よくロックにありがちな「あのバンドの○×と、このバンドの△※が一緒に組んだ、スーパーバンド!」っていう表現。最近だと元GUNS N' ROSES組のスラッシュ、ダフ・マッケイガン、マット・ソーラムがSTONE TEMPLE PILOTSのシンガー、スコット・ウェイランドと共に新バンド・VELVET REVOLVERを結成‥‥とか、そういった類のもの。あるジャンルにおいて一時代を築いたアーティストが下火になり、再び新しいピークを求めて他の「一時代を築いたアーティスト」と手を組むなんてことは今や日常茶飯事。しかしこれらの殆どが「同時代に活躍したバンドの人間」だったり「同じようなジャンルの人間が、同じようなジャンルで新しい音を出す」といった類のもの。探求心とか冒険心というよりは、先のように「栄光よ、再び‥‥」的目的が先に来るのが見え見えなんですね。いや、それはそれで否定しようとは思いませんよ。個人的には面白い作品を発表してくれるんであれば、どんな組み合わせでもいいと思ってるし。
しかし今回紹介するバンド……THE POWER STATIONは上記の理由に当てはまらない、いろんな意味で「スーパーバンド」だったんじゃないでしょうか? ソロとしてそれなりに成功を収めてきたアダルトなシンガー、ロバート・パーマー。当時('80年代前半)飛ぶ鳥も落とす勢いだったヴィジュアル系アイドルバンド・DURAN DURANのメンバーだったアンディ・テイラーとジョン・テイラー、そしてファンク/ソウル・シーンで成功してきたCHICのメンバー、トニー・トンプソンとバーナード・エドワーズ。明らかに他ジャンル/年代もまちまち/接点が殆ど見られない組み合わせ。そんな彼等がひとつのユニットとしてアルバムを制作してしまう。しかもそこで生み出されたサウンドが、それぞれのメンバーがこれまでやってきたサウンドのどれにも当てはまらない、いや、それぞれの得意とするものを持ち寄った結果、異物を生みだしてしまったと言った方がいいでしょうか。それが1985年に発表されたこのアルバム、『THE POWER STATION』でした。
元々DURAN DURANのコンセプトに「SEX PISTOLSのようなパンク・アティチュードにCHICのようなファンク・サウンド」というのがあったと思います。実際、彼等は同じCHICのメンバーであるナイル・ロジャースをプロデュースに迎えて作品制作していましたし。またロバートとDURAN DURANのメンバーはある程度の面識があった。つまり、このプロジェクトはアンディとジョンが中心となってCHIC側、ロバート側双方に声をかけて実現したもののようです(確かロバートとCHIC側はこの時点まで互いに面識がなかったはず)。
このアルバムで聴けるサウンド、それはヘヴィでファンキーなリズムセクションの上でギターが暴れまくり、そこにロバートのアダルトでダンディな歌声が乗る‥‥という「ファンキーなハードロック」というような、それこそDURAN DURANともCHICともロバート・パーマーのソロとも違うもの。DURAN DURANでは線が細いイメージがあったアンディのギターもここでは歪みまくり、ソロになると弾きまくりといった「へっ、アンディってこんなに弾けたの!?」と驚きと、CHICとは一線を画するトニーのドラムプレイに唸ったり、ロバートの大人ならではの味わい深さに浸ってしまったり……これがリリースされた当時まだ中学生だった自分は「なんじゃこりゃ!?」と驚き、そして気づくと夢中になっていたのでした。アンディのギターが実は派手だということは、このアルバムよりも前にリリースされたDURAN DURAN初のライヴアルバム『ARENA』での彼のプレイを聴けばお判りいただけると思うんですが、あれ以上でしたね正直。で、このTHE POWER STATIONではただウルサイだけではなく、ちゃんとバランス良く弾けてるんですね。バッキングではDURAN DURANでも聴けるファンキーなコードストロークが更に味わえるし、ソロもアドリブ的というよりはちゃんと計算して弾いてる印象が強いし。何故彼がこのアルバムを通過し、そして後にDURAN DURANを脱退したかが何となく見えてくる1枚ですよね。
そしてジョン・テイラー。彼もベーシストとしては過小評価されることの多い人ですが、ここでのツボを押さえたプレイは派手というよりは地味な部類に入るものなんですが、よく聴いてみると非常に印象深いフレーズが多く、ドラムとギターが隙間を埋めるようなプレイなのに反し、ベースはわざと隙間を作るようなフレーズばかりなんですね。それが彼の個性であり、またこのバンドの土台をしっかり固めている。このアルバムで俺はジョンのことを見直した程ですから。
トニー・トンプソンの独特なドラム・サウンドですが、これがこのアルバム一番の魅力だと言い切ってもいいでしょう。バンド名と同じ「パワー・ステーション」という名のニューヨークにあるレコーディングスタジオで録音されたことから、当時はこのアルバムでのサウンドを「パワー・ステーション・サウンド」なんて呼んでいた人もいたとか。大きな特徴として所謂「ゲートリバーブ」を多用しまくったそのサウンド。ライヴでの再現が不可能に近いんじゃないか!?と思える辺りに、当時はこのバンドが「アルバム・オンリーのプロジェクト」だったことが伺えます。
しかし実際はツアーをすることになってしまい、それに異を唱えたロバートは脱退、代わりに元SILVER HEADのシンガー、マイケル・デ・ヴァレスが参加。このメンバーではツアーのみならず映画『コマンドー』(アーノルド・シュワルツェネガー主演)の為にオリジナル新曲を録音しましたが、映画ではエンドロール時に流れるものの、結局その後リリースされることはありませんでした(※のちに『THE POWER STATION』海外再発盤に収録)。当然その後、当然ながらアンディとジョンはDURAN DURANに戻っていき、『NOTORIOUS』のレコーディングに取りかかるのですが‥‥アンディはソロの道を選び脱退。それから10年以上経ってから復活したTHE POWER STATIONのセカンドアルバム制作時には、今度はジョンがTHE POWER STATIONとDURAN DURANを脱退。現在ではそのジョンとアンディもDURAN DURANに復帰し、今年の夏にオリジナルメンバーで来日したことは記憶に新しいでしょう。
そんなTHE POWER STATIONですが、今後二度と復活することはないでしょう。プロデューサーであるバーナード・エドワーズが'96年4月にここ日本で他界、ロバート・パーマーが今年の9月に、そしてトニーまでもが11月にこの世を去ってしまったのですから‥‥残ったのはDURAN DURAN組の2人のみ。淋しい限りです。
しかし、このアルバムを聴くとそんな寂しさもブッ飛んでしまいます。1曲目「Some Like It Hot」のイントロで聴けるトニーのドラム、アルバム全体を多くロバートの男臭いセクシーな歌声、そして「実はジョンではなく、バーナードが弾いてるのでは?」と当時疑惑のかかった「Get It On (Bang A Gong)」(ご存じT-REXの名カバー)でのベースソロ、THE ISLEY BROTHERSの名曲「Harvest For The World」で聴けるアンディの歌声とDURAN DURANでは味わえなかった彼のギタリストとしての本質‥‥これらは残されたこのアルバムを聴けば、いつでも味わえるわけですから。どの曲も基本的にポップで、そしてヘヴィでファンキー。上記に登場したアーティスト達に興味がある人も、ファンキーで黒っぽいロックが好きという人も、そしてモーニング娘。の「そうだ!We're ALIVE」という楽曲やそのサウンドが気に入っている人も、必聴盤ですよ(笑)。
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