MRS. PISS『SELF-SURGERY』(2020)
MRS. PISSの1stアルバム。2020年5月29日のデジタルリリースに続いて、同年10月7日には日本盤CDがフィジカルリリースされました。
MRS. PISSはチェルシー・ウルフが新たに始動させたプロジェクトで、メンバーはチェルシー(Vo, G)のほか彼女のツアーメンバーでもあるジェス・ゴウリー(Dr)の計2名。ソロ名義ではアコースティックサウンドのシンプルな編成からエレクトロニクスを駆使したスタイルまで、アルバムごとに変化に富んだ形で音楽を届けてくれるチェルシーですが、本作ではミニマムなバンド編成で彼女のルーツのひとつであるニューウェイヴ/ポストパンクの影響下にある楽曲をストレートなサウンドで表現しています。
もともとチェルシーは、このプロジェクトでメタルやパンクに寄った方向性を考えていたようですが、ジェスと作業を進めるうちに90年代のグランジやインダストリアルの要素がどんどん加わり、結果的にはポストパンクやゴシックロックを通過したヘヴィ&サイケなスタイルが確立されたわけです。つまり、本作がチェルシー・ウルフ名義でリリースされない理由はこのジェスからの影響がアルバムの中で非常に大きく反映されているから。あえて差別化したということですね。
アルバムを聴けば「これをチェルシーのソロ名義で出したとしても違和感はない」けど、バンド名義で改めてリリースする理由も理解できる。アルバムといいながらも全8曲で約19分という単尺は往年のパンクやハードコアを髣髴とさせるものがありますが、このへんの初期衝動性も新たに生まれたバンドならではといったところでしょうか。また、デジタル版では差し替えられていますが、日本盤CDで目にすることができる過激なアートワーク、下品なバンド名、さらには女性が表現するにはお下劣と思われそうな歌詞含め、そういった自己の解放(=アルバムタイトルの『SELF-SURGERY』にも通ずる)がこのバンドのテーマであり、そういった意味でも名前を改めてリスタートする必要があったのでしょう(とはいっても、チェルシー・ウルフでのアーティスト活動を捨てたわけではありませんが)。
大半の楽曲が2分前後、短いものだとオープニングの「To Crawl Inside」みたいに1分に満たないものもありますが、どの曲も強い衝動性とともに(耳障りや居心地の悪さはありつつも)一度聴いたら抜け出せない中毒性をはらんでいる。たった19分ですが、その19分が永遠のようにも感じられ、気づくと何度もリピートしている自分がいます。
このバンド、この後もコンスタントに続けていくようなので、この処女作を経て次にどんな作品を届けてくれるのかも気になります。と同時に、ヘヴィ&ダークな『HISS SPUN』(2017年)とアコースティック&ブルースに片足を突っ込んだ『BIRTH OF VIOLENCE』(2019年)、そしてこのMRS. PISSを経てチェルシーのソロ作品が次にどんなないようになるのかも楽しみでなりません。
▼MRS. PISS『SELF-SURGERY』
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