DIRTY SHIRLEY『DIRTY SHIRLEY』(2020)
ジョージ・リンチ(G)とディノ・イェルシッチ(Vo, Key)が新たに立ち上げたプロジェクト、DIRTY SHIRLEYが2020年1月下旬に発表したデビューアルバム。日本盤は同年2月中旬リリース予定。
ジョージ・リンチといえば、現在のメインバンド(?)LYNCH MOBのほかKXM、THE END MACHINE、SWEET & LYNCH、そして今も稼働しているかわからないけどULTRAPHONIX、オリジナルメンバーでのDOKKEN、さらにはソロ名義での活動と、とにかく多岐にわたる活躍をしているアーティスト/ギタリストです。すでに65歳とかなりの高齢にも関わらずこの精力、正直頭が下がります。ですが、どの作品も似たり寄ったりに落ち着いてしまうのが玉に瑕。フロントマンであったり共演者の個性が強ければ強いほど、そっち側にも引っ張ってもらえるので差別化できるものに昇華できているのですが(SWEET & LYNCHとかね)……どうしてもミドルテンポ中心で、ジャムセッションの延長線上にある長尺で単調な楽曲ばかりで、しかもアルバムとなるとそれが10〜13曲も詰まっていて60分を軽く超える作品ばかり。さすがに2、3回聴いてしばらく放置みたいな作品も少なくはありません。
では、今回のDIRTY SHIRLEYはどうなのでしょう? 答えは「YES」でもあり「NO」でもあると。つまり、最高とは言い難いけど、平均点はクリアできているかなというところでしょうか。
楽曲のタイプとしてはブルースやソウルをベースにしたハードロックが軸になっており、ここ20年くらいのジョージ・リンチの方向性そのものかなと。楽曲も大半が5分を超えるもので、ボーナストラックを含む全12曲中6分超えが4曲……あれ、思ったほど多くないかも?
バンドアンサンブルは確かにジャムセッションの延長線上にあるスタイルで、曲によってはそれが良い方向に作用しているものも少なくありません(もちろん、中には退屈なものもありますが)。
で、ここからが本題。歌メロが思った以上に良い。これはディノ・イェルシッチというANIMAL DRIVE、TRANS-SIBERIAN ORCHESTRAなどで活躍する“歌える”シンガーの手腕によるものが大きいのかな。ハスキーで高音もしっかり出る歌唱法はブルースフィーリングとソウルフルさがしっかり備わったもので、それっぽい“なんちゃって”シンガーとはまったく異なるもの。普通に歌ったら単調になりがちなメロディも、この人の声と節回しで歌われることによってどこか特別なものに聞こえてくるのだから、不思議なものです。
ちょっと違うかもしれないけど、デヴィッド・カヴァーデイルとグレン・ヒューズを足して2で割ったような? そんな雰囲気が漂っているんですよね。なもんだから、彼が歌うとどの楽曲も第3期DEEP PURPLEっぽく聞こえてくるという……え、そんなことない?
アルバム中盤の「Siren Song」や「The Voice Of A Soul」といった楽曲の完成度はなかなかのものがあり、バンドとしてのバランス感が非常に整った楽曲だと思いました。あと、本編ラストに収められたアコースティック・サイケナンバー「Grand Master」も良い味を出しています。この曲も完全にボーカリストに助けられていますよね。
うん、ジョージが最近関わったプロジェクトの中では非常に良い部類に入る1枚だと思います。特にここ最近の作品は平均点以上出せているのかなと。ただ、本作はまだ“処女作”という雰囲気も感じられるので、本当の意味でスタイルが固まるのは2作目以降かなと。もちろん、ちゃんとプロジェクトが継続すればの話ですけどね(笑)。最近のジョージは風呂敷を広げすぎて、たたむことまで気が回っていないようなので……うん、継続を希望します!
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