BEACH HOUSE『ONCE TWICE MELODY』(2022)
2022年2月18日にリリースされたBEACH HOUSEの8thアルバム。
全米20位まで上昇した前作『7』(2018年)から3年9ヶ月ぶりの新作。初のCD2枚組作品にして初のバンド完全プロデュース作という、約85分/全4章にもおよぶ大作に仕上げられています。
全18曲のうち、M-1「Once Twice Melody」からM-4「Through Me」までが“Chapter 1”、M-5「Runaway」からM-8「Over And Over」までが“Chapter 2”、M-9「Sunset」からM-13「Illusion Of Forever」までが“Chaputer 3”、そしてM-14「Finale」からM-18「Modern Love Stories」までが“Chapter 4”という内訳。Chapter 1は「Once Twice Melody」や「Superstar」などドリームポップ/エレポップ色の強い楽曲が続き、キラキラした世界を構築するところからスタートします。中には「Pink Funeral」のように完全打ち込み楽曲もあり、そこにストリングスが絡んでいくアレンジもさすがの一言です。
その流れからパーカッシヴなリズムが耳に残る「Runaway」で“Chapter 2”へとつなげるのですが、この曲もシューゲイザーやドリームポップのテイストを保ちつつ、どこかダンスミュージック的な側面も伝わる。その空気を「ESP」や「New Romance」で引き継ぎつつ、さらにキラキラした7分超の大作「Over And Over」でアルバムは折り返しに突入します。ここまでがCDでいうところのDISC 1になるわけですが、ひとつのアルバムとしての統一感もつ良いサウンド/アレンジは非常に心地よいものがあるはずです。
そして“Chaputer 3”はアコースティック色の強い「Sunset」で幕開け。エレポップやドリームポップのテイストは引き続き保ちつつも、アコギをフィーチャーすることでアーシーさが強まり、アルバムの流れにも変化が加わったことが伺えます。その流れから「Only You Know」でそれまでの空気感を復調させ、ドラムレスの浮遊系ナンバー「Another Go Around」、どこかニューウェイヴ的な懐かしさを感じさせる「Masquerade」、ムーディながらも壮大さも伝わる「Illusion Of Forever」を経て、文字通り「Finale」でクライマックスの“Chapter 4”へと続いていきます。
“Chapter 4”も基本的にはそれまでの流れから大きく外れることはなく、リズムレスの「The Bells」、アナログ色の強いエレポップ「Hurts To Love」、まるで讃美歌のように穏やかな「Many Nights」、ひときわドラマチックな「Modern Love Stories」でエンディングを迎えます。
曲によってはギターをまったく使用せず、完全にエレクトロニクス色で染め上げられていたり、反復するメロディで構築されたシンプルな楽曲から複雑に展開するプログレッシヴなアレンジまであったり、味付けや方向性に統一性こそ感じられるものの、楽曲の振り幅自体は実にバラエティに富んでいる。それもあって、長尺作品ながらも飽きずに楽しむことができ、むしろこの音にずっと浸っていたいとさえ思えてくる。レコーディング自体、前作制作終了後から始まり、約3年もの歳月をかけていること、中には10年前に書いた楽曲も含まれている、ミックスの大半はアラン・モルダー(NINE INCH NAILS、MY BLOODY VALENTINE、RIDEなど)が担当しているが、中にはデイヴ・フリッドマン(MERCURY REV、THE FLAMING LIPSなど)がミックスを手掛けた楽曲も存在する、など大作だけにいろんなエピソードもありますが、とにかく無心でひたすら浸っていたい作品集かな。
こういうアルバムはしのごの言わず、黙って音と向き合うだけで十分。リリース前から何度もリピートしてきた作品ですが、それ以降も気付けば手を伸ばしている、今の自分に必要不可欠な良作です。
▼BEACH HOUSE『ONCE TWICE MELODY』
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