THE CARS『HEARTBEAT CITY』(1984)
THE CARSが1984年3月に発表した5thアルバム。全米3位まで上昇し、アメリカだけでも当時200万枚以上、現在までに400万枚以上を売り上げた代表作のひとつです。
デビューからの4作をロイ・トーマス・ベイカー(QUEEN、JOURNEY、MOTLEY CRUEなど)とタッグを組んで制作し、どれもバカ売れさせてきたTHE CARSですが、この5作目では当時DEF LEPPARD『PYROMANIA』(1983年)やAC/DC『BACK IN BLACK』(1980年)、FOREIGNER『4』(1981年)などでトップ・プロデューサーの仲間入りを果たしていたジョン・マット・ラングを新たなプロデューサーに起用。THE CARSならではのニューウェイヴ色の強いポップロックと、マット・ラングならではの分厚いサウンドメイキング&コーラスが不思議な相乗効果を生み出し、結果としてバンドにとって新たな武器を手に入れることとなります。
オープニングの「Hello Again」からして、DEF LEPPARDファンはニヤッとするんじゃないでしょうか。このコーラスの重ね方、まんまですからね。その後はニューウェイヴ仕込みのシンセポップへと展開していくわけですが、今の耳で聴くとチープに聞こえるものの、当時はかなり斬新でカッコよく思えたわけです。
本作からはシングルヒットも多数生まれており、MVでのリック・オケイセック(Vo, G)のドアップが印象的な「You Might Think」(全米7位)といい、ベンジャミン・オール(Vo, B)が歌う名バラード「Drive」(同3位)といい、「Magic」(同12位)や先の「Hello Again」(同20位)、「Why Can't I Have You」(同33位)と計5曲がリカットされています。
「Stranger Eyes」や「It's Not The Night」のアレンジもどこかLEPPSっぽいし、「Looking For Love」のリズムメイクはのちのLEPPS「Love Bites」にも通ずるものがあるし、アメリカのバンドなのにどこかUKっぽさを感じさせる「Heartbeat City」とか……って完全にこじつけでしかないですが(笑)、すでにあの頃自分はLEPPS耳でこのアルバムを聴いていたんだってことに、今更ながら気づきました(苦笑)。そういえば、これ以前のオリジナルアルバムってちゃんと聴いてないもんな、自分(ベストアルバム以外では)。
ちなみに、数年前にリリースされたリマスター&エクスパンデッド盤には「Drive」や「Heartbeat City」のデモ音源、「Hello Again」のリミックスバージョン、のちの『GREATEST HITS』(1985年)に新曲として収録された「Tonight She Comes」が追加されています。デモバージョンとスタジオ正規音源を聴き比べると、マット・ラングがプロデューサーとしてどこまで介入したかがなんとなく伺えたので、個人的には面白かったです。
あと、「Tonight She Comes」はマット・ラング仕事ではないですが、『HEARTBEAT CITY』をミックスしたマイク・シップリー(マット・ラングとDEF LEPPARDの諸作品でタッグを組んでいます)がバンドとの共同プロデューサーとしてクレジットされているので、まあ『HEARTBEAT CITY』の延長線上と言えなくもないのかなと。
サウンド的にはHR/HMではないですし、ギターの比重もそこまで高くないのかもしれません。が、マット・ラング仕事が好きな人なら絶対に引っかかるものがある、“そういう”リスナーにこそ触れてほしい名盤のひとつです。
最後に。ベンジャミン・オール(2000年没)に続いて、最近リック・オケイセックまで亡くなってしまいましたね。WEEZERのブルーアルバム(1994年)やBAD RELIGION『THE GRAY RACE』(1995年)などのプロデューサーとしても活躍した彼のご冥福をお祈りいたします。THE CARS、一度は生で観てみたかったな。
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