FIRSTBORNE『FIRSTBORNE』&『SEPARATE WAYS (WORLDS APART)』(2020)
たまたま深夜にこのニュースを目にし、元LAMB OF GODのクリス・アドラー(Dr)がジェイムズ・ロメンゾ(B/ex. MEGADETH、ex. BLACK LABEL SOCIETY、ex. WHITE LION)とバンドを組んでいたことを知りました。
在籍時期は異なるものの、ともにMEGADETHに参加した経験を持つ2人が組むFIRSTBORNEというバンド。今年6月にセルフタイトルの5曲入りEPをデジタルリリースしていたそうで、こちら完全に見逃しておりました。
で、今回のニュースで知ったFIRSTBORNEのニューシングル「Separate Ways (Worlds Apart)」。ご存知のとおりJOURNEYが80年代前半にヒットさせた名曲カバーなわけですが、比較的ゴリゴリなイメージが強い2人がなぜこの曲を選んだのか、そしてどんな味付けをしているのか。気になってチェックしてみました。
そうしたらまあ……BPMも原曲よりアップさせ、全体的にゴリっとさせつつもメロウさはそのままという、なかなかな仕上がりのカバーで、個人的にかなり好印象。「クリス、バスドラ踏み過ぎだろ(笑)」というツッコミどころもあるものの、ボーカルを務めるGirish Pradhan(ギリッシュ・プラダーンと読むのでしょうか)の適度にハスキーでパワフルな歌声とマッチしており、安心して楽しむことができます。特に2番A〜Bメロでのフェイクなんて最高だし、エンディングで突如飛び出すグロウルにも思わずニンマリ。非常に“らしさ”がにじみ出た好カバーではないでしょうか。
また、ギタリストのMyrone(マイロンと読むのかな)のニール・ショーン(JOURNEY)を意識したプレイも好印象。この人はWEEZERのリバース・クオモとコラボしていたり、ミュージカル『ROCK OF AGES』でプレイしていたりと比較的裏方仕事が多かったようですが、だからこその的確なギタープレイなのかなと思いました。
にしても、冒頭こそあの印象的なシンセのリフがないものの、クリスのダイナミックなドラミングに続いて後ろから薄っすらと“あのリフ”が聴こえ始めると、思わず苦笑してしまいますよね。原曲をリアルタイムで通過した世代なら、そのへんなおさらじゃないでしょうか。でも、ここ10数年CMやスポーツ番組で初めて耳にした若いリスナーには新鮮に映るのかな。なんにせよ、個人的には大好物な1曲でした。
▼FIRSTBORNE『SEPARATE WAYS (WORLDS APART)』
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で、この1曲を起点に6月リリースの1st EPにも手を伸ばしてみました。だって、カバー1曲だけではこのバンドの真の姿はわかりませんものね。
なんともなアートワークに、最初こそ「ああ、そうだよね。元LAMB OF GODだし、元MEGADETH、元BLSだし……」と変な納得をしてしまいそうになりましたが、いざ音を聴いてみると……なるほど、JOURNEYをカバーするのも納得な音作り/曲作りでした。
ドラムの質感やミックスこそLAMB OF GODを思い出させるものでしたが、全体的には若干スラッシーなメロディアスハードロックといったところでしょうか。ギリッシュのボーカルや彼の個性を生かした曲作りと、その後ろで派手に鳴らされる各楽器のバランスが非常に絶妙で、楽器隊が前に出るときはしっかり前に出ているし、マイロンのギターも「Separate Ways (Worlds Apart)」のときより自由に暴れまくっている。クリスのドラミングも曲に忖度することなく、我の強さを突き通しているので、彼のファンもそれなりに安心して楽しめるのではないでしょうか(音楽的に趣味の範疇内ならばね)。
ちなみにギリッシュはインド出身で、地元ではGIRISH AND THE CHRONICLESというリーダーバンドを率いて10年以上にわたりメジャーシーンで活躍。クリスがドラムクリニックでインドを訪れた際、一緒にセッションしたのを機に知り合ったそうです。一瞬、JOURNEYにおけるアーネル・ピネダ(Vo)のようなシンデレラストーリーなのかなと想像したのですが、地元ではUniversal Music India所属ってことを考えると、それなりに成功していた方なんですよね。ギターのマイロンも裏方とはいえ、大ヒットミュージカルのバックバンドで長きにわたり活躍してきた人だし。そういった意味では「ベテランミュージシャンが無名の新人をフックアップして結成」というわけでもないのですよ、このバンド。だって、どの曲も完成度がめちゃめちゃ高いもの。
どれも3分前後にまとめられた楽曲群は非常にコンパクトに作り込まれたもので、職人的な技量の高さも伝わってきます。メロディセンスもかなり高いし、それを歌いこなすシンガーの技量、さらに負けじと個性を強く打ち出すプレイヤー陣の魅力。すべてにおいて完璧なEPではないでしょうか。
だからこそ、最初はフルアルバムを楽しみたかったなという気持ちもあるのですが、今はそういう時代じゃないのでしょう。まずはこれくらいで焦らすのがちょうどいいのかな。というか、そもそもフルアルバムという概念自体が彼らにあるのか、ないのか……。
なんにせよ、息の長い活動に期待したいと思います。
▼FIRSTBORNE『FIRSTBORNE』
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