SLAVES『TO BETTER DAYS』(2020)
2020年8月7日にリリースされたSLAVESの4thアルバム。日本盤未発売。
同名バンドはイギリスにも存在しますが、こちらはアメリカ・カリフォルニア州サクラメント出身の5人組ポストハードコアバンド。2014年結成とキャリアはまだ浅いものの、上記のとおり4枚のオリジナルアルバムと1枚のEPを発表しています。
バンドの中心人物でありシンガーのジョニー・クレイグが2019年1月、薬物中毒を理由に解雇され、同年夏には後任にマット・マクアンドリューが加入。以降、「Heavier」を筆頭に数々の新曲を定期的に発表してきましたが、このアルバムはその最初の集大成といえる1枚に仕上がっています。
基本的なサウンドの方向性は前作『BEAUTIFUL DEATH』(2018年)の延長線上にある、音響系っぽいエレクトロ調サウンドエフェクトを多用した、歌メロ重視のエモーショナルなモダンハードロック。もはや何をもってポストハードコアと呼ぶのか危うい存在ではあるものの、1曲1曲の作り込み、およびアルバムとしての完成度は非常に高いものがあります。
新しいシンガーのマットはアメリカの有名なオーディション番組『THE VOICE』第7シーズン(2014年)参加者で、決勝にまで残った実力の持ち主・僕がそこまで熱心なSLAVESリスナーでなかったこともあってか、前任ジョニーからマットへ交代したことはそこまで大きな影響を及ぼしているとは感じられませんでした。むしろ、適度にスモーキーさとウェット感、かつ透明感をバランスよく兼ね備えたマットの歌声は、SLAVESというポップ色の強いバンドにはぴったりなんじゃないかという気がします。
特に彼の歌声がフィットすると強く感じたのが、ファルセットなどを多用して繊細さを表現する「Cursed」「Clean Again」や、緩急の差を表す技術力が求められるミディアムスローナンバー「Wasting My Youth」のような楽曲群。ハードめの楽曲では適度にディストーションのかかったボーカルがその力を遺憾なく発揮していますが、僕はじっくり聞かせる楽曲でこそ彼の魅力が最大限に活きるのではないかという印象を受けました。
どの曲も2〜3分台というコンパクトな作りは、昨今のヒットチャートを席巻するポップスと同様の構造で、全13曲トータルで38分というコンパクトさも非常に納得の仕上がり。これをポストハードコアと受け取るか、ハードロックと受け取るか、あるいはモダンなポップスとして受け取るかで評価は大きく変わると思いますが、僕の中では「キャッチーなメロディを持つハードなサウンドを信条とするロックバンド」という存在で、そのジャンルの中では非常に高品質な1枚だと断言できます。何かの拍子に、こういうバンドの楽曲が一般チャートの上位にポンと跳ね上がってきたら、今の音楽シーンがもっと面白くなるんだけどなあ。
なお、SLAVES名義でのリリースは本作が最後になるとのこと。理由はご存知のとおり、このバンド名が世の中的にネガティブなイメージを与えるため(まあ「奴隷」ですからね、バンド名が)。新しいシンガーを迎えたことですし、舵を切り直すには良いタイミングかもしれませんね。
▼SLAVES『TO BETTER DAYS』
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