R.E.M.『NEW ADVENTURES IN HI-FI』(1996)
1996年9月9日にリリースされたR.E.M.の10thアルバム。日本盤は同年9月25日発売。
前作『MONSTER』(1994年)から2年ぶりに発表された本作は、同作を携えたUSツアーの最中訪れた各地でレコーディングを実施。プロデューサーにはブレイク作『DOCUMENT』(1987年)からタッグを組むスコット・リット(INCUBUS、NIRVANA、HOLEなど)を迎えています。
アコースティックやカントリーのテイストを強めた『OUT OF TIME』(1991年)や『AUTOMATIC FOR THE PEOPLE』(1992年)、生々しいロックを取り戻した『MONSTER』と、ここ数作は作品ごとに趣向を凝らしてきた彼らでしたが、今作は録音した土地によって曲調やスタイルも異なることもあり、土着的な音楽とハードなオルタナティヴロックが交互に並ぶようなハイブリッドな作品に仕上がっています。例えば、オープニングを飾る「How The West Was Won And Where It Got Us」は『AUTOMATIC FOR THE PEOPLE』からの流れを汲む内省的な楽曲だとしたら、続く「The Wake-Up Bomb」は『MONSTER』の延長線上にあるガレージロック。以降もカントリーやフォーキーな楽曲とグランジ以降の流れにあるロックチューンが無作為に並びます。
“無作為に”と表現したのは、そこにストーリー性などドラマチックな構成が感じられないから。むしろ淡々とした流れがいかにも彼ららしく、制作過程なども踏まえるとどこかドキュメンタリータッチのロードムービーのようにも感じられます。アートワークといい、アルバムタイトルといい、本作における「旅」というキーワードは切っても切れないものがあるはずです。
作為的なドラマチックさがないぶん、アルバムは山を迎えることもなければ極端にダークな深みにハマることもない。全14曲がスルスルと、淡々に進行していき、気づけば65分というバンド史上最長のアルバムは終了している。そういう構成もあって、初めて聴いたときは特に印象に残らず、メジャーデビュー作『GREEN』(1988年)以降ではもっとも薄味なアルバムと認識していました。『AUTOMATIC FOR THE PEOPLE』や『MONSTER』という圧倒的な傑作のあとだけに、ここまでインパクトが薄いとそりゃそう感じてしまいますよ。
ところが、1曲1曲を取り上げると非常にクオリティの高い良曲が並んでいることに気付かされる。パティ・スミスをゲストに迎えた「E-Bow The Letter」や、『MONSTER』の進化系といえる「Leave」「Departure」、王道のR.E.M.流ロック「Bittersweet Me」「Electrolite」など、本当に粒揃い。結局、曲数が多くて尺が長すぎるのが災いして、かつ淡々とした作り/構成も影響して薄味に感じてしまうのかもしれません。これ、もう2曲くらい減らしたらまた違ったのかな(正直、10曲でもちょうどいいくらいかもしれない)。
作品というよりは記録(=Record)という色の強い本作ですが、このアルバム発売から1年後にオリジナルメンバーのビル・ベリー(Dr)が脱退。以降、R.E.M.はマイケル・スタイプ(Vo)、ピーター・バック(G)マイク・ミルズ(B)の3人にサポートメンバーを加える形で活動を継続。スコット・リットとも袂を分かち、次作『UP』(1998年)以降新たなプロデューサーを迎えることとなります。
本作発売から25年後の2021年10月29日には、リリース25周年記念2枚組エディションも発売。アルバム本編にはリマスタリングを施し、ライブ音源やリミックス、アルバム未収録のアウトテイクや別バージョンなどが収録されたボーナスディスクが付属しています。ただでさえ長尺なのに、曲数倍くらいになってるし(苦笑)。まあ、この機会に本作と改めて向き合ってみてもいいんじゃないでしょうか。
▼R.E.M.『NEW ADVENTURES IN HI-FI』
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