EN MINOR『WHEN THE COLD TRUTH HAS WORN ITS MISERABLE WELCOME OUT』(2020)
元PANTERAのフィル・アンセルモ(Vo)が新たに立ち上げたプロジェクト、EN MINORが2020年9月4日にリリースした1stフルアルバム。
近年はSUPERJOINTのほかPHILIP H. ANSELMO & THE ILLIGALS、SCOURなど数々のプロジェクトで活動するフィル。ハードコアやエクストリームメタルを軸としたジャンルがベースになっていますが、このEN MINORはそれらとは一線を画するもので、フィルが80年代に影響を受けたゴシックロックを、自身ならではの形で踏襲したものとなっています。
つまり、攻撃的なシャウトやスクリームはゼロで、フィルはひたすら低音域でメロディを歌い上げる。演奏面でもディストーションのかかったギターリフやメタル的なテクニカル・ギターソロも皆無で、クリーントーンを中心に穏やかでムーディかつダークな世界観が展開されています。
メンバーにはフィルのほか、SUPERJOINTやTHE ILLIGALS、DOWNなどの一員でもあるスティーヴン・テイラー(G)やケヴィン・ボンド(G, B)、ジミー・バウワー(Dr)、THE DOVER BROTHERSのカルヴァン(Key)&ジョイナー(B)のドーヴァー兄弟、そしてスティーヴ・バーナル(Cello)という大所帯。チェリストを要する編成がこれまでのフィルの他のバンドとは異なり、彼がこのプロジェクトでどういった音を表現したいのかがここからも想像できるのではないでしょうか。
初めてEN MINORに触れる人にとっては、オープニングの「Mausoleums」でのスカスカな音像と絞り出すようなフィルの低音ボーカルにまず驚くことでしょう。このスタイルを事前に知らなかったら、きっとCDを間違えたと思うはずです(笑)。しかも、このスタイルは1曲のみではなく、2曲目も3曲目も続くわけですから。
しかし、アルバム中盤あたりから、ディストーションとまでいわないまでも、若干歪みのかかったギターフレーズが飛び出しはじめ、「This Is Not Your Day」前後の楽曲からはフィルのボーカルも少し肩の力が抜け、良い意味でレイドバックしたユルめの歌を楽しむことができます。このあたりになるとEN MINORの構築する世界観にも慣れ始め、ここで鳴らされている音やメロディが実はPANTERA時代にもほんの少しだけ表出していたことに気づくのではないでしょうか。
そうなんですよ、これは突発的なプロジェクトというわけではなく、過去のフィルが関わったバンドにも散りばめられていた要素のひとつでしかないわけです。そこを拡大させたのがこのアルバムなわけで、これもフィル・アンセルモという人間の個性だ……と、再確認できるわけですよ。まあパッと聴きでは、PANTERAやSUPERJOINTとは大きくかけ離れているので、なかなか気づかないかもしれませんが(むしろ、PANTERAにはこの色、随所から感じ取れるはずです)。
1990年代の、まだPANTERAに在籍していた頃のフィルがこれをやったら叩かれまくったでしょうけど、その後いろいろ炎上しまくって、もはや燃やす燃料すら見当たらない2020年の今だからこそ、正当評価されてほしい。と同時に80年代のゴシック、特にニック・ケイヴあたりが好きな人には届いてほしい良作です。
▼EN MINOR『WHEN THE COLD TRUTH HAS WORN ITS MISERABLE WELCOME OUT』
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