DANCE GAVIN DANCE『JACKPOT JUICER』(2022)
2022年7月29日にリリースされたDANCE GAVIN DANCEの10thアルバム。日本盤未発売。
全米14位を記録した前作『AFTERBURNER』(2020年)から2年3ヶ月ぶりの新作。さまざまな変化/トラブルを経て届けられた今作は、過去最高の全米8位という高順位を獲得しています。
その変化/トラブルについて……まずは変化から。前作リリース後に2015年からツアーにサポート参加していたアンドリュー・ウェルズ(G, Vo/EIDOLA)が正式加入。アンドリューは過去数作にもゲストプレイヤーとして参加していましたが、今作では大半の楽曲でギターをプレイしているほか、リードボーカルとしても5曲でその個性を発揮しています。
そして、トラブルについて。今作完成後の2022年4月14日、ティム・フィーリック(B)が急逝。ティムは2009〜2010年にバンドに初参加し、2012年からはパーマネントメンバーとして長きにわたり在籍してきました。そして、6月にはフロントマンのティリアン・ピアソン(Vo)が性的不正行為の申し立てにより「専門家の助けを求めるため」にバンドを離脱。現在、バンドはアンドリューを中心に、ゲストボーカリストとして初期メンバーのカート・トラヴィスを迎えてツアーを行っています。
そんなこんなで、いろいろ不幸な出来事が続いているDGDですが、新作にはティム、ティリアンの参加したトラックはそのまま残されております。全18曲/63分という非常に長尺な内容ですが、とにかく最初から最後まで気持ちよく楽しめる1枚なので、そこはご心配なく。
基本路線は過去数作の延長線上にある“ポストハードコア+ポストロック+プログロック”なミクスチャースタイル。オープニングに30秒程度のSE「Untitled 2」が配置されていますが、続く「Cream Of The Crop」から問答無用のDGD節が炸裂します。ティリアンのクリーンボーカルとジョン・メス(Vo)のスクリームのバランスも抜群で、スクリームパートではアグレッシヴさが強調され、クリーンボーカルパートになると浮遊感が一気に増す。特に今作ではティリアン&アンドリューの声質が異なる2人のクリーンボーカリストが良い味を出しており、曲によっては3人のシンガーが各々の個性を見事に発揮させながら、複雑に絡み合うバンドアンサンブルの上で絶妙なハーモニーを響かせています。
前のめりで突進するアップチューンも捨てがたいのですが、特に今作においては「Feels Bad Man」や「Die Another Day」みたいなミディアムナンバーがお気に入り。これらの曲で耳にすることができるアンサンブルはとにかく絶品で、前者におけるギターのフレージングや後者での強弱の付け方などは個人的にど真ん中すぎて、気付くと何度もリピートしているほどです。
今作ではDON BROCOのロブ・ダミアーニ(Vo)を「Synergy」にてフィーチャー。そのほかにも複数のギタリストやストリングス隊がゲスト参加しており、豊富な楽曲群に彩りを与えています。これは過去数作と同じ手法ですが、特に今回の場合はオープニングの「Untitled 2」や続く「Cream Of The Crop」などで耳にできるストリングスによる味付けが良いアクセントになっております。
ただ、やはり曲数が多いこともありアルバムの芯を捉えるまでに時間がかかりそうな印象も。リリースされてから10日近くリピートしていますが、前作のコンパクトさ(それでも全13曲/48分でしたが)と比べたらどうしても全体像がぼやけてしまう。新メンバーを迎え創作意欲が爆発したのは理解できるのですが、せめて前作程度のボリュームに抑えてくれたら引き続き傑作と呼べる1枚になったのではという気がします。もちろん、現在の内容でも十分に良質なのですが、傑作とは言い切れないので……。
▼DANCE GAVIN DANCE『JACKPOT JUICER』
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