ニック・メンザが脱退し、ジミー・デグラッソが加入して制作された本作は、インダストリアルノイズなどの打ち込み要素を積極的に取り入れ、ポップな曲はよりポップさを追求したという意味でMEGADETH史上最大の問題作と呼ばれることの多い1枚。
1曲目の「Insomnia」で一瞬たじろぐも、続く「Prince of Darkness」「Crush 'Em」は前作までの流れを汲むミドルヘヴィチューンなので一瞬安心。しかし5曲目「Breadline」で他のアーティストとCDを間違えたんじゃないかと確認したくなることだろう。とはいえ「I'll Be There」のような不思議な魅力を放つ楽曲もあり、決して駄作とは言い切れないところも。個人的には「MEGADETHであってMEGADETHではない」アルバムという位置付けで、非常に気に入っているアルバムでもある。
実は本作、オリジナル盤と2002年のリミックス&リマスター盤とではかなり印象が異なる。もしかしたら再発盤のミックスのほうが従来のファンには入りやすい1枚かもしれない。そしてこのアルバムをもってマーティも脱退。彼がもたらそうとした変革は続くアルバムですべてひっくり返されるのだった。
以下、1999年9月に旧「とみぃの宮殿」にて掲載した、本作のクロスレビューを再掲。
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正直、この中では俺が一番MEGADETHと程遠い位置にいるんじゃないのかな、今? つうのは俺、93年に彼等と決別してるので‥‥理由は「COUNTDOWN TO EXTINCTION」における来日公演の2度に渡る延期・中止騒動。俺は初の武道館公演のアリーナチケットを持っていた。「そうか、MEGADETHもいよいよ武道館か‥‥」という感慨深い思いがあったのは事実だ。その時点で7年目のファンとして、そして最高傑作のツアーで武道館公演‥‥最高のシチュエーションだった。が‥‥知っての通り、今日現在まで彼等の武道館公演というのは実現していない。
これを機に彼等への熱は冷めた。アルバムこそチェックを入れてきたものの、傑作と言われる前作「CRYPTIC WRITINGS」でさえも、今現在手元にない。俺にとって「今のメガデス」とはその程度の存在なのだ。 正直な話、今回のアルバムにもそれまでと同様の接し方をするつもりだった‥‥そう、シングルナンバーである"Crush 'Em"を耳にするまでは‥‥
今回の新作「RISK」には5つの「なぜ‥‥」がある。
・何故彼等はこの安定期に「リスク」と名のつくアルバムを制作したのか?
・何故アルバムジャケットにネズミ捕りを使ったのか?
・何故彼等は今回の新作のプロモーションに際しての露出を総合音楽誌「rockin'on」やバラエティー番組(「笑っていいとも」や「LOVE LOVE 愛してる」)と幅を広げたのか?
・何故新作のブックレットには歌詞が載っていないのか?
・何故バンドのロゴマークを変えたのか?
この5つの謎に対する答えを述べるつもりはない。何故なら、その答えこそ今までMEGADETHを聴いた事のなかった人達に探し出して欲しいからだ。そういう内容の作品になっていると思う。
何故俺が新曲"Crush 'Em"にドキリとしたか‥‥理由は簡単。「MEGADETHであってMEGADETHではなかった」からだ。イントロからしてインダストリアル・ノイズ、そしてディスコ調のベースライン&ギターフレーズ。デイヴのボーカルがなかったらメガデスとは気付かないのかもしれない。が、そのデイヴのボーカルでさえも彼特有のヒステリックさを抑え、むしろセクシーさすら感じさせる。大きなリズム、メロディー自体は普通の曲なのだが、今のMEGADETHがプレイすることによって生じる『うねり』のようなものを感じる。この『うねり』‥‥正直、今までの彼等に感じなかったものだ。これが何を意味するのかは判らない。が、明らかに彼等は次のフェイズに進もうとしている。最初のスラッシュ3部作を第1期とし、「RUST IN PEACE」~「CRYPTIC WRITINGS」の不動のメンバー期を第2期とすると、明らかにこの新作から次の1歩を踏み出しているのが判る。ある意味集大成的内容だった前作と比べると、今作には前作までにあった要素と新しい実験的要素が入り交じっているのが確認できる。もしかしたらこれは『次の1歩』というよりは 『過渡期』的作品なのかもしれない。
今までにない要素として、1曲目の"Insomnia"を挙げることができる。イントロのインダストリアル・ノイズ、ドラムマシン使用など。バックトラックさえ差し換えればテクノチューンとしてクラブなどでも流せるんじゃないか?と思わせる、シークエンスするギターリフ。確かにこのように攻撃的なナンバーは「COUNTDOWN TO EXTINCTION」などにも収録されていた。が‥‥明らかに質感が違う。勿論「COUNTDOWN~」の楽曲も洗練されていたが、この"Insomnia"はもっと‥‥それまでの楽曲の亜流ではなく、明らかに何か別の要素が混入した楽曲になっている。それは所謂『ヘヴィメタル以外の何か』だろう。その『ヘヴィメタル以外の何か』は"Seven"からも感じ取れる。この曲こそ南部出身のロックンロールバンド‥‥ZZ TOPのようなバンドを思い浮かべた。特に後半のシャッフル・ビートなんて往年のブギーバンドだ。昔のメガデスだったらここのアレンジ、1stの"These Boots"のような性急なビートを刻んでいただろう‥‥これを成長と呼ぶか、後退と呼ぶかで評価は変わってくるのかもしれない。
もうひとつの今までにない要素‥‥それは『メロディーの質感の変化』だろう。これが一番大きい気がする。第2期を見てみると、後期に進むにつれてデイヴ単独作曲の楽曲が減っていく。特に新作では全12曲中8曲がデイヴとマーティ・フリードマン(Gt)との競作になっている。デイヴ単独作曲は先の"Insomnia"と最終曲"Time:The End"の2曲だけだ。勿論、これだけで『メロディーの質感の変化』を唱えるわけではない。確かに今までもマーティとデイヴは競作してきた。が、今作では何かが吹っ切れたかのような開き直りを感じ取れる。その開き直りとは何か?
今作のメロディーラインで特に印象的な楽曲を3曲挙げなさい、と言われれば俺は"I'll Be There", "Ecstasy", "Time:The Beginning"を挙げる。この3曲はデイヴ/マーティの競作曲だ。とにかく、このメロウな感触、日本的ではないだろうか? 例えば演歌だったり、70年代の歌謡曲だったり。これまでにもMEGADETHの楽曲には日本を感じさせるギターフレーズが多々登場した。これは日本贔屓のマーティの趣味なのはよく判る。が、歌メロにここまであからさまに登場したのは今回が初めてだと思う。確かにヘヴィメタルというジャンルには多少演歌的要素を感じ取る事ができるが、このMEGADETHの新曲は全く別ものだ。そしてそのメロディーラインの判りやすさが『ポップさ』を生み出しているのも確か。"Breadline"なんて普通のハードロックバンドが演奏してもおかしくないし、逆に80年代のJUDAS PRIESTが演奏したとしても俺的には何ら違和感はない。
では今まであった要素はどうか? これは所謂『王道路線』と呼ばれる、典型的なMEGADETHソングを指す。例えば"Prince Of Darkness"や"The Doctor Is Calling"のようなミドルテンポのヘヴィチューン。これなどは「YOUTHANASIA」以降のメガデスが得意とするパターンだ。『王道』とは言っても一歩間違えばそれは『セルフパロディー』と化してしまう危険性を兼ね備えている。自分達の過去のヒット曲の焼き直し/水で薄めたバージョン‥‥これを連発していった結果、消えていったバンドが如何に多いか‥‥これはMEGADETH自身がよく理解しているはずだ。だからこそ上に挙げた2曲は『セルフパロディー』では終わらなかった。それは『デイヴの表現力の向上』が原因ではないだろうか? 某雑誌でアルバムリリース毎に「これでボーカルの表現力がもっとあれば‥‥」と言われ続けたデイヴ。ある種オジー・オズボーンと一緒でキャラクター勝負なところが今まであったが、今回ばかりは違う。最近のジェームズ・ヘットフィールド(メタリカのVo & Gt)がそうであったように、楽曲の幅が広がった結果、自ずと歌の表現力をのばす結果となった。あるいは逆かもしれない。今回のデイヴにも同様なイメージを受けた。時々唄い回しがジェームズを彷佛とさせる場面もあったが(笑)ここまで唄えるようになれば大したもんだと思うが。
確かに今までの要素を含みつつも新たな道へ進もうとしているMEGADETH。このアルバムを聴いたメタルファンはもう彼等の事を『メタルバンド』とは呼ばないのかもしれない。逆にこれまでMEGADETHを『メタルバンド』と認識してきたごく一般の音楽ファンは、MEGADETHのことをどう捉えるのだろうか‥‥実はこの辺が今回一番重要なポイントになるのではないか? MEGADETHの音楽的変化。これを成長と捉えるか、裏切りと捉えるか‥‥今回のアプローチはあくまで『MEGADETHを敬遠してきた/拒絶してきた人間への挑戦状』だと僕は捉えている。なおかつ、今まで彼等を支えてきたファンにもアピール出来る楽曲‥‥何となくデイヴの構想が見えてくる。この挑戦、少なくとも俺にとっては成功したようだ。もう1度彼等に注目する機会を作ったのだから。が、刺激的か?と問われれば、残念ながらそうではない。ものすごく安心して聴ける内容になっている。ハイ・クオリティーな楽曲・演奏・歌。それまでのメタル・ファンに対してはリスクを伴う挑戦なのかもしれない。が、「リスク」というタイトル通りに本当のリスクを伴うのは次作からなのかもしれない。
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