ARCHITECTS『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST』(2021)
2021年2月26日にリリースされたARCHITECTSの9thアルバム。現時点で日本盤未発売。
トム・サール(G, Key)の死を経て完成させた前作『HOLLY HELL』(2018年)が全英18位と3作連続でUK TOP20入りしたほか、全米89位と初のBillboard TOP100入りを果たしたARCHITECTS。初のウェンブリー・アリーナ公演も大成功を収めるなど、もはや一介のメタルコアバンドから“次世代を担うUKメタルバンド”へと成長を遂げたと言っても過言ではないでしょう。
そんな彼らが2年3ヶ月というスパンを経て完成させた本作は、前作から引き続きダン・サール(Dr/亡くなったトムの双子の弟)&前作から正式加入のジョシュ・ミドルトン(G/SYLOSIS)がプロデュースを担当。トムへ捧げられた楽曲が多く含まれた前作から一転、今作ではカオティックな要素や悲壮感は若干後退し、ポップさやストレートさが増した印象を受けます。
今作のテーマは「今からでも遅くはない」というポジティブさと「敗北主義」というネガティブさの狭間にある、地球の未来が直面している問題の数々。これらを彼ららしいキャッチーなメロディと硬質なメタルコアサウンドに加え、エレクトロの要素やストリングスなどによるオーケストレーション、クワイアなどをフィーチャーすることで楽曲本来が持つ親しみやすさを、よりわかりやすい形に拡張することに成功しています。
上記のようなアレンジは前作にも見られたものですが、今回の場合は曲によっては絶望感を強調する武器にもなり、またある曲では希望が伝わるような温かみにもつながっている。この変化の付け方に、前作以上に巧みさが感じられ、バンドとして(あるいはダン&ジョシュのプロデュースチームとして)表現力や技術力の成長が大いに感じられるのです。確かに以前のアルバムと比べたら“ヤワになった”ように映るかもしれません。しかし、僕はこの進化を非常に前向きに捉えており、これこそが“次世代を担うUKメタルバンド”としての覚悟の表れなんじゃないかと考えています。
また、本作はフィーチャリングゲストの多彩も魅力のひとつで、「Impermanence」にはPARKWAY DRIVEのウィンストン・マッコール(Vo)、「Little Wonder」にはROYAL BLOODのマイク・カー(Vo)、「Goliath」にはBIFFY CLYROのサイモン・ニール(Vo)がそれぞれ参加。PARKWAY DRIVEは同時代を生きる「メタルコアからアリーナ/スタジアムバンドへと登りつめた稀有な存在」同士だし、ROYAL BLOODやBIFFY CLYROはメタルコアというよりはオルタナティヴロックの範疇に含まれるものの、同じUKを代表するロックバンドとしての絆を感じさせるコラボだし、と何かと話題性も多いのではないでしょうか。
全15曲で約58分と非常にボリューミーな大作ですが、1曲1曲の作り込みが尋常じゃないので全編通して聴いても飽きることはないのでは。少なくともこの数日、本作を何度もリピートしていますが、聴くたびに新たな発見が見つかる。2021年のメタルシーンを象徴する1枚になるのではないか?と、個人的には確信しています。
数字的にもキャリア的にも、ここで一気に化けることが期待できる、“確変”の1枚です。
▼ARCHITECTS『FOR THOSE THAT WISH TO EXIST』
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