IN THIS MOMENT『MOTHER』(2020)
IN THIS MOMENTが2020年3月下旬に発表した7thアルバム。
2005年結成以来、紅一点のマリア・ブリンク(Vo)のパワフルかつ妖艶な歌声を軸にしたメタルコア/ゴシックメタル・サウンドで人気を拡大し続けている彼ら。メジャーのAtlantic Records移籍以降に発表した『BLACK WIDOW』(2014年)、『RITUAL』(2017年)ではブレント・スミス(SHINEDOWN)、ロブ・ハルフォード(JUDAS PRIEST)をフィーチャーした楽曲が話題になったことも記憶に新しく、特に『RITUAL』ではフィル・コリンズのカバー「In The Air Tonight」も注目を集めました。
前作『RITUAL』から約3年ぶりとなる新作は、2ndアルバム『THE DREAM』(2008年)からタッグを組むケヴィン・チャーコ(オジー・オズボーン、FIVE FINGER DEATH PUNCH、DISTURBEDなど)がプロデュースを続投。出世作となった4thアルバム『BLOOD』(2012年)あたりから表出し始めたインダストリアル・メタルのテイストはより強固なものとなり、このバンドがストレートなヘヴィメタル/メタルコアを信条としていた初期のスタイルはもはや完全に過去のものになってしまったんだなと、ちょっと寂しさを覚えたりします。
まあ過去の思い出に浸っても意味がないので、新作の話題を続けます。ミディアム/スロウナンバーを軸に、エレクトロ/インダストリアル色を強めたゴシックメタル・サウンドはもはやこのバンドの大きな武器と呼べるものであり、そういった楽曲群に乗せられたキャッチーなメロディもさらに磨きがかかっている。ぶっちゃけ、ここで展開されている歌/音/メロディって今のメタルシーンにおいて王道と呼べるものだと思うんです。ゼロ年代こそオルタナティヴな存在だったIN THIS MOMENTが、テン年代に発表した過去3作で得た経験を最高の形で昇華させた、2020年代のスタートにふさわしい新たなスタンダード。それが本作『MOTHER』という傑作ではないでしょうか。
時にパワフルに歌い上げ、時に気怠さを表現するマリアの歌唱法は、もはやスクリームで攻撃性をプッシュしていた過去と完全に決別しているし、むしろそういったスクリームは味付け程度に使われるのみ。うん、それでいいんだと思います。
フィーチャリング・ボーカルの採用やカバー曲のピックアップなど、前作でN成功をそのまま踏襲している点も本作の注目点。カバー曲として選ばれたのがQUEEN「We Will Rock You」という手垢つきまくりの1曲なのは当初「?」でしたが、その曲をリジー・ヘイル(HALESTORM)、テイラー・モムセン(THE PRETTY RECKLESS)の女帝3人で歌い分けると知り、妙に納得。うん、それなら全然あり! で、これがまたカッコいいわけですよ(ボーカルパフォーマンスが)。
サウンドによる直接的な激しさを求めるリスナーには刺激が足りないかもしれませんが、ボーカルワークで感情に訴えかける激しさが表現されているという点においては、本作は志向の1枚だと断言できます。ロックやメタルがチャート的に衰退気味な今、こういう作品こそ広く親しまれてほしいと願っております。
▼IN THIS MOMENT『MOTHER』
(amazon:国内盤CD / 海外盤CD / 海外盤アナログ / MP3)