FIT FOR A KING『THE PATH』(2020)
2020年9月18日にリリースされたFIT FOR A KINGの6thアルバム。日本盤未発売。
FIT FOR A KINGは2007年に結成された、テキサス州出身のクリスチャン・メタルコアバンド。前作『DARK SKIES』(2018年)完成後にDaniel Gailey(G)が加入したこともあり、今作は現編成で初のアルバムとなります。
その『DARK SKIES』からちょうど2年ぶりとなる新作は、前作から引き続きドリュー・ファルク(DANCE GAVIN DANCE、CANE HILL、Crossfaith、Crystal Lakeなど)をプロデューサーに迎えた、ヘヴィさとメロディアスさをバランスよく織り交ぜた良作。多くのメタル/ラウド系リスナーがイメージする、「メロディアスなメタルコア」のど真ん中を表現したような王道サウンドが展開されています。
このバンドの音に触れるのは本作が初めてでしたが、とにかく聴きやすいの一言。しなやかさとスピード感、ヘヴィさとミドルテンポならではのグルーヴィーさ、そしてギターやボーカルラインで表現されるメロディアスな要素、一度聴いただけで一緒に歌えそうなシンガロングパート、テクニカルだけど耳馴染みが良くて口ずさめそうなギターソロ。そういった要素のどれかひとつが突出しすぎることがなく、すべてが程よいバランスの上で混ざり合い、ひとつの楽曲を高い完成度で構築していく。まさに職人技と呼ぶにふさわしい本作は、ラウドシーンのみならずリル・ウェインをはじめとするポップフィールドのアーティストとも仕事をするドリュー・ファルクの手腕によるものが大きいのでしょうか。
実はこのバランス感って、日本のラウドロックシーンにもっとも近いものがあると思っていて、それは先に挙げたCrossfaithやCrystal Lakeといった海外でも活躍する国内勢がプロデュースやミックスをドリューにオファーするあたりにもつながっているのかなと。実際、ドリューが近年プロデュースしたりソングライティングで関わったアーティストの多くが、日本ウケしそうなバンドばかりですし、いろいろ納得いくものがあります。
ただ、ここまでバランスが良すぎて“破綻”がまったくないと、スルスル聴き進めてハイ終わり、なんてことにもなりかねない危険性も孕んでいると思っていまして。実際、完成度はかなり高いものの、じゃあどの曲が一番印象に残ったか?と問われると、すぐに「これ!」と挙げられるようなキメの1曲が見当たらないのも事実。すべてが平均点以上、80〜90点の間くらいの高品質なんだけど、例えば1曲だけ99点レベルとか、極端な話1曲だけ40点みたいな曲なんなものがないぶん、平坦なままで終わってしまう危険性も秘めているのかな。そんな気がしました。
強いて挙げれば、泣きメロチックな要素を持つ「Locked (In My Head)」や、Crstal LakeのRyo(Vo)がゲスト参加した「God Of Fire」あたりが一番気になるかな。後者は本作においてデジタル色をもっとも強く施されたこともあり、異色と言えるかもしれません。こういう良い意味での“毛色の違い”や“破綻”がもう少しあってもいいんですけどね。
高品質な優等生的作品だからこそ、パズルのピースがあとひとつ揃えばハネるんじゃないか。そんな1枚です。
▼FIT FOR A KING『THE PATH』
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