THE TEA PARTY『TRANSMISSION』(1997)
THE TEA PARTYが1997年8月に発表した4thアルバム。日本盤は同年10月末にリリースされました。
THE TEA PARTYはジェフ・マーティン(Vo, Gなど)、スチュアート・チャットウッド(B, G, Keyなど)、ジェフ・バロウズ(Dr)からなる、カナダ出身のトリオバンド。1990年に結成し、EMI Canada から発表された2作目『SPLENDOR SOLLS』(1993年)で本国にてブレイク。その後、RUSHのマネジメントと契約したことから、この『TRANSMISSION』はアメリカと日本ではRUSHのレーベルAnthem(当時の流通はAtlantic Records)からリリースされました。
トリオ編成と聞けばシンプルなアンサンブルをイメージするかもしれませんが、上に書いたメンバーの各パートからもおわかりのように、音源にはいろんな音が詰め込まれています。かつ、本作ではサンプリングをはじめとしたデジタル要素も強まり、クラシックロック的な手法とミックスさせることで新たなスタイルを確立させようとしていることが伺える。今の耳で聴くと手垢のついた手法かもしれませんが、この「LED ZEPPELIN的スタイルにモダンなテイストを散りばめる」やり方は1997年という時代においては非常に新鮮なものに映りました。
エキゾチックな旋律をギター・オーケストレーションなどで厚みを持たせたアンサンブルにて表現した楽曲群と、適度な熱を帯びたジェフ・マーティンの歌声が合わさった本作は、“グランジのその先”を感じさせるものでもあり、当時のHR/HMシーンではあまり見受けられなかった手法でもあったのかなと。軸にあるのはクラシックロックなのかもしれませんが、それを1997年当時の質感/テイストで表現した結果、クラシックロックからかけ離れた地平へと到達できた。だから、SOUNDGARDENのようなバンドと並列で語ることもできれば、NINE INCH NAILSやDEPECHE MODEのようなアーティスト、あるいはOASISあたりのUKバンドとの共通点も見いだせる。本作は「どこにでもあるようで、実は唯一無二」な存在にまでバンドを導いてくれた、記念碑的な1枚と言えるんじゃないでしょうか。
なのに、リリース当時はここ日本でほとんど話題にならなかった本作。これは余談ですが、『TRANSMISSION』は前々作『SPLENDOR SOLLS』以来の日本盤リリースでしたが(『SPLENDOR SOLLS』は当時の東芝EMIから、今作はワーナーからのリリース)、実はTHE TEA PARTYキャリア最大のヒット作はその間に発表された3rdアルバム『THE EDGES OF TWILIGHT』(1995年)なんですよね。そこがポツンと抜け落ちた状況での日本盤化(しかもレーベルを変えての1作目)によって、当時のカナダでの状況を的確に伝えることもできず(今のようにインターネットが一般化する以前の話ですし)、すごく小さいパイの中で瞬間最大風速もそこまで大きくならないまま、カルト的な話題で終わってしまったんじゃないかな。事実、当時自分の周りでこのバンドのことを知っている人、皆無でしたから。
バンドは2005年に一度解散してしまいますが、2011年に再結成。一度もメンバーチェンジのない状態で現在まで活動を続けています。ここから日本で人気が盛り返すこともないでしょうし、せめてこの記事を読んだ人に「こんなバンドがいるんだ。20数年前にこういうアルバムが出て、カナダだけで20万枚以上も売り上げていたんだ」という記憶を刻み込むことができていたら本望です。
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