PARAMORE『THIS IS WHY』(2023)
2023年2月10日にリリースされたPARAMOREの6thアルバム。
ここ数年はヘイリー・ウィリアムス(Vo)のソロアルバムが立て続けに発表されていましたが、バンドとしての新作は全米6位を獲得した『AFTER LAUGHTER』(2017年)以来5年9ヶ月ぶり。ヘイリー、テイラー・ヨーク(G)、前作のレコーディングからバンドに復帰したザック・ファロ(Dr, Key)のトリオ編成で制作された2作目のフルアルバムとなります。
全米1位を獲得したヒット作『PARAMORE』(2013年)からニューウェイヴ色が表出し始め、前作『AFTER LAUGHTER』ではその色がさらに濃厚になり、もはやエモやポップパンクの枠から完全に飛び出したPARAMORE。その傾向は本作でも続いておりますが、加えて今回はポストパンクの側面も見え隠れするなど、いよいよ出世作『RIOT!』(2007年)フォロワーには追いつけないポジションにまで到達しています。
ヘイリーのソロワークスで得た経験も間違いなく反映された本作において、彼女はBLOC PARTYをキーワードとしてピックアップしています。ポップパンクとは異なる性急さをはらんだポストパンク感は、確実に本作にも根付いており、そこが初期のエモ的要素とは異なる、あの頃にはなかった浮遊感や気怠さを生み出している。また、前作を聴いたときに感じたTALKING HEADS的要素も再び見つけることができるものの、そこには難解さは存在せず、むしろメロディのキャッチーさにより磨きがかかったことで、このアンバランスな世界において輝きを強めている。この約6年間にバンド内外で経験したことがすべて実りにつながっていることを、最良の形で証明しているのではないでしょうか。
2010年以降、しばらくはパーマネントメンバーにドラマーが不在でしたが、特に前作からザックがバンドに出戻ったことはバンドのリズム面において大きな変化をもたらしたと感じています。前作のレコーディング時点ではザックは正式復帰前でしたが、今作ではバンドの一員としてゼロから制作に加わったことはリズムワークにおける多様性に大きな影響を及ぼしたのではないでしょうか。加えて、そうした個性的なリズムはテイラーのギターワークにもプラスに作用している。そこにヘイリーのソロ経験が混ざり合うあわけですが、そりゃ面白くなるわけです。
冒頭3曲のキャッチーさを伴った特異性はもちろんのこと、中盤にみせる濃厚なサウンドスケープ、そしてラスト3曲でのドリームポップにも通ずるムーディーさと、ギターロックにできるさまざまなことに果敢に挑んだ全10曲/36分は、アルバムとして完璧の一言。これが20年前に発表されていたら「時代を変える」とか過大評価されたかもしれません。が、今はロックは死んだと言われる2023年。そんな時代にこんな“キャッチーな異物”がドロップされる事実もまた面白い。この傑作がどんな評価を生み出すのか、そして2018年(2月の単独公演&8月のサマソニ)以来となる来日は実現するのか。今後の動向に注目していきたいと思います。
ちなみに、タイトルトラック「This Is Why」のMV監督を務めたのはTURNSTILEのブレンダン・イエーツ(Vo)。そこがつながってくるか!という驚きと同時に、映像のテイスト含め納得の仕上がり。今作からは現時点で「The New」「Running Out Of Time」のMVも制作されており、どちらも独特の映像美と独創性の強い内容なので、音源と併せてチェックしていただきたいです。個人的には本年度のベストアルバム候補、最初の1枚です。
▼PARAMORE『THIS IS WHY』
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