CUTTING CREW『BROADCAST』(1986)
イギリスのロック/ポップバンドCUTTING CREWのデビューアルバム。本国ではVirgin Records傘下のSiren Recordsから1986年11月に発売され、その後Virgin Recordsを通じて1987年7月にアメリカなどで再リリース。日本では「(I Just) Died In Your Arms」の全米No.1にあわせて1987年12月に初リリースされています。
イギリス人のニック・ヴァン・イード(Vo, G, Key)とカナダ人のケヴィン・マクマイケル(G)を中心に1985年に結成されたバンドですが、そう考えると結成後すぐにレーベル契約を手にしているんですね。それも、ニックが70年代後半からソロやTHE DRIVERSといったバンドでの活動があったからこそ(THE DRIVERSはカナダで小ヒットを残しており、そのカナダツアーを通じてニックとケヴィンは出会っています)。2人はロンドンでデモを制作し、見事レーベル契約を獲得。リズム隊の2人が加わるのは、そのあとの1986年に入ってからだそうで、そういった意味ではバンドというよりも「ニック&ケヴィンのソングライティング・プロジェクト」といった趣が強いかもしれません。
アルバムのプロデュースを手がけたのはRUSHなどで知られるテリー・ブラウン(10曲中9曲)と、のちにGUNS N' ROSES『APPETITE FOR DESTRUCTION』(1987年)やMETALLICA『...AND JUSTICE FOR ALL』(1988年)のエンジニアリングで名をあげるマイケル・バルビエロ&スティーヴ・トンプソン(「I've Been In Love Before」のみ)という豪華な面々。ミックス・エンジニアにはティム・パーマー(KAJAGOOGOO、GOO GOO DOLLS、HIM、オジー・オズボーンなど)の名前も見つけられます。
サウンドプロダクション的には当時主流だった“(レコーディングスタジオの)Power Stationサウンド”的といいますか、あるいはTHE POLICEやフィル・コリンズ以降のヒュー・パジャム的といいますか。まあ、序盤のサウンドはそういった印象が強く、今聴くと若干の古臭さを感じます。が、楽曲自体は非常によく練られたポップ/AOR風で、ポップ寄りのハードロックやハードポップと呼ばれるジャンルが好きなリスナーにはたまらないテイストだと思います。実際、大ヒットした「(I Just) Died In Your Arms」や「I've Been In Love Before」の出来は突出したものがありますしね。
一方で、当時ポンプと呼ばれた新世代プログレッシヴロック的なカラーも見え隠れします。アルバム序盤の構成も組曲風ですし、特にラスト3曲(「Sahara」「It Shouldn't Take Too Long」「The Broadcast」)にはその要素が強く感じられるはずです。シングルヒットの印象が強いバンドですが、実はアルバムのトータルにもこだわったアーティスト集団だったんだということに今さらながら気づかされます。
旧世代のプログレがニューウェイヴやニューロマンティックを通過するとこうなるという、IT BITESあたりとはまた違った道をたどった存在だったんでしょうね。「(I Just) Died In Your Arms」のバカ売れによって一発屋的イメージもありますが、もしあの当時に正当な評価が下されていたら(何をもって「正当」かは判断に委ねますが)、次作以降の展開もまた変わっていったのかな……そう思うと、ちょっとかわいそうになってきました。
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