BRING ME THE HORIZON『amo』(2019)
BRING ME THE HORIZON通算6枚目のオリジナルアルバム。その音楽的指向の変化に対して賛否両論を巻き起こしながらも全米・全英で2位を記録した前作『THAT'S THE SPIRIT』(2015年)から約3年半という、彼らとしては非常に長いスパンを経て届けられました。
2016年初頭にキャンセルとなり、以後実現していない“『THAT'S THE SPIRIT』以降”の日本での生パフォーマンス。正直、あの時期のステージを体験できなかったことは、ここ日本のファンおよびメタル/ラウド系リスナーにとっては不幸以外のなにものでもありません。それもあって、続くこのアルバムで遂げられる進化がしっかり受け止められるのか、そこだけがずっと不安でした。
昨年8月、突如届けられた新曲「Mantra」。個人的にはこの1曲だけで次作に対する期待は一気に高まりました。『THAT’S THE SPIRIT』での路線を一歩推し進めたスタイルでしたが、おそらく第一歩としては前作に比較的近いものを選んだのでしょう。事実、当時のインタビューでオリヴァー・サイクス(Vo)は次作について「今までやってきたようなサウンドではない」と発言していましたから。
そして、2ヶ月後の10月には第2弾シングル「Wonderful Life」を発表。CRADLE OF FILTHのフロントマン、ダニ・フィルス(Vo)をフィーチャーしたこの楽曲は「Mantra」の延長線上ではあるものの、ブラスセクションを導入した“無駄にハッピー”な色合いも感じられ、少しずつ「今までやってきたようなサウンドではない」発言の真意が見え始めます。
今年に入ってすぐに、第3弾シングル「Medicine」を発表。前作にもあったスロウでメロディアスな楽曲と同系統ではあるものの、エレクトロ色を強めたモダンなポップソング調のこの曲は“振り切った”感が思い切り伝わるものでした。さらにリリース直前には「Mother Tongue」「Nihilist Blues」の2曲が公開。前者は「Medicine」と同系統のポップチューンで、メロディアスさが際立つ1曲。後者はカナダの女性アーティスト、グライムスをフィーチャーしたエレクトロチューンで、トランシーなトラックだけを聴いたらこれがBMTHの新曲だとは気づかないのではないでしょうか。
このように、少しずつその本性を現し始めた『amo』(ポルトガル語で愛を意味する)というアルバム。先行トラックで心構えはできていたものの、いざアルバムを通して聴くとさらに驚かされるのですが、と同時に「Mantra」や「Wonderful Life」のようなラウド系ナンバーがまったく浮いていない、必要不可欠な存在であることにも気づかされます。曲順含め、非常に収まりが良いんですよね。しかも、ほかの新機軸ナンバーと同じくらいに作り込みが異常すぎることも見えてくる。なんだ、この徹底さは!?って。
オープニングトラック「I Apologise If You Feel Something」での驚きと、そこから「Mantra」へと流れていく気持ち良さ、ヒップホップ的手法を用いりながらもロックバンドとしての個性を残す「In The Dark」や「Why You Gotta Kick Me When I'm Down?」の新鮮さ、トリッピーな「Fresh Bruises」やシンフォニックな「I Don't Know What To Say」に漂う繊細さと「Sugar Honey Ice & Tea」「Heavy Metal」(後者には元THE ROOTSのMCでヒューマンビートボクサーのラゼール参加)で見せる豪快さ。ここまでバラバラな色を包括しつつも、しっかりとひとつのアルバムの中で散漫になることなく、つながりを見せながら聴かせることができるのは、前作で得た自信によるものが大きいのではないでしょうか。
もはやデスコアだメタルコアだとカテゴライズすることも馬鹿馬鹿しいくらいに“ロック”しているし、こうやってラウドなバンドは進化していくんだってことをちゃんと形として証明し続けている。すごいことだと思いますよ。だって、本当にすごいアルバムだもの。前作以上にスルメ度の高い1枚。今度こそ、これらの楽曲を生で聴きたいな。