MY DYING BRIDE『THE GHOST OF ORION』(2020)
MY DYING BRIDEが2020年3月上旬に発表した、通算13作目のスタジオアルバム。
彼らは1990年にイギリスで結成されたデスメタル/ドゥームメタル・バンド。結成時からのオリジナルメンバーはすでにアーロン・ステインソープ(Vo)とアンドリュー・クレイハン(G)のみですが、現在は彼らのほか紅一点のレナ・アベ(B)、ショーン・マガウアン(Key, Violin)、ジェフ・シンガー(Dr)、そして昨年加入したニール・ブランシェット(G)という6人で活動を続けています。
PARADISE LOSTやANATHEMAとともに、英国ゴシックメタル・シーンを長年にわたり牽引し続けてきたMY DYING BRIDE。前作『FEEL THE MISERY』(2015年)から4年半ぶりという長いインターバルの間には、アーロンの5歳になる娘に癌が発覚(現在、快調に向かっているとのこと)、さらにはメンバー2人の相次ぐ脱退、デビュー時から25年以上も在籍したPeaceville Recordsからの離脱などネガティブな話題が続きましたが、新たにNuClear Blast Recordsへと移籍して発表した本作ではいまだにシーンのトップに君臨する王者ぶり、かつバンドとしての健在ぶりを存分にアピールしてくれています。
随所にバイオリンをフィーチャーした耽美かつ甘美なゴシックメタル・サウンドに、メロウなクリーンボイスと地を這うようなデスボイスを交互に操るアーロンのボーカルが乗ることで“これぞMY DYING BRIDE”と呼べる説得力の強い世界観を構築。全体的に7分台から10分台の楽曲が大半を占める(全8曲中5曲)も彼ららしいのですが、過去2作が8曲で60分を優に超える超大作だったのに比べると、本作は2〜3分台の楽曲が含まれていることからトータル56分と、意外とコンパクトに収まったような印象も受けます(まあ、とはいえ通常のロック/メタルアルバムと比べたら長尺なのですが)。
「Tired Of Tears」など2声、3声を重ねたハーモニーからは美しさも感じられるものの、ミディアムスローなテンポ感と引きずるようなヘヴィリフと合間って、どことなく不穏な空気も感じ取ることができるはず。かつ、それらがドゥームメタルの始祖であるBLACK SABBATHほどレイドバックしたものではなく、90年代以降のモダンさが主張されたテイストでまとめられている。聴きようによっては、どことなくメタル寄りのグランジロックにも通ずるものがあり、先日紹介したBIG SCENIC NOWHERE同様に「BLACK SABBATHを起点に枝分かれしたサブジャンル」の未来を感じ取ることができるのではないでしょうか。
ノルウェーのダークフォーク/アンビエント・ユニットWARDRUNAの女性シンガー、リンディ=ファイ・ヘラの呪術的なボーカルを大々的にフィーチャーした浮遊感の強い「The Solace」、10分前後におよぶ暗黒超大作「The Long Black Land」「The Old Earth」などはもはやメタルの枠を超えて、黒ミサを彷彿とさせる密室感/密教感も強く、MYRKURをはじめとするブラックメタル/ダークフォークを愛聴するリスナーにも引っかかるものがあるのでは。淡々と歌うアーロンのクリーンボイスが、そういった宗教色をさらに強めているような……うん、クセになりそうな1枚です。
▼MY DYING BRIDE『THE GHOST OF ORION』
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