PVRIS『USE ME』(2020)
2020年8月28日にリリースされたPVRISの3rdアルバム。日本盤未発売。
PVRISは女性フロントのリンゼイ・“リン”・ガン(Vo, G)を中心とした、マサチューセッツ州ローウェル出身のエレクトロポップ/エモ/オルタナティヴ・バンド。結成当初こそポストハードコア的サウンドだったものの、Rise Recordsからの1stアルバム『WHITE NOISE』(2014年)の時点で現在のエレクトロポップ路線はほぼ確立されており、その音楽性から“SKRILLEX meets PARAMORE”と評されることも少なくありませんでした。2016年にはONE OK ROCKの『ONE THOUSAND MILE TOUR 2016』で初来日。その際にはワーナーミュージック・ジャパンより『WHITE NOISE』デラックス盤で、日本デビューを果たしています。その後も2016年8月に『SUMMER SONIC』で、2018年6月にはcoldrain主催のツーマンライブシリーズ『LOUD OR NOTHING vol.2』での再来日が実現しています。
デビュー以降、ドラムレスの3人編成だったPVRISでしたが、今年に入ってからアレックス・バビンスキー(G)が脱退。現在はリンとブライアン・マクドナルド(B)の2人組ですが、Warner Records移籍第1弾アルバムとなる本作のアートワークにはリン1人のみをフィーチャーするなど、彼女を前面に打ち出す方向へとシフトしています。
実際、そのサウンドもよりエレクトロ方面へと深化が進んでおり、前作『ALL WE KNOW OF HEAVEN, ALL WE NEED OF HELL』(2017年)まではしっかり残っていた“生ドラムやギターサウンドを活かしたバンド感”が完全に払拭されています。もっとも、その予兆はメジャー第1弾作品となったEP『HALLUCINATIONS』(2019年)の時点で明確に現れており、同作で心の準備ができていたリスナーにとっては自然な流れだったのかなと思います。
ギターリフや生ドラムを排除することにより、ループさせたり低音を活かした打ち込みを多用する方向へとシフトしたリズムトラック、あくまで曲を構築するサウンドコンテンツのひとつとしてのギター、曲にメリハリをつけるうえで重要になるシンセの音色/厚みなど、過去2作以上にサウンドメイキングに注力した本作は、もはや「わざわざエレクトロポップと呼ぶのもおこがましい」ほどに堂々とした“エレクトロ”で“ポップ”なサウンド/楽曲を存分に楽しめる1枚に仕上がっています。また、リンのボーカルを以前よりも強調する(前面に打ち出す)ことによって、そのポップ強度もより確かなものへと進化。改めて、彼女の歌声のキャッチーさがPVRISにおける大きな武器であることが理解できる作品集だなと実感しました。
と同時に、その歌声からは“ロック”な棘も要所要所に感じられるから不思議です。まあ、だから自分のような「エレポップ大好きロックリスナー」に引っかかりまくるんでしょうけどね。この大胆な舵きりに対し、従来のリスナーからは賛否分かれることかと思いますが、同時に新しい層にも届く可能性が一気に高まったのかなと。果たしてリンが「新世代のヘイリー・ウィリアムス」になれるのか否か……個人的には賛側なので、ぜひアルバムの成功とともに次世代のヒロインにまで登りつめてもらいたいところです。
▼PVRIS『USE ME』
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