KVELERTAK『SPLID』(2020)
KVELERTAKが2020年2月中旬に発表した4thアルバム。日本盤未発売。
Roadrunner Records経由で2ndアルバム『MEIR』(2013年)、3rdアルバム『NATTESFERD』(2016年)と2作品を発表し、世界的知名度を上げることに成功した彼ら。2018年夏に前任シンガーErlend Hjelvikが、2019年にはドラマーのKjetil Gjermundrødが相次いで脱退するという大きな転換期を迎えましたが、新たにIvar Nikolaisen(Vo)、Håvard Takle Ohr(Dr)という新メンバーを迎え、Rise Records移籍第1弾となる3年9ヶ月ぶりの新作を完成させます。
キャッチーさを強めつつ、初期2作の混沌さから若干の落ち着きを見せた前作『NATTESFERD』は賛否分かれる作風でしたが、今作ではプロデューサーをニック・テリーから初期2作を手がけたカート・バルー(CONVERGE)へと戻して制作。それもあってか、初期の爆発感や破天荒さが若干戻ってきており、前作に苦手意識を持ってしまっていたリスナーを引き戻す効果もあるのではと思っています。
最初こそ新ボーカリストの歌声に若干の違和感を覚えますが、楽曲の熱量が上がるに連れてあまり気にならなくなるはずです。事実、僕自身2曲目「Crack Of Doom」で早くも気にならなくなっていましたから(笑)。
ちなみに、その「Crack Of Doom」ではMASTODONのトロイ・サンダース(Vo, B)をゲストボーカルに迎え、初の英語詞ナンバーに挑戦。もともとデス声やスクリームを多用することで言語的にはあまり気になっていなかったKVELERTAKですが(笑)、この哀愁味を強めた爆走ロックンロールナンバーでは良い意味での“聴きやすさ”が強まっており、それは耳馴染みの良い英語詞の響きと相まって、前作とはまた異なるキャッチーさを強めることに成功しています。
また、「Discord」ではCONVERGEやCAVALERA CONSPIRACY、CAVE INなどで活躍するネイト・ニュートン(B)もゲストボーカルで参加。タイトルからおわかりのとおり、こちらも英語詞ナンバーですが終始スクリームの嵐なので、「Crack Of Doom」ほど英語詞である強みは表れてないかな(苦笑)。曲中やエンディングにフィーチャーされたギターのハーモニーは相変わらず気持ち良いですけどね。
前作から長尺の楽曲が増え始め、曲数のわりにトータルランニングが長くなりだしましたが、本作もその傾向は続いており、全11曲で約58分と過去最長の仕上がりに。とはいえただ長いだけではなく、爆走ロックと70年代のクラシックロックが融合したような「Bråtebrann」や、80年代のスラッシュメタル的側面を強めた「Fanden ta Dette Hull!」、悲哀さに満ちたギターフレーズ&メロディとクリーントーンでのボーカルが不思議な世界へと誘う8分超えのプリグレッシヴな大作「Delirium Tremens」など新境地を見せる楽曲も含まれており、単に初期2作へ回帰するのではなく、過去を抱えつつも前進することを選んだバンドの強い意思が感じられる力作と言えるのではないでしょうか。
本作を聴いたあとに『NATTESFERD』へと戻っていくと、実は意外と無理なく楽しめることにも気づくはず。そういった意味では、前作での実験も見事に回収した、「第2期KVELERTAKの始まり(第1期KVELERTAKの総集編も含む)」を示す1枚と言えるでしょう。僕は大好きですよ、これ。
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