ENFORCER『ZENITH』(2019)
スウェーデンのヘヴィメタルバンド、ENFORCERが2019年4月に発表した5thアルバム。
ここ数作、リリースのたびにメンバージェンジが生じていた彼ら。今回のアルバムでも前作『FROM BEYOND』(2015年)リリース後にジョセフ・トール(G)が脱退し、同作を携えた来日時に帯同していたジョナサン・ノルドウォール(G)がサポートから正式メンバーに昇格しています。
これまで2〜3年ペースで作品を発表してきた彼らですが、本作が届けられるまでに約4年という過去最長のインターバルがありました。実際、このアルバムの制作に2年半という長期間が設けられていたとのこと。こういった事実から、今回のアルバムに対する意気込みと5作目のアルバムでの挑戦や苦悩がひしひしと伝わってくるのではないでしょうか。
そして、それはこのアルバムを聴いた瞬間に、驚きという形で伝わってくるはずです。
いやあ、びっくりしました。個人的なイメージですが、ENFORCERというと良くも悪くも“New Wave Of British Heavy Metal(NWOBHM)経由のパワーメタル/スピードメタルバンド”という印象が強かったのですが、ここではそういった軸を芯に残しつつも、より幅広い音楽が表現されています。なんだろう、NWOBHMから誕生したバンドが作品を重ねるごとに時代も変化していき、気づけば多様性の強いアルバムを完成させていた……そんな80年代半ば〜後半によく目にした光景を、そこから30年以上経緯した2019年に再び再現している。そんな印象を受ける1枚なのです。
いや、これめっちゃ褒め言葉です。きっと80年代にこの表現を使ったら、間違いなく否定として受け取られたと思いますが、このアルバムで表現されている音楽、楽曲はどれもクオリティの高いものですし、ENFORCERらしさを残しつつもより大衆的(これも褒め言葉)に進化した。バンドとしてのアイデンティティを死守することももちろん大切ですが、彼らはそれ以上にミュージシャンシップ/アーティストとしての表現力の向上を選んだのではないでしょうか。
メロディのしっかりしたパワフルな正統派HR/HM、プログレッシヴな展開を持つ叙事的なナンバーや繊細さやメランコリックさを持ち合わせたバラード、さらには80'sポップメタルの要素まで散りばめられており、そこにNWOBHM経由のいびつさや不器用さも織り交ぜられている。その泥臭さこそがこのバンドの魅力であり芯の部分だと思うのです。だから、これは“魂を売った”のではなくて、純粋にバンドとして一段上にステップアップした表れなんだと思います。
頂点や絶頂を意味するアルバムタイトルのとおり、このアルバムで現在のメタルシーンのトップに登りつめたい。そんな強い意志はタイトルのみならず、しっかり内容からも伝わってくるはずです。過去のイメージにとらわれず、純粋な気持ちで向き合ってもらいたい力作。これまで彼らの作品に触れてこなかったリスナーにこそ手に取ってもらいたい1枚です。