BLOOD INCANTATION『TIMEWAVE ZERO』(2022)
2022年2月25日にリリースされたBLOOD INCANTATIONの3rdアルバム。日本盤未発売。
日本盤もリリースされた前作『HIDDEN HISTORY OF THE HUMAN RACE』(2019年)から2年3ヶ月ぶりの新作。フィジカルではCD+Blu-ray、アナログ+CDのような複数フォーマットを同梱した形態が用意されているそうで、CDにはデジタルリリース&ストリーミング版よりも1曲多く、「Chronophagia」がボーナストラックとして追加収録されています。
かねてから“コズミック・デスメタル”なる、SFや宇宙など神秘性の高いテーマを扱った歌詞を歌うテクニカルデスメタルを展開してきた彼ら。本作ではそのテーマをさらに押し進め、デスメタルの要素を排除することでより神秘性に特化した作風へと到達しています。
要するに、ここで聴くことができるサウンドはデスメタルでもなければヘヴィメタル、もっと言えばロックでもない。高速ブラストビートも、エッジの効いたギターリフやのたうち回るギターソロも、血の底を這うグロウル(ボーカル)も存在しない、シンセサイザーによるアンビエント色の強いサウンドスケープが終始展開されているのです。要するに、彼らが敬愛する70〜80's SF映画のサウンドトラックを彷彿とさせるニューエイジチックなインストゥルメンタルのみで構築されているわけです。
アルバム本編は「Io」「Ea」の2曲のみで構成された、全41分にわたる内容。ストリーミングやデジタル版で各曲が「First Movement」「Second Movement」「Third Movement」「Fourth Movement」と4つのトラックに分割されていますが、基本的に大きな山や谷が存在しない、首尾一貫同じトーンのアンビエントなシンセサウンドがシームレスで続くのみ。それぞれトータル20分前後におよぶ長尺曲で、この手のサウンドに縁のないメタラーには少々敷居の高い内容かもしれません。
ぶっちゃけ、「BLOOD INCANTATIONのアルバムを聴くぞ!」と意気込んで臨むと肩透かしを喰らう、実験性の強い1枚。バンドが持つひとつの側面に特化した内容ではあるものの、これを持って彼らは今後もこの路線を突き進むというわけではなさそうです。きっと、続く4thアルバムでは再びデスメタル路線に回帰することでしょう。
バンドの本質を理解する上での副読本的な本作は、あくまで過去2作の“本筋”に対する番外編ではないかと。なので、むきになって本作を評価しようとして「メタルじゃない! ふざけるな!」と目くじらを立てるのはちょっと違うかな。これはこれとして愛していける(あるいや許せる)、広い心が試される踏み絵のような1枚かもしれませんね。
なお、フィジカル版のみに追加収録されたボーナストラック「Chronophagia」。こちらも27分強におよぶ超大作ですが、アンビエント色濃厚な本編とは異なり、コラージュ的手法による、多少緩急の感じられる実験作となっています。もちろんこちらもビートやヘヴィなギター、ボーカルが存在しないインストゥルメンタル楽曲ですが、メタルファンなら「Io」「Ea」よりは退屈さを感じないのかもしれません。個人的にはこっちの手法のほうがより好みでした。
▼BLOOD INCANTATION『TIMEWAVE ZERO』
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