カテゴリー「Derek Sherinian」の9件の記事

2022年7月12日 (火)

DEREK SHERINIAN『VORTEX』(2022)

2022年7月1日にリリースされたデレク・シェリニアンの9thソロアルバム。日本盤は同年6月29日先行発売。

前作『THE PHOENIX』(2020年)から約1年10ヶ月という比較的短いスパンで届けられた今作。その前が『OCEANA』(2011年)から9年と考えると、これもコロナ禍がもたらしたひとつの良い点と言えるかもしれません。

今作では盟友サイモン・フィリップス(Dr)が共同プロデューサー/ソングライターとして全面参加。ベースはトニー・フランクリンやアーネスト・ティブス、ジミー・ジョンソン、リック・フィエラブラッチ、ジェフ・バーリンといったHR/HM、ジャズ、フュージョン界では名の知れた名手たちが担当しています。

恒例となった多彩なゲストギタリストは今回も豪華の一言で、タイトルトラック「The Vortex」にはスティーヴ・スティーヴンスBILLY IDOL)が“いかにも”なハイパーアクティブプレイを披露。続く「Fire Horse」ではヌーノ・ベッテンコート(EXTREME)が、彼ならではのファンキーなプレイで耳を惹きつけます。3曲目「Scorpion」はリズム隊+ピアノが織りなすジャジーな世界観で空気を一変するも、シームレスに続く「Seven Seas」では再びスティーヴ・スティーヴンスがプログレッシヴかつスペーシーな演奏&フレーズで、聴く者を圧倒させます。随所にジャジーなフレーズも用意されていますが、そんな中でも自分らしさを一切崩さないスティーヴのギターパフォーマンスはただただ圧巻です。

アルバム折り返し一発目は、スティーヴ・ルカサー(TOTO)&ジョー・ボナマッサ(BLACK COUNTRY COMMUNION)をフィーチャーした「Key Lime Blues」から。2人のギタリストによるユニゾンプレイと、その間を埋めるように弾き倒される個々の“らしい”プレイは、さすがの一言です。そこから、シタールやストリングスを導入したオリエンタルテイストの「Die Kobra」ではマイケル・シェンカーMICHAEL SCHENKER GROUPなど)&ザック・ワイルドBLACK LABEL SOCIETYOZZY OSBOURNEZAKK SABBATH)という、個性派の2人を投入。スリリングさとドラマチックさが同居したこの曲は、派手さという点でも「The Vortex」や「Seven Seas」に次ぐものがあり、アルバム後半のハイライトと言える1曲ではないでしょうか。その2人のプレイを支えるリズム隊がトニー・フランクリン&サイモン・フィリップスというのも、またメタルファンには堪らないものがありますね。

ジャズ/フュージョン界の巨匠マイク・スターンを迎えた「Nomad's Land」で空気が一変すると、アルバムもいよいよ佳境へ突入したことを窺わせます。この曲の味わい深さは本作随一ではないでしょうか。そして、ラストは11分強におよぶ大作「Aurora Australis」。この曲ではSONS OF APOLLOでの盟友ロン“バンブルフット”サールをフィーチャーしており、プログ・ジャズと言わんばかりの独創性の強い仕上がり。ゲストのロン以上にデレクのピアノ/シンセが主軸となっており、まさに彼の主張がもっとも発揮された1曲ではないでしょうか。この曲でアルバムを締めくくるというのも、納得の一言です。

前作『THE PHOENIX』も非常にバラエティに富んだメンツが集まりましたが、今作もそれに匹敵、あるいはそれ以上と言える人選。前作に存在した歌モノは一切ありませんが、それでも十分満足できるのは、インストながらもソングライティングに相当力が入っているからではないでしょうか。プログメタルファンはもちろんのこと、上記のゲストプレイヤーたちに少しでも興味を持っているリスナーなら間違いなく楽しめる1枚だと思います。

 


▼DEREK SHERINIAN『VORTEX』
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2022年5月15日 (日)

WHITESNAKE『GREATEST HITS 2022 - REVISITED - REMIXED - REMASTERED -』(2022)

2022年5月6日にデジタルリリースされたWHITESNAKEのグレイテストヒッツアルバム。フィジカル(CDおよびアナログ盤)の海外でのリリースは6月17日、日本でのCD発売は6月21日を予定。

本作は5月10日からスタートしたWHITESNAKEの“フェアウェル・ツアー”に先駆け発表された、いわゆる“黄金期”(=Geffen Records所属期)の楽曲をまとめたコンピレーションアルバム。もともと1994年に同タイトルおよび同企画のベスト盤が発表済みですが、今回はその収録内容を見直したほか、全曲リミックス/リマスタリングを施したほか、いわゆるシングル表題曲に関しては一部楽器パートの変更&新規録音が追加されるという、いわば「過去の楽曲を今風に作り直しましたよ」的編集盤なわけです。昨今のデラックスエディションや“Red, White & Blues Trilogy”コンピ盤と同じ方向性ですね。なので、ここでは1994年盤とは完全に別モノとして考えて、話を進めたいと思います。

デヴィッド・カヴァデール(Vo)によると、本作は「オリジナルの『GREATEST HITS』をさらに発展させた作品だ。80年代や90年代のサウンドのタイムカプセルを掘り起こし、すべての曲をサウンド面で最新なものにアップデートしたんだ。オリジナルの音源を聖なる遺物として考えてくれているファンのために、オリジナルアルバムはいつも通りそのままに残しておいたよ」とのこと。いやいや、オリジナルアルバムも曲順とかいじってますやん(苦笑)。

そのほか、プレスリリースによると「“Red, White & Blues Trilogy”でも新たなサウンドを付け加えてくれたキーボーディストのデレク・シェレニアンが今回も参加しており、ここに収録されている半数以上の楽曲に新たなハモンドオルガンの音色を付け加えてくれている。彼の熱いパフォーマンスは、No.1スマッシュヒット曲「Here I Go Again」や「Fool For Your Loving」「You're Gonna Break My Heart Again」といった楽曲で聴くことができる。1989年のアルバム『SLIP OF THE TONGUE』に収録されている「The Deeper The love」や「Judgement Day」といった楽曲では、エイドリアン・ヴァンデンバーグによる新たなギターパフォーマンスも収録されている」そうで、確かにシンセやオルガンがかなり新鮮に響くアレンジですし、『SLIP OF THE TONGUE』の楽曲におけるギターリフやバッキングプレイの“スティーヴ・ヴァイが弾くオリジナルテイクとの質感の違い”はこうした差し替えによる効果だったのだと気づかされます。エイドリアン、オリジナル音源収録時は腱鞘炎でレコーディングに参加できなかった無念をこういう形で果たすことになるとは、30数年前は考えもしなかったでしょうね。

また、「これらの新たに付け加えられた要素に加え、デイヴィッド・カヴァデールは貴重品保管室を掘り起こし、オリジナルレコーディング音源には入っていなかった、ギタリスト:ジョン・サイクスによるヴィンテージなパフォーマンスを初めて今回公開している。彼のその貴重なパフォーマンスは、「Slide it In」のソロパートや「Give Me All Your Love」のリズムギターパートで聴くことができる」そう。『SLIDE IT IN』(1984年)『WHITESNAKE』(1987年)の楽曲に関しては、ギターソロにもちょっとしたニュアンスの違い、もっと言ってしまえば“オリジナルのギターソロを別の人間がコピーした”ような違和感を覚えるんですよね……このへん、リミックスの影響なのかなという気もしますが、どうなんでしょう。

あ、もうひとつ。Rhino Records企画の編集盤とはいえ、最初はこの時代のベスト盤に『FOREVERMORE』(2011年)から1曲(タイトルトラック)を追加するのはいかがなものかと思いました。しかし、「Crying In The Rain」から続き、アルバムのエンディングというポジションにこの「Forevermore」が置かれるという構成自体は、聴いてみると意外と悪くないなとも感じ、結果オーライかな。とはいえ、取ってつけた感は否めませんが。

全体を通してドライなミックスが施されたことで、オリジナルテイクにあったアリーナロック級のダイナイックさが激減しており、それを“現代的”と前向きに捉えるか、あるいは“年齢とともにショボくなった”とネガティブに受け取るか……そのへんは聴き手に委ねます。僕自身は一長一短の仕上がりで、なんとも言えないかな。ただ、アルバムごとにプロデューサーやプレイヤーの異なるあの時期=80年代の楽曲(ついでに「Forevermore」も)を、統一感を求めて再構築したという点では、非常に聴きやすい1枚だとは思いました。

今後実現するのかどうか微妙な“フェアウェル・ツアー”日本公演を前に、たまに思い出したように再生することもあるのかな……そんな1枚です。

 


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2021年12月21日 (火)

DREAM THEATER『LOST NOT FORGOTTEN ARCHIVES: WHEN DREAM AND DAY REUNITE (LIVE)』(2021)

2021年12月3日にリリースされたDREAM THEATERのライブアルバム。日本盤は同年12月1日に先行発売。

今年10月22日に待望のニューアルバム『A VIEW FROM THE TOP OF THE WORLD』を発表したばかりのDREAM THEATERですが、そこから1ヶ月強というタイミングで届けられたのがこのオフィシャル・ブートレッグシリーズ第5弾。過去に自主レーベルYsejam Recordsを通じてさまざまな貴重音源を限定販売してきた彼らが、現在所属するInsideOutMusic Recordsとのコラボレーションで今年から定期的にレアライブ音源やアルバムデモ集などを届けてくれています。

今作には2004年3月6日、LAのThe Pantages Theaterにて行われた公演から、バンドの記念すべきデビューアルバム『WHEN DREAM AND DAY UNITE』(1989年)の完全再現パートを収録。このアルバム、当初は『WHEN DREAM AND DAY REUNITE』というタイトルで、2005年にYtseJam RecordsからCDとDVDの2形態が販売されていたもので、今回の再リリースにあたりリマスタリングが施されているとのこと。このへんはこれまでの“LOST NOT FORGOTTEN ARCHIVES”シリーズ同様ですね。

『WHEN DREAM AND DAY UNITE』制作時のメンバーはチャーリー・ドミニシ(Vo)、ジョン・ペトルーシ(G)、ジョン・マイアング(B)、ケヴィン・ムーア(Key)、マイク・ポートノイ(Dr)という布陣でしたが、2004年のこのライブは当然ジェイムズ・ラブリエ(Vo)、ペトルーシ、マイアング、ジョーダン・ルーデス(Key)、ポートノイというメンバーで実施。『WHEN DREAM AND DAY UNITE』に収録された8曲を、原曲にほぼ忠実なアレンジで再現されております。もちろんライブならではのインタープレイも随所に追加された結果、「The Killing Hand」のように原曲より4分も尺が増えたテイクもありますが、これはこれで当時のDTらしいのではないでしょうか。

どこかゲディ・リー(RUSH)っぽかったチャーリー・ドミニシが歌うオリジナルバージョンに慣れ親しんだ耳で触れると、ラブリエが歌う『WHEN DREAM AND DAY UNITE』楽曲群には若干に違和感を覚えるかもしれません。しかも、音楽的にも『IMAGES AND WORDS』(1992年)以降の楽曲と比べて少々異なる質感(主にメロディ)も随所に散りばめられていることもあって、その違和感は増すばかりなのでは。

ですが、『IMAGES AND WORDS』期のライブを当時体験した頃、実はそこまで違和感を覚えたかというと、意外とそうでもなかったような記憶があって。「あれ、ラブリエの歌う1stアルバム曲もカッコいいじゃん」なんて思ったような気がするんですよね。もう30年近く前のことなのであやふやですが。

要は、それだけラブリエの歌声、ラブリエの歌うDT、ラブリエのために用意された曲に慣れ親しんでしまい、久しぶりに原点に戻ってみたら違和感があったというだけなのかな。それだけいろんなことに挑戦し、“DTらしさ”を完全に確立させたという表れでもあるんでしょう。

ラブリエ自身、この時期はまだハイトーンも出るほう(苦笑)だったので、ギリギリこのへんの初期曲を再現できるタイミングだったのでしょう。また、この当時はDT史上もっともヘヴィと謳われた7thアルバム『TRAIN OF THOUGHT』(2003年)リリース後。バンドおよびラブリエにとって、次のステップへ進む上でのアク抜き代わりこの完全再現は必要だったのかもしれませんね。

なお、『WHEN DREAM AND DAY UNITE』収録曲8曲を終えたあと、アンコールとして「To Live Forever」と「Metropolis」も披露されており(もちろん本作にも収録)、この2曲ではオリジナルシンガーのチャーリー・ドミニシと2代目キーボーディストのデレク・シェリニアンがゲスト参加。ドミニシ、意外と歌えていて好印象です。特に「Metropolis」ではラブリエとドミニシのハモリも登場し、普段のDTライブでは味わえない興奮を体験できるはず。ちなみに、「To Live Forever」は「Lie」(デレク在籍時のシングル)カップリング曲なのでセレクトされたのでしょうけど、この曲といい「Metropolis」といい、ドミニシ脱退後の曲で彼をゲスト参加させる意味とは……むしろ本編で登場させてあげなさいよ(笑)。

 


▼DREAM THEATER『LOST NOT FORGOTTEN ARCHIVES: WHEN DREAM AND DAY REUNITE (LIVE)』
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2021年2月21日 (日)

JOEL HOEKSTRA'S 13『RUNNING GAMES』(2021)

2021年2月12日にリリースされたJOEL HOEKSTRA'S 13の2ndアルバム。日本盤は同年2月19日に発売。

その名の通り、JOEL HOEKSTRA'S 13は元NIGHT RANGER/現WHITESNAKEのジョエル・ホークストラ(G)によるソロプロジェクト。2015年に1作目『DYING TO LIVE』を発表しており、本作が約5年ぶりの新作となります。

前作ではラッセル・アレン(Vo/SYMPHONY X、ADRENALINE MOB)、ジェフ・スコット・ソート(Vo/SOTO、W.E.T.、SONS OF APOLLOなど)、ヴィニー・アピス(Dr/ex. BLACK SABBATH、ex. DIOなど)、トニー・フランクリン(B/ex. BLUE MURDER、ex. WHITESNAKEなど)が固定メンバーでしたが、今作ではそこに前作でのゲストメンバーだったデレク・シェリニアン(Key/BLACK COUNTRY COMMUNION、SONS OF APOLLO)を加えた編成にバージョンアップ。が、ジェフは今作ではリードボーカルではなくバック・ボーカルとしてクレジットされています(メインでまるまる1曲歌うようなことはありませんが、要所要所でジェフらしい歌声も聴こえてきます)。

実は僕、前作は聴いておりません。なので、ここは本作のみを聴いた率直な感想を書き残しておきたいと思います。

正直、ジョエルというギタリストに対する音楽的印象がほぼなく接したのですが(むしろ、NIGHT RANGERがいい感じに再浮上し始めた時期にWHITESNAKEに鞍替えしたことを根に持っており、ネガティブな印象が強かった)、オープニング「Finish Line」を聴いたときは「ああ、最近のWHITESNAKEにありそうな曲だな……『FLESH & BLOOD』(2019年)の元凶はお前か……っ!」と思ったものの、曲が進むにつれて……まあモダンなWHITESNAKE的な産業ロック調の楽曲もあるにはあるものの、それよりも本作の軸になっているのはいわゆる“メロハー(メロディックハードコア……じゃない、メロディックハードロック)”、それも欧州寄りの湿り気を残したメロハーなのかなと。4曲目「How Do You」あたりに到達して、そう感じました。

そうと気づいてからは、「Heart Attack」のような曲を聴いても「ああ、そういう北欧メロハーバンドいるよねー」と好意的に受け取ることができるように。人の印象っていい加減というか、自分の中で引っかかる点を見つけられたらあとは可能な限りポジティブに受け取ろうとするんですね、「ジョエル、本当はこういうのやりたいんだ……じゃあWHITESNAKEは出稼ぎみたいなもんか!」とか(後半は違うな)。すごく聴きやすい、良質なメロディアスハードロックをたっぷり楽しめる1枚ではないでしょうか。本当に悪い印象はないです、平均点以上の楽曲ばかりですし。聴いていて楽しいし。

でも、そこまでというのもまた事実。正直な話、「これ!」という90点超えのキラーチューンが1曲だけでもあれば、さらに良い印象なんだけど。全曲70〜80点前後。「Cried Enough For You」あたりはいい線行ってるんだけど、もう一歩なんだよなあ……もちろん、全編においてこれだけのクオリティを保てていること自体すごいことなんですけどね。ただ、加えてギタリストとしての個性も……うん。結局、ソングライターとして大成したいのか、ギタリストとして出世したいのか、そのどっちも中途半端な印象を受けてしまうんですね。だから、これだけ豪華なメンツを揃えていても、そこまでスペシャルな印象を受けない。すべてにおいて「あと一歩」と感じてしまう勿体なさ。そこだけが本当に残念です。

何も考えずに楽しむには申し分のない1枚。ただ、年間ベストクラスではないかな。好きな人にはたまらないと思いますが、僕はたまに聴くくらいで丁度よい佳作かなと。コンスタントに続けるのなら、次に期待したい。それくらいには注目を続けておきます。

(改めて読み返してみたけど、比較的ネガティブに受け取れますよね。でも、僕的にはかなりポジティブに受け取った1枚です。そもそも気に入らなかったら紹介してないですからね!)

 


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2021年2月 2日 (火)

MICHAEL SCHENKER GROUP『IMMORTAL』(2021)

2021年1月29日にリリースされた、MICHAEL SCHENKER GROUP名義での11thアルバム。前作がゲイリー・バーデン(Vo)と組んだ『IN THE MIDST OF BEAUTY』(2008年)とのことなので、約13年ぶりということになります。といっても、マイケル・シェンカー(G)自身は現在MICHAEL SCHENKER FESTとしても活動しているので、そこから数えると『REVELATION』(2019年)から1年4ヶ月ぶりの新作。ここ数年、かなりハイペースで制作していますね。

さてさて。MSG名義としては1980年のデビューから約40年、シェンカー自身も音楽活動を開始してから50年という節目のタイミングということもあって、今回はMSG名義での制作となったようですね。ところが、いざ蓋を開けてみるとあまりMSGである意味が感じられないというか……ぶっちゃけ、MICHAEL SCHENKER FESTとの差別化をあまり意識していないんじゃないか、という印象を受けます。

それもそのはず、アルバム自体複数のボーカリスト、バンドメンバーと制作しているんですから。過去のMSGのように固定メンバーでアルバムまるまる1枚作るという発想は、もはやシェンカーの中には存在しないのではないでしょうか。

歌い手に関してはTEMPLE OF ROCKでタッグを組んだマイケル・ヴォスやFEST参加のロニー・ロメロといったおなじみの面々に加え、ラルフ・シーパース(PRIMAL FEAR、ex. GAMMA RAY)、ジョー・リン・ターナー(ex. RAINBOWなど)という過去にはありえなかった人選。さらにSCORPIONS「In Search Of Peace Of Mind」のセルフカバーにはロニーのほかゲイリー・バーデン、ドゥギー・ホワイト、ロビン・マッコーリーという過去バンドに携わった/現在FESTにも名を連ねるオールスターズが勢揃い。ゲイリー・バーデンをメインに使わないのは良しとして(笑)、彼とはFESTで活動を共にしているからあえてMSGからは外したってことなんですかね。だとしても、それはMSGなのかって話ですが。

演奏陣もバリー・スパークス(B)、サイモン・フィリップス(Dr)、ボド・ショプフ(Dr)、ブライアン・ティッシー(Dr)、スティーヴ・マン(Key)、デレク・シェリニアン(Key)という興味深いメンツが参加。デレクは意外なところですね。ちなみに、サイモンは先のSCORPIONSのセルフカバーのみ参加です。

サウンドや楽曲の質感自体は、先にも書いたようにFEST寄りの80年代後半以降の正統派HR/HM。キラキラした質感やモダンなテイストは、初期MSGのそれとは結びつかないものばかりですが、だからといって楽曲自体が優れていないわけではなく、どれも非常によく作り込まれたHR/HMチューンばかり。そういう楽曲なもんだから、ラルフがあのメタリックな高音で歌えばそれっぽく仕上がるし、ジョーが歌えば彼が参加した過去のバンドっぽくも聴こえる。だけど、楽曲の軸やギタープレイ自体はシェンカーそのもので、ドキッとさせられたり惹きつけられたりするポイントは思った以上にたくさんありました。

そんな中、後半に入り「The Queen Of Thorns And Roses」や「Come On Over」あたりからは初期のMSGっぽさ(後者はMICHAEL SCHENKER GROPというよりはMcAULEY SCHENKER GROUPっぽいかもしれませんが)も表出している。で、そういう楽曲をマイケル・ヴォスやロニー・ロメロという安心安定のシンガーが歌うというのも非常に腑に落ちるという。あと、ジョーが歌う「Sangria Morte」もMSGとRAINBOWの中間ぽくて好印象。リフワークやソロは完全にシェンカーそのものですが。

結局ね、聴く前は「なんでこれをMSG名義でやるかなあ」と貶そうくらいの気持ちでいたんですが、最初に聴き終えたときに満喫しまくっている自分に気づいたんです。ああ、いいアルバムだなあって。そういうことなんです。名前や枠やガワなんて今のシェンカーにはどうでもよくて、中身こそがすべてなんだと。本当にいいHR/HMアルバム、それで十分です。

 


▼MICHAEL SCHENKER GROUP『IMMORTAL』
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2020年10月 3日 (土)

DEREK SHERINIAN『THE PHOENIX』(2020)

2020年9月18日にリリースされたデレク・シェリニアンの8thソロアルバム。日本盤は同年9月30日に発売されました。

DREAM THEATER、現在はSONS OF APOLLOやBLACK COUNTRY COMMUNIONのキーボーディストとして活動中のデレク。ソロアルバムは『OCEANA』(2011年)以来、実に9年ぶりとなります。

全8曲から構成された本作は、過去のソロ作でもタッグを組んできたサイモン・フィリップス(Dr)との共同プロデュース作。サイモンは全曲でドラマーも務めており、デレクとサイモン以外は各曲ごとに異なるギタリスト/ベーシストを迎えています。

オープニングを飾るタイトルトラック「The Phoenix」では、過去のデレクのソロ作にも参加した経験を持つザック・ワイルド(G/BLACK LABEL SOCIETYOZZY OSBOURNEZAKK SABBATH)と、SONS OF APOLLOのバンドメイトであるビリー・シーン(B/MR. BIG、THE WINERY DOGSなど)、テルミン奏者のアルメン・ラーが参加。ザックとビリーのユニゾンプレイもさることながら、2人に触発されてデレクもインタープレイを聴かせてくれるところがポイントでしょうか。

2曲目「Empyrean Sky」では、同じくSONS OF APOLLOのロン“バンブルフット”サール(G)とジミー・ジョンソン(B/アラン・ホールズワースなど)と共演。SONS OF APOLLO的なヘヴィさもにじませつつも、シンセの音色&フレーズにより全体的にはフュージョン色が強い印象を受けます。3曲目「Clouds Of Ganymede」ではスティーヴ・ヴァイ(G)&トニー・フランクリン(B)という名手たちと共演。ヴァイがプレイすることで全体がヴァイ色に染まり、デレクのフレージングも自然とヴァイっぽくなってしまうのはご愛嬌。4曲目「Dragonfly」はアーネスト・ティブス(B)とのトリオ編成。アーネストはサイモンとの縁から参加したのでしょうか、シンセではなくピアノを軸にしたデレクのプレイと、ジャズ&フュージョン色濃厚なリズム隊のアンサンブルは前3曲とは異なる空気を醸し出しており、本作における良いアクセントとなっています。

中盤に入り、5曲目「Temple Of Helios」では再びバンブルフット&ジミー・ジョンソンと共演。プログレッシヴロック的でもありつつ、どこか往年のジェフ・ベック作品にも通ずるテイストが感じられ、改めてデレクってこういうことがやりたい人なんだろうなと感じました。6曲目「Them Changes」はバディ・マイルスのカバーで、本作唯一のボーカルナンバー。アーネスト・ティブスと、BLACK COUNTRY COMMUNIONのバンドメイトであるジョー・ボナマッサ(G, Vo)が参加しており、随所にテクニカルなプレイがフィーチャーされつつも軸はジョーのソウルフルなボーカルという、ほかの楽曲とは一線を画する風合いとなっています。7曲目「Octopus Pedigree」は本作3つめのバンブルフット&ジミー・ジョンソン共演曲で、ほか2曲との共通項も多い作風。ラストの8曲目「Pesadelo」はキコ・ルーレイロ(G/MEGADETH、ex. ANGRA)、トニー・フランクリン、アルメン・ラーという組み合わせの、ラテン風味のメタルチューンです。曲中盤にはキコのアコースティックギターもフィーチャーされており、先頃リリースされたキコのソロ作『OPEN SOURCE』(2020年)とひと味もふた味も違った良曲です。

デレクのソロ作に触れるのは本作が初めてのことで、そもそも個人的にもこの手のインストものはそこまで熱心に聴くタイプではありません。が、本作はSONS OF APOLLOの延長で楽しむことができました。キーボーディストのソロ作品ながらもギター比重が非常に高いので、少しでもギターを弾く素養のある方なら間違いなく堪能できる1枚だと思います。

 


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2020年2月 3日 (月)

SONS OF APOLLO『MMXX』(2020)

2020年1月中旬にリリースされたSONS OF APOLLOの2ndアルバム。

ご存知のとおりこの彼らはジェフ・スコット・ソート(Vo)、ロン“バンブルフット”サール(G)、ビリー・シーン(B)、マイク・ポートノイ(Dr)、デレク・シェリニアン(Key)というHR/HMシーンで一度は耳にしたことがある名前が一堂に会したスーパーバンド。特にマイクとデレクという元DREAM THEATER組がいることで、そのサウンドもプログレ・メタル的なものが求められたと思います(ビリーもNIACINでそれらしいことやってますしね)。

実際、デビューアルバム『PSYCHOTIC SYMPHONY』(2017年)はその期待に答えつつも、それだけでは終わらないモダンヘヴィネス感も兼ね備えた良作に仕上げられ、同作を携えたワールドツアーも80本以上にわたり敢行。昨年秋にはライブCD&映像作品『LIVE WITH THE PLOVDIV PSYCHOTIC SYMPHONY』(2019年)もリリースし、話題となったばかりです。

スーパーバンドにありがちな「アルバム1枚で終わる短命さ」も不安視された彼らでしたが、前作から2年強という昨今では比較的短いスパンで届けられた本作に喜んだファンも少なくないはず。そんな本作ですが、基本的には前作の延長線上にある1枚だと感じました。ただ、バンドとしてのアグレッションやノリは前作よりも優っており、そこは長期ツアーを経験したことで5人の関係性がより密になった結果なのかな。個々のソロプレイを尊重しつつも、最終的にはバンドとしての一体感を重視している。そんな印象を受ける1枚です。

ジェフのボーカルは相変わらず絶好調で、メロディラインも彼の声質や歌唱スタイルをうまく活かしたものになっていると思います。プログレメタルと表現したものの、本作はモダンヘヴィネス寄りな味付けも強く、バラード風だけどブルースロックをモダンメタル調に昇華した「Desolate July」、比較的ストレートなアレンジが施されているもののギターのフレージングにモダンさが散りばめられた「Fall To Ascend」など、一聴すると単調なようでも実は細部まで練り込まれている。DTでいったら『AWAKE』(1994年)あたりのテイストに近いのかなと感じました。そうか、だから自分は彼らの音が好きなのか。納得です。

1曲1曲は相変わらず長尺なものが多く、トータル58分に対し5分前後の楽曲が3曲、6分前後が2曲、7〜8分台が2曲のほか、ラストには約16分におよぶ超大作「New World Today」が用意されています。特に「New World Today」は評価が分かれるところかもしれませんが、僕個人としては好意的に受け取っています。実際、飽きなかったですし。

各メンバーのファンからすると「あれ、このフレーズって……」と焼き直しを不安視するフレーズも含まれているのかもしれませんが、そこまでディープなリスナーではない自分は終始楽しく聴くことができましたし、昨年試聴サンプルを頂いてから今日まで頻繁に聴き返している1枚。難しいことを考えず、いや考えすぎずにこの音の洪水に身を委ねてみてはいかがでしょう。

あ、ちなみに本作のデラックス盤にはアルバム収録曲のインストバージョンと、ボーカルのみを抜き出したアカペラバージョンを収めたボーナスディスクを付属。こちらもネタとしては面白いので(しかも各ストリーミングサービスにも用意されているので)、アルバム本編を十分に楽しんだあとに触れてみることをオススメします。

 


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2019年9月20日 (金)

SONS OF APOLLO『LIVE WITH THE PLOVDIV PSYCHOTIC SYMPHONY』(2019)

マイク・ポートノイ(Dr/THE WINERY DOGS、ex. DREAM THEATER)、デレク・シェリニアン(Key/ex. DREAM THEATER、ex. PLANET X)、ロン“バンブルフット”サール(G/ART OF ANARCHY、ex. GUNS N' ROSES)、ビリー・シーン(B/MR. BIG、THE WINERY DOGS)、ジェフ・スコット・ソート(Vo/SOTO)といった豪華メンバーにより結成されたSONS OF APOLLO。今回紹介するのは彼らがデビューアルバム『PSYCHOTIC SYMPHONY』(2017年)に続いて、2019年8月末(日本では同年9月中旬)にリリースしたライブ作品です。

本作は3枚組CD(日本盤のみ)、3枚組CD+DVD、Blu-ray単品(海外盤のみ)、3枚組CD+DVD+Blu-rayのボックスセット(海外盤のみ)といった複数仕様が用意されていますが、ここではデジタルリリースもされている3枚組CDの音源パートについて触れていきたいと思います。

本作は2018年9月22日、ブルガリア・プロヴディフの由緒ある古代ローマ劇場にて開催された、一夜限りのスペシャルライブの模様を収めたもの。ちょうど同年9月上旬に来日公演が行われており、その直後のライブ収録ということになります。

ライブは『PSYCHOTIC SYMPHONY』収録曲を中心にメンバー5人のみで進行する第1部(M-1〜11)と、地元のオーケストラとの共演からなる第2部(M-12以降)という2部構成となっており、CDではDISC 1にあたる第1部は2018年9月の来日公演を彷彿とさせるテクニカルかつエモーショナルなプレイを堪能することができます。また、このパートではDREAM THEATER「Just Let Me Breathe」、QUEEN「The Prophet's Song」「Save Me」といったカバー曲もフィーチャーされています(「ピンク・パンサーのテーマ」もカバーされていますけど、ここでは割愛)。特に後者はジェフによるディレイを多用したボーカルワークが楽しめるので、オススメです。

で、問題は第2部(DISC 2以降)。いきなりLED ZEPPELIN「Kashmir」から始まり、RAINBOW「Gates Of Babylon」、AEROSMITH「Dream On」(DVD/Blu-rayには未収録)、オジー・オズボーン「Diary Of A Madman」、PINK FLOYD「Comfortably Numb」(DVD/Blu-rayには未収録)、QUEEN「The Show Must Go On」、DREAM THEATER「Hell's Kitchen」「Lines In The Sand」、VAN HALEN「And The Cradle Will Rock」といったロッククラシックスの数々がカバーされています。バンドの演奏も原曲をベースに、らしいフレーズが挿入されており、しっかりSONS OF APOLLOらしさを表現できているように思います。

と同時に、ジェフが各曲を器用に歌い分けており、「Gates Of Babylon」でディオが憑依したかと思えば、続く「Dream On」ではスティーヴン・タイラーを降ろすイタコっぷりを発揮(笑)。また、元DTメンバーが2人いることもあってか、DTの楽曲を演奏すると客席から大歓声が湧くのが興味深いですね。個人的ツボは「Dream On」と「Diary Of A Madman」かな。前者はエアロがMTVの授賞式か何かでオーケストラと共演したときの名演を思い出させてくれる、素晴らしいコラボだと思います。そこから自然な流れで「Diary Of A Madman」へと続いていく構成/アレンジも参考で、本作のハイライトのひとつと言えるのではないでしょうか。

SONS OF APOLLOのオリジナル曲自体かなり長尺のものが多いですし、本作としても映像版は約150分、音源版は約170分とかなりの長尺な内容になっているので、時間的に余裕がないと存分に楽しめない作品かと思いますが、だからこそ余裕を持ってじっくりと浸っていただきたい内容です。改めて「最高のテクニックを持った人たちが最高の楽曲を演奏すると、ここまですごいことになる」という事実を、イヤというほどに思い知らされると思いますよ(笑)。

 


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2017年11月26日 (日)

SONS OF APOLLO『PSYCHOTIC SYMPHONY』(2017)

ヘヴィメタルが世界的に大きなヒットを飛ばした80年代後半になると、“スーパーグループ”と呼ばれるような組み合わせの新バンドがいくつか結成され話題になりました。MR. BIGなんてまさにそれでしょうし、BLUR MURDERBAD ENGLISHもそう呼べるでしょう。90年代に入りメタルシーンが低迷し始めると、解散したバンドのメンバーが集まって新しいバンドを組み始める。必然的にそれらは“スーパーバンド”と呼ばれても不思議じゃないメンツになっており、もはや「“スーパー”とは?」とスーパー感がごく当たり前になってしまったことで有り難みが薄れてしまった。それは2017年になった現在、より強まっているのではないでしょうか。

しかし、そんな自分ですら「そうきたか!」と思わせられた最新の“スーパーバンド”が、今回紹介するSONS OF APOLLO。マイク・ポートノイ(Dr)、デレク・シェリニアン(Key)、ロン・“バンブルフット”・サール(G)、ビリー・シーン(B)、ジェフ・スコット・ソート(Vo)という80〜90年代のHR/HMファンなら誰もが一度は名前を耳にしたことがあるであろう面々ばかり。マイクとデレクは90年代後半にDREAM THEATERで一緒だったし、ビリーは現在MR. BIGのみならずTHE WINERY DOGSではマイクと活動をともにしている。バンブルフットは元GUNS N' ROSESで現在はART OF ANARCHYのメンバーだし、ジェフは初期YNGWIE MALMSTEEN'S RISING FORCEのシンガーで、一時はJOURNEYにも在籍していた。過去に在籍したバンドをカードに勝負することがあったら、間違いなく“勝てる”組み合わせです。

そんな彼らが組んだSONS OF APOLLOのデビューアルバム『PSYCHOTIC SYMPHONY』は、このメンツから想像できる音=プロヴレッシヴメタルが展開されています。DREAM THEATER的でもあり、昨今のヘヴィ/ラウドロック的でもある。ボーカルがジェフという時点でDREAM THEATERに似ないことはわかっていましたが、ここまでオリジナリティに満ちあふれた存在感を打ち出すかと、一聴して驚かされました。

80年代以降のDEEP PURPLE的な側面もあり、90年代以降のプログレメタルのカラーもしっかり受け継いでいる。それでいて現代にも通用するラウド感を持ち合わせているんだから、強いったらありゃしない。

楽曲もいきなり11分超の大作「God Of The Sun」から始まり、中盤に9分超えの「Labyrinth」を配置しながら、ラストは11分近いインストナンバー「Opus Maximus」で幕を降ろす。その間には4分前後のコンパクトな楽曲が配置されており(それでも十分に“プログレ”してるんですが)、とにかく情報量と聴きどころ詰め込みすぎな印象。すべてを理解するには、3回、4回と何度も聴き込む必要があります。

けど、最近のアルバムって数回聴いて「しばらくいいか」と思ってしまうようなものも少なくないので、こういう密度が高くて「もっと理解したい!」と思わせてくれる力作との出会いは正直嬉しくもあるんですよね。

5人の個性と技術が克明に打ち出されたこのデビュー作をもって、彼らは2018年に本格的なツアーを行うそうです。これ、ライブで観たら本当にどうなっちゃうんだろう……今からドキドキとワクワクが止まらない、そう久しぶりに感じさせてくれた1枚です。

 


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