THE SONICS『THIS IS THE SONICS』(2015)
2015年3月にリリースされた、THE SONICS正真正銘のニューアルバム。
THE SONICSは60'sガレージロック/ガレージパンクを語る上では欠かせないレジェンド的存在で、2012年に日本のTHE BAWDIESが招聘して一緒にツアーを行ったことでその存在を知ったという邦楽リスナーも少なくないのでは。60年代に発表した2枚のオリジナルアルバム『HERE ARE THE SONICS!!!』(1965年)と『BOOM』(1996年)は“ガレージパンクの教科書”的作品として、今でも多くのロックファンに愛聴されています。
彼らのオリジナルアルバムは本当に少なく、ほかには再録曲を含む『INTRODUCING THE SONICS』(1967年)と、80年代にジェリー・ロスリー(Vo, Organ)を軸に変則的メンバーで制作された『SINDERELLA』(1980年)があるのみ。2010年には新録4曲にライブテイク4曲から構成されたEP『8』(日本盤はさらにボートラ2曲を追加した全10曲入りのアルバムボリューム)が発表されており、このとき「約40年ぶりの新録スタジオ音源」と声高に騒がれましたが、2010年から40年を逆算すると1970年前後……つまり、『SINDERELLA』は“なかった”ことにされているんですね。
ちなみに、今作『THIS IS THE SONICS』が発表されたときも「48年ぶりのニューアルバム」との触れ込みだったので、以下同文。そう考えると、本作は通算4作目のスタジオアルバムということになるんでしょうか。
本作はジェリーのほか、ラリー・ペリパ(G)、ロブ・リンド(Sax)というオリジナルメンバー3人のほか、フレディ・デニス(B, Vo)、ダスティ・ワトソン(Dr)という編成で制作。リリース後もこの布陣でライブを行っていたようですが、2016年にはジェリーとラリーがツアーからの引退が宣言され、現在オリジナルメンバーはロブのみという状況のようです。
全12曲で32分というトータルランニング、しかもモノラル録音という徹底されたスタイルの作り込み。そして、オリジナル曲とカバーがほぼ半々という構成も、初期2作に習ったもので、こういった文字情報だけだと「THE SONICSのオリジナルメンバーがTHE SONICSを“模倣”して現代によみがえらせた」と穿った受け取り方もできるかもしれません。
し・か・し。聴いていただけばおわかりのとおり、ここで展開されているハイテンションなガレージロックサウンドはTHE SONICS以外の何者でもなく、オープニングトラックの「I Don't Need No Doctor」(ご存知、レイ・チャールズのカバー)が始まった瞬間「あ、THE SONICSだ!」と確信するはずです。
脳天から血が吹き出るんじゃないかってくらいに高いテンションは、初期の作品にも匹敵するものがあるかな。2015年のレコーディングということで、モノラルとはいえかなり整理された録音となっているので、そこに初期の破壊的なアグレッシヴさは感じられず、そこだけが残念かな(こればかりはね)。とはいえ、そんな中で最善を尽くしたプロデューサーのジム・ダイアモンド(THE WHITE STRIPES、THE VON BONDIES、THE DIRTBOMBSなど)の手腕は現代においては素晴らしいものがあるとは思います。実際、尖っているのにめちゃめちゃ聴きやすいですからね。
初期2作は別格として、そこと比較すれば確かに聴き劣りするかもしれない。だけど、ロックアルバムとしては文句なしの完成度なのは間違いない事実。ああだこうだ言う前に、純粋に楽しみたい1枚です。
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