THE GHOST INSIDE『THE GHOST INSIDE』(2020)
2020年6月初頭にリリースされたTHE GHOST INSIDEの5thアルバム。日本盤未発売。
LA出身のメタルコア/メロディック・ハードコア・バンドTHE GHOST INSIDEは、本作の前までに4作のスタジオアルバムを発表。僕はEpitaph Records移籍第2弾アルバムの前作『DEAR YOUTH』(2014年)で初めて彼らの音に触れたのですが、それからしばらくした2015年11月にメンバーの乗ったツアーバスが交通事故に遭遇し、トレーラーとの正面衝突で両車両の運転手が死亡。メンバーも脊髄損傷など重篤な状態に陥り、中でもアンドリュー・トカチク(Dr)は右足を切断するほどの重傷を負いました。
事故から約3年後、アンドリューはSNSを通じて彼専用の特別なドラムセットでプレイする姿を公開し、「事故以来初めて、自分の足が2本あったときの演奏レベルに近いと感じている」とのコメントを残しました。そして、バンドは密かに新作制作の準備を始めると同時に、2019年7月に復活ライブを開催。2020年に入り待望の新曲が公開され、ファンを歓喜させたのでした。
前作から5年半という長いブランクを経て届けられた5thアルバムは、ウィル・パットニー(AFTER THE BURIAL、KNOCKED LOOSE、PIG DESTROYERなど)とジェレミー・マッキノン(A DAY TO REMEMBERのVo)の共同プロデュースで制作。ジェレミーとは3rdアルバム『GET WHAT YOU GIVE』(2012年)からの付き合いですが、ウィルとは初共演となります。
バンド名を冠したセルフタイトル・アルバムということで、かなりの気合いと気迫が伝わってくる作品に仕上がったと言えるのではないでしょうか。事故から復活ライブ開催までのブランク期間=1,333日をタイトルに持つオープニングトラック「1333」から、バンドの完全復活を高らかに宣言する「Still Alive」へと流れる構成といい、MVに事故発生当時のニュース映像をフィーチャーしたリードトラック「Aftermath」といい、聴き手側は嫌が応にも“奇跡の復活”というフィルターを1枚通して接することになってしまいがちですが、当のバンド側はそんなこと御構いなしの王道メタルコア・サウンドを高らかに鳴り響かせています。
クリーントーンをフィーチャーしたサビメロ(特に「One Choice」など)が増えたことで、エモさが増したというのもあるのでしょう。そのへんの“湿り気”に違和感を覚えなくもないですが、楽曲/ボーカルパフォーマンス/演奏すべての面において水準以上のクオリティの作品だと断言できます。
斬新さや革新的な要素は皆無ですが、終始安心して身を委ねられる良質なメロディック・ハードコア・アルバム。この手のファンにはたまらない1枚ではないでしょうか。僕のような(このバンドの)ビギナーも心ゆくまで楽しめる力作でした。
▼THE GHOST INSIDE『THE GHOST INSIDE』
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