BOBBY GILLESPIE AND JEHNNY BETH『UTOPIAN ASHES』(2021)
2021年7月2日にリリースされたボビー・ギレスピー(PRIMAL SCREAM)&ジェニー・ベス(SAVAGES)によるコラボレーションアルバム。日本盤は同年7月7日発売。
35年以上にわたりロック/パンク/エレクトロなどさまざまな変遷を遂げてきたPRIMAL SCREAMのフロントマンと、2010年代を象徴するUKポストパンクバンドのフロントウーマンがまさかのデュオアルバムを制作。常に先鋭的だった2組の頭脳が交わり合うと聞けば、「どんなアグレッシヴでアヴァンギャルドな作品が届けられるんだろう?」と誰もが想像したはず。しかし、実際に完成した作品はカントリーやソウル、ブルースの影響下にあるオーソドックスなボーカルアルバムでした。
ボビーによると、アルバムのテーマは「愛の崩壊、真のコミュニケーションの不可能性、人生の中で避けられない現実に直面している夫婦の物語を表現している」んだとか。しかし、表現されている内容は自伝的なものではなく、ソングライターたちの実体験を通じて生まれた“心のこもった真実”なんだそうです。表現されているサウンド同様、非常にディープな内容ではないでしょうか。
レコーディングにはPRIMAL SCREAMのアンドリュー・イネス(G)、マーティン・ダフィー(Piano)、ダレン・ムーニー(Dr)に加え、SAVAGESやジェニーのソロ活動でもサポートを続けるジョニー・ホスティル(B)が参加。ほぼPRIMAL SCREAMという編成にジェニーが乗っかった、とも捉えることができ、実際ここで聴くことができるサウンドや作風はどこか『GIVE OUT BUT DON'T GIVE UP』(1994年)期のPRIMAL SCREAM的で、同作との共通点もたくさん見つけることができるはずです。
もちろん『GIVE OUT BUT DON'T GIVE UP』的なサウンドを2021年にただ再現したのではありません。そこにフランス出身のジェニーのテイストが加わることにより、無国籍な異国情緒の香りも増したのではないでしょうか。それにより、ボビーのボーカルもいつも以上に肩の力が抜け、聴くこちら側もリラックスして楽しむことができる。結果、(重みのある歌詞の一方で)無限にリピートできる作品に仕上がったのではないでしょうか。
想像していた刺激は皆無ですが、ボビー絡みの作品ではここ10年でもっともお気に入りの1枚ですし、SAVAGESやソロアルバム『TO LOVE IS TO LIVE』(2020年)とも異なるジェニーの魅力が味わえるという点でも非常に意味の大きな良作。リリース前の作品ですが、MANIC STREET PREACHERSの新作『THE ULTRA VIVID LAMENT』と今作は、自分的に似たような環境で楽しめるアルバムとしてしばらくヘヴィローテーション中です。
▼BOBBY GILLESPIE AND JEHNNY BETH『UTOPIAN ASHES』
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