HAYLEY WILLIAMS『FLOWERS for VASES / descansos』(2021)
2021年2月5日にリリースされたヘイリー・ウィリアムスの2ndアルバム。現時点で日本盤は未発売。
PARAMOREのフロント・ウーマンによるソロ活動は2020年2月リリースのEP『PETALS FOR ARMOR I』から本格化し、同年5月発売の1stソロアルバム『PETALS FOR ARMOR』で最初のピークを迎えます。しかし、ご存知のとおりソロ活動開始と同時にコロナ禍に突入してしまったこともあり、ツアーなどのライブ活動は一切行えない状況でした。
そんな中、昨年12月にはアコースティックEP『PETALS FOR ARMOR: SELF-SERENADES』をリリース。そこから2ヶ月という短いスパンで、本作は事前情報なしでサプライズリリースしました。
エレポップやニューウェイヴからの影響濃厚なアートポップが基盤だった前作から一転、本作は非常に内省的なアコースティックサウンド中心で構築されています。これはもちろん、コロナ禍によるロックダウンがもたらした影響が大きいのですが、もっといえばロックダウンがなかったら生まれなかった1枚とも言えるでしょう。
このサウンドの変化は、プロデューサー交代も大きく影響していると言えます。前作ではPARAMOREのテイラー・ヨーク(G)という気心知れた人選でしたが、今作ではセレーナ・ゴメスやニッキー・ミナージュ、THE VERONICASなどを手がけてきたダニエル・ジェームズが担当。もともとエレポップやダンスポップを中心に制作してきた方ですが、本作ではそういった派手さは皆無で、アコースティックギターやピアノなどの生楽器主体のシンプルな作風でまとめられています。
ナッシュビルにあるヘイリーのホームスタジオですべての楽器をテイラーによって録音された本作は、ナッシュビルという土地柄もあってかゴシック調の中にもカントリー的テイストも見つけることができる。ヘイリーは本作に対して「テイラー・スフィフトにおける『FOLKLORE』に相当するもの」と説明していますが、このアーシーで内向的な作風はまさに『FOLKLORE』と同列で語られるべき1枚だと断言できます。
タイトルに用いられたワード「descansos」は、スペイン語で「休息」や「(予期しない突然死に対して配置される)十字架」を意味します。これはコロナによって亡くなった大勢の人たちに贈られたものと受け取ることもできるでしょう。ロックダウンが生み出す閉鎖感と孤立、コロナの影響で次々と亡くなっていく人たち。そういった日常は日本からは想像できないほどのものがあるはずです。そういった2020年を音楽に刻むという点において、本作は『PETALS FOR ARMOR』に続く純粋な新作というよりは、もっとシンプルに“記録=Record”としての新作と捉えたほうが正しいのかもしれません。
我々の生活が以前に近くことで、本作の響き方もまた違ったものになると思いますが、だからこそまだひどい状況が続くこのタイミングに触れておきたい、そんな日々の生活に根付いた1枚です。
▼HAYLEY WILLIAMS『FLOWERS for VASES / descansos』
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