MEGADETH『THE SICK, THE DYING... AND THE DEAD!』(2022)
2022年9月2日にリリースされたMEGADETHの16thアルバム。
全米3位を記録した前作『DYSTOPIA』(2016年)から約6年半ぶりの新作。過去最長のスパンとなってしまいましたが、その間にはデイヴ・ムステイン(Vo, G)の咽頭がん発症(2019年)や、デイヴィッド・エレフソン(B)の女性スキャンダルが理由によるバンド脱退(2021年)など大きなトラブルが続発し、気づけばこれだけの空白ができてしまったわけです。
そんな中、バンドはムステインの病状を考慮しながら制作を進め、エレフソンの代わりに現TESTAMENTのスティーヴ・ディジョルジオ(B)をサポートメンバーに迎えてレコーディングを完了。ムステイン的にはディジョルジオをそのままバンドに迎えたかったようですが、結果としてエレフソン不在時にバンドを支えたジェイムズ・ロメンゾ(ex. WHITE LION、ex. BLACK LABEL SOCIETYなど)が再加入することになりました。
満を持して届けられた本作。完成までには相当の時間を要したものの、このコロナ禍の空白と数々のハプニングが生み出した時間が、創作において多少なりともプラスになったことは間違いないでしょう。プロデュースは前作から引き続きムステイン自身とクリス・レイクストロー(BRING ME THE HORIZON、CHILDREN OF BODOMなど)が担当し、ミックスも再びジョシュ・ウィルバー(LAMB OF GOD、TRIVIUM、GOJIRAなど)が手がけるという安心安定のタッグが組まれています。その結果、サウンド/楽曲の方向性的には前作の延長線上にある、「黄金期(80年代末〜90年代初頭)のスラッシュ路線を現代によみがえらせた」良質のヘヴィメタルを堪能することができます。
ムステインの音域が狭まった(ヒステリックな高音域に比重を置いたメロディ作りから、中音域中心のメロ構成へ移行した)ことから、特に2000年代後半以降の作品におけるメロディラインの退屈さが目立つようになり、せっかくバンドアンサンブルは最高なのに肝心の歌がつまらないという傾向が続いていた昨今のMEGADETH。前作では若干その傾向が緩和されつつありましたが、今作も基本的には中音域をベースにしながらも、その中でもかなり工夫を凝らしたメロ作りが施されており、結果軽く及第点を与えられる楽曲が揃っているのではないでしょうか。
前作から参加のキコ・ルーレイロ(G/ANGRA)、レコーディングには今作が初合流となるダーク・ヴェルビューレン(Dr/ex. SOILWORK)も安定感の強い演奏で、良質な楽曲群に華を添えている。特にルーレイロはオリジナル全12曲中8曲に、ヴェルビューレンも2曲でソングライティング面にも尽力しており、この6年間の活動を経て手に入れた“バンド感”と体に染み込ませた“MEGADETHらしさ”を具現化させることに成功しています。
どの曲も適度な尺(5分前後)で、1曲の中にしっかりと起承転結が凝縮されている。初期の“インテレクチュアル・スラッシュメタル”の要素も見つけることができれば、90年代以降の正統派ヘヴィメタルへと接近した彼らの姿勢もしっかり反映されていることがわかる。MEGADETH復活の狼煙となった10thアルバム『THE SYSTEM HAS FAILED』(2004年)や続く11thアルバム『UNITED ABOMINATIONS』(2007年)を軽く超えるどころか、傑作に分類される4thアルバム『RUST IN PEACE』(1990年)やチャート/セールス上で最大のヒット作『COUNTDOWN TO EXTINCTION』(1992年)にも匹敵する完成度を誇る、後期MEGADETH(あえてこう呼ばせてもらいます)の最高傑作だと断言できます。
なお、日本盤CDにはボーナストラックとしてDEAD KENNEDYSのカバー「Police Truck」を収録。デジタル版/ストリーミング版にはさらにサミー・ヘイガーのカバー「This Planet's On Fire (Burn In Hell)」も追加されており、こちらにはサミー本人もゲスト参加しています。ゲストといえば、アルバム本編の「Night Stalkers」にはアイス-T(BODY COUNT)もラップで客演。ムステインがBODY COUNTのアルバム『BLOODLUST』(2017年)収録の「Civil War」にゲスト参加したお礼なんですかね。
「Night Stalkers」や「Dogs Of Chernobyl」「Killing Time」あたりに漂うメランコリックさも彼らが本来持ち合わせていた要素ですし、「Soldier On!」や「We'll Be Back」に見付けられる狂気性の復活のもうれしくなってしまう。全12曲/約55分という若干長めの尺も充実感を与えてくれるし、これはライブへの期待感を高めてくれる。そこも含めて、2023年2月に決定した日本武道館公演には過度に期待が高まってしまいますね。
ちなみに、本作は前作から引き続き全米3位という高記録を樹立したほか、イギリス3位、ドイツ7位、オーストラリアとスイスでは2位、フィンランド1位と各国で過去最高記録を残しています。
▼MEGADETH『THE SICK, THE DYING... AND THE DEAD!』
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