちろんフィルのソロ活動やMIKE + THE MECHANICSの成功も大きく影響していると思いますし、なにより各ソロ活動から矢継ぎ早にバンドのリリースへと移行したのもプロモーション的に素晴らしい判断だったと言えるでしょう。そして何より、収録されたどの楽曲もポップソングとしての完成度/強度が異常に高い。プログロックとして捉えれば、もはや範疇外と言わざるを得ない方向性ではあるものの、ひとつのポップアルバムとして向き合うとこれ以上はないほど極上の内容ではないでしょうか。
大半の楽曲でシンセドラムを使用することで、いかにも80年代的で軽薄なサウンドになっているのは否めませんが、当時は子供心にこの音に対して“未来”を感じたのもまた事実。「Land Of Confusion」での生音とデジタルのミックスは、素直にカッコいいと思ったものです。また、当時は退屈に感じる瞬間もあった「Tonight, Tonight, Tonight」も、今の耳で聴くと実は非常に練り込まれたアレンジであり、このサウンドメイクだからこそ小難しくならずに済んだことも理解できます。
加えて、MTVという媒体を効果的に活用したMV制作も大当たりに一役買ったと言えるでしょう。シングルカットされた全5曲すべてにMVがあてがわれたわけではないものの、バンドの健在ぶりを示すような作風の「Invisible Touch」や、メンバーや当時の著名人そっくりのパペットが登場する皮肉たっぷりな「Land Of Confusion」などは、当時ヘヴィローテーションされていた印象があります。
フィルのソロアルバムよりはロック色が強く、かといってかつてのGENESISほどロック度/プログロック度は高くない。だけど、ヒットチャートを賑わすポップスとしてもロックとしても十分に通用する、高い完成度を誇る。もちろん、いろいろ考えれば難癖も付けられますが、もはやそれすら虚しくなってくるほど良質な内容。これぞ“ザ・ミドル80's”なロック/ポップスではないでしょうか。つい数日前に映画『トップガン』のサントラを“80年代的”と紹介しましたが、このアルバムもその象徴的な1枚。
▼GENESIS『INVISIBLE TOUCH』
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