T. REX『THE SLIDER』(1972)
1972年7月21日にリリースされたT. REXの3rdアルバム。TYRANNOSAURUS REX名義を含めると、通算7作目。
前作『ELECTRIC WARRIOR』(1971年)で初の全英1位を獲得し、アメリカでも初のTOP100入り(最高32位)を果たしたマーク・ボラン(Vo, G)率いるT. REX。翌1972年春に発表したコンピ盤『BOLAN BOOGIE』も全英1位を記録し、「Hot Love」(全英1位、全米72位)、「Get It On」(全英1位、全米10位)、「Jeepster」(全英2位)、「Telegram Sam」(全英1位、全米67位)、「Metal Guru」(全英1位)と本国イギリスでは飛ぶ鳥を落とす勢いの中このアルバムがドロップ。イギリスでは最高4位と前作には及びませんでしたが、アメリカでは最高17位とキャリア最高位を記録しました。
当時のマーク・ボランの勢いがそのまま反映された、オープニングを飾る「Metal Guru」のいかがわしさ&ゴージャスさこそがこのアルバムのすべて。「グラムロックとは何ぞや?」という問いに最適な答えを与えてくれるのが、このアルバムではないでしょうか。ハットを被ったマークのモノクロ写真に赤字のバンドロゴという、シンプルなんだけどどこかセクシーさを感じさせるアートワークもグラムロックの持つ猥雑さを伝えるに十分。セールス的には『ELECTRIC WARRIOR』がもっとも売れた1枚ですが、個人的には『ELECTRIC WARRIOR』以上に当時の世相とブームの熱がダイレクトに伝わる1枚だと感じています。
代表曲といえる「Telegram Sam」や「Metal Guru」はもちろん、タイトルトラック「The Slider」のルーズさ、のちにGUNS N' ROSESもカバーしたヘヴィな「Buick Mackane」、アコースティック調の穏やかさの中にもエロさが伝わる「Spaceball Ricochet」、重心の低いリズムの割りに軽快さがしっかり伝わる「Baby Strange」、タイトルのみならずサウンドや曲調からも同時期のデヴィッド・ボウイとイメージが重なる「Ballrooms Of Mars」、グルーヴィーなリズムと独特の浮遊感が気持ち良い「Chariot Choogle」、アルバムをラストを飾るにふさわしいアコースティック調のミディアムナンバー「Main Man」など、とにかく良曲揃い。今聴いてもまったく色褪せない内容です。
ボウイの『THE RISE AND FALL OF ZIGGY STARDUST AND THE SPIDERS FROM MARS』(1972年)やROXY MUSICのデビュー作『ROXY MUSIC』(1972年)と並んでグラムロックブームを代表する1枚。特にT. REXはアルバム未収録のシングルヒット(「Hot Love」や「Children Of The Revolusion」「Solid Gold Easy Action」「20th Century Boy」など)が多いため、初心者はグレイテストヒッツ・アルバムから聴くのが正しいのかもしれませんが、グラムロックというムーブメントの空気を追体験するという意味においては、この『THE SLIDER』から手を伸ばすのが正解のような気がしています。
バンドとしてのピークを本作で迎えたT. REXは、続く『TANX』(1973年)あたりまでその人気を維持しつつも、徐々に失墜。マーク・ボランは1977年9月16日に交通事故に遭い、29歳という若さでこの世を去ることになります。
▼T. REX『THE SLIDER』
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