POWER TRIP『MANIFEST DECIMATION』(2013)
2013年6月に発売されたPOWER TRIPの1stアルバム。日本盤未発売。
POWER TRIPはアメリカ・テキサス州ダラス出身の5人組バンドで、古き良き時代のスラッシュメタルやハードコアパンク、それらが融合し80年代後半に生まれた“クロスオーバー”と呼ばれるジャンルを現代によみがえられたサウンドが好評を博しています。
彼らのリリース元であるSouthern Loud Recordsは、SUNN O)))やSLEEP、EARTHなどが在籍するドゥームメタル、ストーナーロック、ドローンメタルなどを中心とした名門レーベル。いわゆるエクストリーム・メタル専門レーベルからのデビューということで、その特殊性にも注目が集まるわけですが……正直、ここまで真っ当でストレート(しかもB級色が濃厚)なスラッシュメタルバンドがテン年代にデビューしたことに驚かされることになるわけです。
“B級色が濃厚”と書きましたが、そこは名門レーベルが携わっているわけですから、レコーディングやミックスに関しては超A級。アーサー・リツクがプロデュースを担当しているのですが、彼はのちにSACRED REICH、CAVALERA CONSPIRACY、CRO-MAGSなどスラッシュ/クロスオーバーバンドを多数手がけることになるので、POWER TRIPでの功績が評価されたんでしょうね。
アルバムで展開されているサウンド、楽曲はぶっちゃけ……「80年代にこういうバンド、たくさんいたよね?(笑)」と言いたくなるような、まるで2013年という時代を無視した世界観。しかも、スラッシュといってもMETALLICAやSLAYERのようなメジャー感の強いバンドとは異なる、メジャーの一歩手前にいるB級インディバンドのそれなもんですから、懐かしくて思わずにやけてしまうという。でも、当時のバンドと大きく違うのは……リフやアレンジなど含め、非常に練り込まれたB級であるということ。すごく矛盾しているかもしれませんが、あの当時のB級感を意図的に演出しつつも、楽曲の殺傷力は非常に強いものが仕込まれている。だから、何度も繰り返し聴きたくなるし、何度飽きないわけです。これ、めちゃめちゃ恐ろしいことですよ?
そういった計算ができる(あるいは本能でそれができてしまう)バンドだからこそ、高く評価されているわけですよね。しかも、単なる80年代の焼き直しで終わっておらず、ちゃんと90年代以降の音楽のフィルターも通過しつつ、その結果としてあえて80年代のこのスタイルを選んでいるわけですから。最強以外の何ものでもないわけです。
彼らは2017年に日本デビュー作にあたる2ndアルバム『NIGHTMARE LOGIC』をリリース後、2018年9月には初来日も実現。これを機に、ここ日本でも高い評価を受けることになります。この2月には人気イベント『leave them all behind』出演のため再来日も決定しているので、ぜひこの機会に生の彼らに触れていただきたいものです(って僕が書くまでもありませんが)。
▼POWER TRIP『MANIFEST DECIMATION』
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