THE FALL OF TROY『MUKILTEARTH』(2020)
2020年8月8日にリリースされたTHE FALL OF TROYの6thアルバム。日本盤未発売。
彼らは2002年にワシントン州マカルティオにて結成されたトリオ編成のポスト・ハードコアバンド。当初はハイスクール時代に結成された当初はTHE 30 YEARS WARという名前で活動していましたが、のちに現編成となってからはTHE FALL OF TROYとして知名度を広めていきます。4枚のアルバムを残し、2010年には一度解散してしまいますが、2013年に再結成。2016年に約7年ぶりとなるニューアルバム『OK』を発表しています。
本作はその再結成第1弾アルバム『OK』以来、実に4年ぶりの新作。制作は同作完成後の2016年から2019年にかけて、ゆっくり、じっくり行われてきたようです。本作の内容として特に興味深いのが、全10曲中6曲がハイスクール時代、つまりTHE 30 YEARS WARとして活動していた時期の超初期楽曲であること。この当時のメンバーはトーマス・エラック(Vo, G)ではあるものの、その原点的楽曲群に加えトーマス、ティム・ワード(Vo, B)、アンドリュー・フォースマン(Dr)という鉄壁のトリオで制作した最新ナンバー4曲を加えることで、THE FALL OF TROYとしての濃度がより強まっているような印象を受けます。その濃度の高さは、アルバムタイトル(故郷のマカルティオをもじった)『MUKILTEARTH』からも伺えるのではないでしょうか。
ポスト・ハードコアやマスコア、プログレなどの要素を飲み込んだそのサウンド/アンサンブルは、いつも以上に直線的なものが多く含まれている印象があります。そのへんの楽曲が初期のものなんでしょうか。スクリーム一辺倒で押し通すものもあれば、エモーショナルなメロディを歌い上げる楽曲もあり、激しさの中にも胸を突き刺すような痛みや悲しみが見え隠れする。そういった面に青臭さを感じ、思わずニヤッとしてしまうのは僕だけでしょうか。
ちなみに本作、「若者の喜びと自由」「成人後の現実と責任」が綴られており、アルバム前半を占める初期の楽曲群では前者、後半(おそらくラスト4曲かな)では後者をベースにした楽曲が並んでいるとのこと。特に後者(今を切り取った楽曲群)は薬物などを含む依存症、周りの友人・知人や家族の死、バンドや仲間との別れ、そして再結成という流れを経て今に至る3人が、若い頃には表現できなかったものを体現しており、その対比は非常に興味深いものがあるのではないでしょうか。実際、プログレ度も後半4曲の方が高く、バンドとしての深みもより強く感じられるはずです。まあなんにせよ、アルバムのラストを(最新楽曲である)「We Are The Future」と題した楽曲で締めくくるあたりに、彼らが後ろ向きな気持ちで初期の楽曲をリメイクしたわけではないことが伺えるのではないでしょうか。
このタイミングに、なぜこういう内容の作品を作るに至ったのか。今後そういった理由がメンバーの口から語られるかと思いますが、今はこの感情を大きく揺さぶる力作を、爆音で何度も楽しみまくりたい。そんな気持ちでいっぱいです。
▼THE FALL OF TROY『MUKILTEARTH』
(bandcamp)